エンベロープウイルス粒子形成の分子基盤の解明と創薬に向けた研究開発

文献情報

文献番号
201318068A
報告書区分
総括
研究課題名
エンベロープウイルス粒子形成の分子基盤の解明と創薬に向けた研究開発
課題番号
H24-新興-若手-017
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
森田 英嗣(大阪大学微生物病研究所 感染症国際研究センターウイルス研究グループ)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 フラビウイルスは、一本のプラス鎖RNAをゲノムとしてもつRNAウイルスであり、主に蚊やダニ等の吸血性の節足動物によって媒介され伝播する。また、フラビウイルスには、日本脳炎ウイルス (JEV) 、デングウイルス (DENV) 、西ナイルウイルス、黄熱ウイルス、ダニ媒介脳炎ウイルスなど、高い病原性を示すウイルスが含まれ、毎年このウイルス感染症によって多くの死者が出ている。特に、デングウイルスは有効なワクチンや治療法がなく、熱帯地域を中心に毎年一億人を超える感染者がいるといわれ、大きな社会問題となっている。また、本邦においても、地球温暖化に伴い輸入感染症としてリスクが徐々に高まっており、治療法の開発などを含めた早急な対策が求められている。本研究は、抗フラビウイルス薬開発につながる分子基盤の確立を目指し、フラビウイルス共通因子として作用する同定されたAAA-ATPase:VCPに着目して、ウイルス増殖におけるVCP作用機序の解明を試みた。
研究方法
デングウイルスに代表されるフラビウイルスは、感染すると宿主細胞の小胞体近傍に複製オルガネラと呼ばれる新たな構造物を形成する。本研究では、デングウイルス感染 Huh7細胞のウイルス複製オルガネラ陽性画分の定量プロテオミクス解析と結合因子の網羅的解析を行い、感染特異的に複製オルガネラへリクルートされる宿主因子を同定した。
 この解析によって同定された候補遺伝子群VCP及びVCP関連因子群に対して、各種ドミナントネガティブ変異体の発現と、siRNAによるノックダウンを行い、ウイルス増殖がどのように変化するのか検討した。また、各種候補因子がウイルス感染細胞の何処に局在するのか、間接免疫蛍光染色法によって解析した。
結果と考察
フラビウイルスは、感染後、宿主細胞内膜系を大規模に再構築し、ウイルスゲノム複製に特化した複製オルガネラと呼ばれる構造物を小胞体 (ER) 近傍に形成する。本研究では、これまでにJEV又はDENV感染細胞より抽出した複製オルガネラに対して行われた、網羅的プロテオミクス解析によって得られた知見を基に、さらなる宿主因子の検索を試みた。まず、網羅的プロテオミクス解析によって同定された因子群に対して、種々のバイオインフォマティクス解析を行い要解析因子として137種類の因子をピックアップした。これら因子に対して2-4種類のsiRNAを合成し、それぞれの遺伝子のノックダウンがJEV及びDENVの増殖にどのように影響を与えるのか調べた。その結果、JEVでは34種類、DENVでは51種類の因子をノックダウンした場合に、コントロールと比較して著しいウイルス増殖抑制効果があることがわかった。また、そのうち13種類の因子はJEVとDENV共に作用するフラビウイルス共通因子であった。本研究では、フラビウイルス共通因子としてVCPに着目して、更なる分子機構の解明を試みた。 VCPは、VCPと複合体を形成するコファクターがウイルス蛋白質と結合し、VCP複合体をウイルス複製サイトへリクルートする働きがある可能性が示された。コファクターであるNpl4-Ufd1はNS2Bへ結合し、また別のコファクターであるp47はNS3と結合することがプルダウンアッセイによって確認された。また、VCPのATPase活性を特異的且つ可逆的に阻害する化合物: DBeQの抗ウイルス効果について調べたところ、感染直後の段階で、10μMのDBeQをたった4時間パルス処理するだけで、細胞障害を伴わずに、ウイルスの増殖が1/100程度に抑制されることを見出した。VCPは様々なコファクターと共にユビキチン化凝集蛋白質の解離に作用することが知られており、これら分子機構が何らかのかたちでウイルス複製オルガネラ形成に関与している可能性が示された。今後、本研究によって明らかとなったVCPコファクターの結合の詳細な解析や、立体構造の解明によって、宿主因子とウイルス因子との結合を特異的に阻害する薬剤の開発が可能となり、抗デングウイルス薬の開発の為の重要な知見が得られることが期待される。
結論
本研究によって、VCPがデングウイルス及び日本脳炎ウイルスの増殖に関与する可能性が明らかにされた。今後、VCP-ウイルス蛋白因子相互作用をさらに解析することによって、VCPの作用機序が明らかになる、抗ウイルス薬開発につながる情報を提供できる可能性がある。さらに、宿主因子-ウイルス因子相互作用の構造を明らかにすることによりin silicoでの創薬につながる情報が得られると期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201318068Z