日本脳炎ならびに予防接種後を含む急性脳炎・脳症の実態・病因解明に関する研究

文献情報

文献番号
201318060A
報告書区分
総括
研究課題名
日本脳炎ならびに予防接種後を含む急性脳炎・脳症の実態・病因解明に関する研究
課題番号
H25-新興-指定-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 倉根 一郎(国立感染症研究所 )
  • 森島 恒雄(岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科)
  • 亀井 聡(日本大学 医学部)
  • 高崎 智彦(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 片野 晴隆(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 黒田 誠(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
21,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2012年秋に、日本脳炎ワクチン接種後に2名の死亡例が報告されたことから、厚生労働省は死亡原因について詳細な調査を実施すると同時に、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を含む19名の脳炎・脳症例についても検討が行われた。その結果、日本脳炎ウイルスは日本に存在し、今もなお脅威であること、ワクチンによる予防の必要性は高いことが確認された。一方、日本脳炎の報告数は年間10名未満が続いているが、予後の調査は十分に実施されていない。一方、急性脳炎(脳症を含む)も全数報告疾患であるが、原因不明の症例が多い。そこで、原因不明の急性脳炎の中に日本脳炎が紛れ込んでいないかについて検討し、日本脳炎が否定された場合は、網羅的PCRや次世代シークエンサーを使った解析により、一人でも多くの急性脳炎・脳症の原因究明を行うことを目的とした
研究方法
1)感染症発生動向調査に基づいて報告された急性脳炎(脳症を含む)症例のうち、原因について年齢別に検討し、わが国の急性脳炎の実態を明らかにする。2)原因不明急性脳炎(脳症を含む)患者の臨床検体(血液、髄液、咽頭拭い液、尿、便)を収集し、日本脳炎を鑑別する。3)日本脳炎が否定された場合は、ウイルスの網羅的検索をreal-time PCR法を用いて実施する。4)PCR法による網羅的検索によっても原因究明がなされなかった場合は、次世代シークエンサーを用いて解析する。
結果と考察
感染症発生動向調査により報告された急性脳炎(脳症を含む)について疫学的に解析を行った結果、長期間報告数0の自治体があった。急性脳炎・脳症症例の症状や検査結果等について疫学的に解析するために、電子媒体による報告フォームを作成し、解析を補助するツールの作成を行うとともに、感染症発生動向調査の届出票(日本脳炎、急性脳炎)の作成も容易にできるようにした。臨床検体の保管方法はその後の検査の質を確保するために極めて重要であるため、検体採取ならびに輸送方法についてマニュアルを作成した。in houseで日本脳炎IgM抗体検出用キットを作成し、ベトナム・カンボジア・ラオスの日本脳炎検体(陰性を含む)の確認検査を実施し、評価した結果、高い一致率が得られた。岡山大学病院ならびに関連施設で入院加療した急性脳炎(脳症を含む)症例66例を検討した結果、44例で病原体が判明した。「日本発」の「日本における」診療ガイドラインの構築が極めて重要との認識に立脚し、細菌性髄膜炎における新たな診療ガイドライン作成作業が行われ、本研究班でも紹介された。平成25年11月に、厚生労働省健康局結核感染症課から全国の自治体に対して、急性脳炎として報告された患者のうち、地方衛生研究所等において病原体が確認されない場合、又は、地方衛生研究所等での検査が困難と判断された場合については、本研究班で詳細な解析を行う準備ができていることが連絡された。これにより、多くの自治体、医療機関から研究班に問い合わせがあった。その結果、平成25年10月~26年2月までに原因不明12症例61検体が国立感染症研究所に搬入されたが、日本脳炎はすべて否定された。ウイルスの網羅的検索を行った結果、1例の血液・その他複数の臨床検体からCoxB3ウイルス遺伝子が同定された。中枢神経系の検体が得られなかったことから、脳炎の原因であるかどうかの確定は困難であったが、本症例は組織学的に心筋炎の所見が得られ、病態の原因と考えられた。別の1例では、急性期の血漿からHHV-6 DNAが検出され、回復期の血漿からは見つからなかったこと、抗体価の有意上昇が医療機関での検査から明らかになったことによりHHV-6による脳炎・脳症が疑われた。網羅的PCRでウイルス遺伝子が検出されなかった場合は、次世代シークエンサーでの解析を実施した結果、2例からCoxB4、これまであまり検出されたことがない病原体が検出された。検体の中には、内部コントロールが得られない検体が存在した。
結論
急性脳炎(脳症を含む)は全数把握疾患であるが、数年間報告0の自治体があったことから、全例の患者報告がなされていない可能性が考えられた。また、検体の採取、保管、搬送方法について検討が必要と考えられ、医療機関では、急性期の血清、髄液、咽頭ぬぐい液、尿、便について小分けにして冷凍保管しておくことが重要であると考えられた。急性期の髄液の入手が困難な症例が多いことから、日本脳炎の診断には、発症からある程度経過した髄液中のIgM抗体検出が重要であると考えられた。適切な検体の採取、保管、搬送を徹底し、一人でも多くの原因不明脳炎症例の原因を究明する必要があると考えられた。また、臨床・疫学・基礎の連携が重要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201318060Z