高齢者に対する有酸素運動の継続が長期予後に及ぼす影響

文献情報

文献番号
199800245A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者に対する有酸素運動の継続が長期予後に及ぼす影響
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小林 正(愛知医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小川斉(愛知医科大学)
  • 佐藤昭彦(大同病院)
  • 武者春樹(聖マリアンナ医科大学)
  • 太田敬(愛知医科大学)
  • 町田和子(国立療養所東京病院)
  • 後藤純規(国立療養所中部病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
7,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者、とくに有病高齢者に対する有酸素運動の継続や日常生活における運動習慣が体力、QOL並びに予後に及ぼす影響を明らかにすることである。
研究方法
1)健常高齢者と有病高齢者に2年間に亘って有酸素運動を実施し、その効果に差があるか否かを検討した(小川)。2)有酸素運動療法に参加、5年を経過した有病高齢者を施設利用継続群と中止群に分け、さらに運動療法に参加しなかった対象群の3群について身体活動量、体力、予後並びにQOLを比較検討した(小林)。3)高齢高血圧患者の日常生活における運動習慣が身体活動能力及びQOLに及ぼす影響を2年間に亘って検討した(佐藤)。4)高齢心筋梗塞患者の日常生活と予後について2年以上に亘って検討した(武者)。5)間歇性跛行症例に対する運動療法がQOLと生命予後に与える影響を検討した(太田)。6)慢性呼吸器疾患における呼吸リハビリテーションの長期効果について検討した(町田)。7)上肢エルゴメーターによる有酸素運動療法としての有用性を検討した(後藤)。
結果と考察
健常高齢者28名と循環器系有病高齢者16名に運動療育センターにて2年間に亘ってトレーニングを行い、運動療法の効果に差が生ずるか否かを検討した。有病高齢者はトレーニング前は体力は劣っていたが、後ではpeak VO2は大となり、上体おこしや全身反応時間なども改善した。体力が低下している有病高齢者の方が効果は大であったが、健常者の体力も殆ど不変で、体力の維持に有効であると思われた。5年に亘って施設を利用して運動療法を継続した有病高齢者は43名中13名であったが、一日歩数は増え、体力は維持され、上体おこしや全身反応時間は改善されていた。後2者の改善には運動療育センターにて種々のトレーニングを取り入れていた成果と思われる。中止群は30名あり、施設で運動を継続させる難しさを知らされた。しかし、中止群の成績も継続群とほぼ同様であった。その理由は最終のメディカルチェックを受けた人は殆どが運動習慣を有していたためである。なお、中止理由の第1位は体調不良で基礎疾患の増悪4名、偶発症6名であった。
死亡、入院を含めた疾病予後は対照群>中止群>継続群の順に悪く、自覚的体力(QOL)は継続群のみ維持されていた。従って、運動の継続は長期予後も含めていかに多くの福音をもたらすかが明らかにされた。
各疾患ごとに行われた日常生活における運動習慣が身体活動能力やQOLに及ぼす影響や生命予後について検討した。
高齢高血圧患者の2年間に亘る運動習慣の有無では、有り群(54名)が無い群(40名)に比し、また継続群(40名)は中止群(17名)に比し、身体活動能力は有意に優っていたが、QOLは継続群と中止群で差がみられたのみで、この2年間で運動を始めた群(17名)も身体活動能力の割にはQOLの向上はみられなかった。以上の結果は日常生活の運動は長期に継続すること、早期に始めることが有効であることを示している。
心筋梗塞慢性期患者の日常における運動習慣と予後を2年以上に亘って検討した。
高齢者(26名)は若壮年者(28名)に較べて運動習慣化は81% VS 68%と高く、30ヶ月時点での予後調査(126名)では生存曲線は年齢別、運動習慣の有無では差はなく、イベント発生頻度は高齢者は若壮年者に比べて高く(10% VS 6%)、運動習慣を有する者においては低い傾向(8.5%)を認めた。従って、心筋梗塞慢性期の運動習慣は生命予後には明らかな差を認めなかったが、イベント発生率を抑え、高齢者においては運動習慣のコンプライアンスが高いことから、QOLの維持に役立っているものと思われた。
間歇性跛行肢に対する運動療法は歩行能力を改善することを報告してきたが、今回はQOLと予後との関係について検討した。過去9年間に運動療法を施行した31名を対象にQOLに関するアンケート調査を行った。、19名から回答があったが、10点評価で中間値の5点をつけたものが8例を占めた。5年生存率は93.5%と対照とした血行再建術226名の72.5%より良好であった。運動療法群は軽症例と云うこともあるが、運動療法は生命予後をも改善する可能性が示唆された。
慢性肺気腫患者144名に呼吸リハビリテーション後の追跡調査を行った。平均19ヶ月後のQOL(息切れ)は改善、不変、悪化がほぼ同数で、悪化群では30分以上の運動や体操の実施率が前2者より低く、在宅での運動療法が息切れの悪化防止に役立つことが明らかにされた。また、排痰・呼吸訓練器フラッターによる長期訓練(継続率85%、平均14ヶ月)は去痰を容易にし、腹式呼吸や息切れを楽にし、動脈血ガスを改善した。以上の結果は慢性呼吸器疾患々者においても運動療法はQOLの改善に有効で、フラッターを併用すると更に効果があがることが示唆された。
以上の成績並びに考察より、有酸素運動、とくに歩行を中心とした低強度の有酸素運動の継続は、慢性の循環器疾患や呼吸器疾患を有する高齢者においても明らかな体力の向上までは得られないにしても、QOLの維持には十分役立ち、生命予後にも好影響があるものと思われる。
しかしながら、足腰に疾病のある患者には歩くという有酸素運動は不可能である。そこで上肢エルゴメーターを用いた運動療法の有用性を検討した。上肢の運動は筋肉量が少ないため、muscle pumpが小で、血圧上昇が生じやすく、有酸素運動としては下肢の運動より劣ると考えられているが、高血圧患者5名(平均年齢78.4±8.8歳)を対象にトレーニングメニューを設定、4週間施行後、血圧上昇や心拍数増加は和らげられ、安全に施行出来ることが立証された。今後、足腰に疾患がある人以外に片麻痺患者にも応用できるものと思われる。
結論
高齢者に対する有酸素運動の継続は体力やQOLを維持させ、心血管系事故予防に役立つ可能性が示唆された。継続、習慣化の成否は如何にして健康感を抱かせるか、そして偶発症の併発を抑えるかにある。

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