HTLV-1感染モデルを用いた抗HTLV-1薬の探索および作用機序の解析

文献情報

文献番号
201318069A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1感染モデルを用いた抗HTLV-1薬の探索および作用機序の解析
課題番号
H24-新興-若手-018
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
上野 孝治(関西医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV-1)は予後不良の成人T細胞白血病やHTLV-1関連脊髄症(HAM)などを引き起こす。ATLやHAMなどHTLV-1関連疾患は未だ根本的な治療法は確立されておらず、治療法だけでなく発症予防法の開発が喫緊の課題となっている。これら疾患の発症率は高いプロウイルス量と相関する事が明らかとなっていることから、プロウイルス量の抑制、すなわち新規感染の抑制、感染細胞の増殖抑制、宿主免疫による感染細胞の排除の促進が有効であると予想される。そこで本研究では個体レベルでのプロウイルス量を指標に抗HTLV-1薬を探索し、新規発症予防法・治療法の開発を行う。抗HTLV-1薬の効果測定にはヒト免疫存在下でヒト細胞を標的とするHTLV-1感染モデルが必要であるが、近年、申請者らの研究室では、NOG-SCIDマウスにヒト造血・免疫系を再構築したヒト化マウスを構築し、これにHTLV-1を感染させることでATL様の病態を再現することに成功した。この感染モデルを用いて、これまでの研究からウイルス産生の抑制、免疫賦活化、感染細胞増殖抑制をなど介したプロウイルス量抑制が期待される抗HTLV-1薬候補化合物を評価し、その作用機序を明らかにする。
研究方法
1. HTLV-1感染マウスモデル作製
ヒト臍帯血から磁気ビーズ法によりCD133陽性造血幹細胞を単離し、NOG-SCIDマウスの骨髄内に移植した。移植後2~3ヶ月後に採血を行い、ヒト免疫細胞が生着し正常に分化したことを確認した。その後HTLV-1感染細胞を腹腔内投与することでHTLV-1感染を行った。
2. プロウイルス量の測定
モデルマウスから血液を採取し、ゲノムDNAを精製した後、HTLV-1 pX領域を増幅するプライマーセットを用いてRT-PCRを行い測定した。
3. 抗HTLV-1薬の投与
17-DMAG 300 µg/匹/日を感染2週後から6週後まで週5日腹腔内投与を行った。化合物A 75 mg/kg/日で感染2週後から4週後まで週5日腹腔内投与を行った。その後、経時的に採血しRT-PCRによりプロウイルス量を、FACSにより各種血液細数を測定した。
結果と考察
1. 17-DMAGの抗HTLV-1活性評価
17-DMAGはタンパクシャペロンHsp90の阻害剤であるGeldanamycin類縁体であり、in vitroにおいてHTLV-1 Taxタンパクの不安定化を誘導し、Tax発現細胞に対する増殖抑制効果を有する。in vivoにおける17-DMAGの抗HTLV-1効果を検証した。感染2週後から4週間投与した結果、コントロールのPBS群と比較して、有意にプロウイルス量の増加が抑制された。また、血中の感染細胞数やATLの特徴的所見であるCD25陽性CD4T細胞の割合もPBS群と比較して低く維持され、期間生存率も有意に亢進していた。以上の結果から17-DMAGは抗HTLV-1薬として非常に有望であると考えられた。

2. 化合物Aの抗HTLV-1活性評価
化合物Aは他のウイルス性疾患に対する既存の抗ウイルス薬であり、同クラスの薬剤と比較して副作用が低く、安全性が比較的高い。この化合物の投与により、血中プロウイルス量はPBS群よりも低く維持される傾向が認められたが、統計学的有意差は得られなかった。これはコントロール群で血中プロウイルス量が上昇せず、ATL様の症状が認められない個体が複数存在したことが主な原因であると考えられる。従って、確実な血中プロウイルス量の上昇を誘導するように、より強い感染条件へ変更する必要がある。また造血幹細胞の移植効率を向上させることで、安定的なデータを取得したり、投与量・期間を変更する等、再検証が必要であると考えられる。
結論
分子シャペロンHsp90阻害剤である17-DMAGは抗HTLV-1薬として非常に有望な候補化合物である。化合物Aも有効であると期待されるが、さらに検討が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201318069Z