SFTSの制圧に向けた総合的研究

文献情報

文献番号
201318063A
報告書区分
総括
研究課題名
SFTSの制圧に向けた総合的研究
課題番号
H25-新興-指定-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所(国際医療福祉大学塩谷病院) 感染病理部(中央検査部))
研究分担者(所属機関)
  • 西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 森田 公一(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 森川 茂(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 有川 二郎(北海道大学大学院 医学研究科)
  • 加藤 康幸(国立国際医療研究センター)
  • 調 恒明(山口県環境保健センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は致死率が比較的高いマダニ媒介性ウイルス感染症で,その病原体はブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類される新規ウイルス,SFTSウイルス(SFTSV)である.SFTS流行地域での安全・安心につながる対策を有効に行うための科学的知見を得ることが目的である.
研究方法
 以下の事項に関する研究を行った.1)日本におけるSFTSの疫学,SFTSVへの感染リスクを明らかにする,2)日本国内でのSFTSの診断体制を整備し,正確にSFTSをウイルス学的に診断することにより,疫学・病態・感染リスクを明らかにする,3)日本で分離されたSFTSVに関するデータに基づいて,より高感度な遺伝子検出法,SFTSV抗原・抗体検出のための診断システムを開発する,4)国内のSFTSの疫学や臨床的特徴・発症病理を明らかにする,5)診断,疫学調査に必須となる超高感度SFTSV検出系を開発する,6)治療や予防法の評価に必要な感染動物モデルを開発する7)診断・治療(抗ウイルス薬)・予防法(ワクチン開発を含む)の開発基盤を整備する,8)日本におけるSFTSVの自然界における存在様式を明らかにしてヒトへの感染リスクを明らかにする,9)患者の臨床対策として院内感染予防対策,診断・治療ガイドライン,患者搬送ガイドラインを作成する.
 日本におけるSFTSの疫学の概要を明らかにした.各地方衛生研究所に整備されているRT-PCR法の診断における有用性を再検討するとともに,それに基づき前方視的にSFTSと診断された患者の疫学的情報を解析した.SFTS患者の病理標本を用いて,病理学的な特徴を明らかにした.SFTSに対する抗体測定法,遺伝子増幅法を開発した.特にSFTSVの日本分離株の塩基配列に基づき,リアルタイムかつ定量的な高感度SFTSV遺伝子増幅法を開発した.リバビリン等の抗ウイルス薬のSFTSVへの増殖抑制効果を明らかにした.SFTS流行地における感染予防のための後方のあり方等についても検討した.日本全国に生息する動物中におけるSFTSVに対する抗体陽性率,マダニにおけるSFTSV遺伝子陽性率等を調べた.
結果と考察
 後方視的研究を通じて2012年以前にSFTS患者が初めてSFTSと診断された患者を含めて11名(11人中6人が死亡)いたことを見出した.臨床症状や検査数値,年齢,居住地,季節性には特徴が認められ,西日本に多い,患者は高齢者に多い,病態として凝固系の異常,血球貪食症候群,多臓器不全が多くの患者で認められた,等の特徴が明らかにされた.2013年には40人(うち13人が死亡)のSFTS患者が報告された.日本で分離されたSFTSV遺伝子の塩基配列を決定し,中国株のそれらと比較したところ,SFTSV日本株は中国株とは独立して位置し,更に日本株内でも遺伝子型が複数あることが明らかにされた.日本株の塩基配列に基づく定量RT-PCR法を確立し,血中ウイルス量と予後に関連があることを見出した.抗体検出法としてELISA法,中和抗体法,間接蛍光抗体法を開発し,それらの診断および血清疫学研究における有用性が確認された.SFTSの回復者の血清が高い(中和)抗体価を示すことが証明された.SFTS患者の病理学的解析がなされ,SFTSの病態解明に重要な所見が得られた.
 九州から北海道の26自治体において,植生マダニとシカ付着マダニ(18種約5,000匹)を調査したところ,タカサゴキララマダニ,フタトゲチマダニ,キチマダニ,オオトゲチマダニ,ヒゲナガチマダニ等から,SFTSV遺伝子が検出されたが,保有率は5-20%程度とマダニの種類により違いがあった.一方,調査した27自治体のうち17自治体で抗体陽性シカが確認され,SFTS患者発生自治体では陽性率が高い傾向が見られた.イヌ(主に猟犬)は,調査した19自治体のうち10自治体で抗体陽性動物が確認された.
 SFTS患者が報告されている西日本だけでなく,その他の地域に生息しているマダニからもSFTSVゲノムが検出されていること,抗体陽性動物が存在することから,中部日本,東日本の地域でも,SFTSVに感染する可能性がある.
 抗ウイルス剤のSFTSVの増殖抑制効果について評価し,インターフェロンα,リバビリン等に強い効果が認められた.また,SFTSVの細胞侵入機構,乳飲みマウスでのSFTSVの病原性と増殖性について詳細な研究がなされた.
結論
 SFTS感染症対策に関する研究が開始された.SFTSの疫学,臨床的,病理学的特徴が明らかにされつつある.また,日本におけるSFTSVの自然界における存在様式,分布について知見が蓄積されつつある.SFTSに関する継続した調査研究を前向きに実施し,少しでも患者数を減らし,予後を改善させることが望まれる.

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201318063Z