培養細胞感染系の確立されていない病原体の実験技術の開発と予防診断法に関する研究

文献情報

文献番号
201318050A
報告書区分
総括
研究課題名
培養細胞感染系の確立されていない病原体の実験技術の開発と予防診断法に関する研究
課題番号
H25-新興-一般-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
石井 孝司(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 片山 和彦(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
  • 李 天成(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
  • 染谷 雄一(国立感染症研究所 ウイルス第二部 )
  • 松尾 理加(楠本 理加)(国立感染症研究所 病原体ゲノム解析研究センター)
  • 鈴木 哲朗(浜松医科大学医学部)
  • 勝二 郁夫(神戸大学大学院 医学系研究科)
  • 鈴木 亨((独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所)
  • 中西 章(国立長寿医療研究センター研究所 老化制御研究部)
  • 本村 和嗣(大阪大学微生物病研究所)
  • 遠矢 幸伸(日本大学生物資源科学部)
  • 佐藤 俊朗(慶応義塾大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
26,000,000円
研究者交替、所属機関変更
平成26年度より、松尾理加から柊元 巌に研究分担者が交代する。(異動のため)

研究報告書(概要版)

研究目的
すでにヒトにとって重要な疾患の原因であることが判明しているか、何らかのヒト疾患との関連性が強く示唆されているにも関わらず、培養細胞系が存在しないか、あるいは培養細胞系での増殖効率が非常に悪いために研究の進展が大きく制約されているウイルスによる疾患について、バキュロウイルス系や哺乳類細胞系などを用いたVLPの作製と診断系への応用、感染感受性細胞の検索などを行うことにより、これらのウイルスの感染増殖、病態発現機構の解析、これらのウイルスが原因となる疾患の診断、予防を可能にする。
上記のようなウイルスを増殖させることができる新規培養系の確立に取り組むことにより、特にヒトノロウイルスやサポウイルスを効率よく増殖させることが可能な培養細胞系を確立できれば、これらのウイルスの感染増殖、病態発現機構の研究を劇的に進展させることが可能になる。また、このような培養細胞系が確立できれば、ウイルス感染防止やウイルス増殖阻害物質の研究の進展も期待でき、疾患予防や治療法の開発に貢献できる。
研究方法
食中毒、下痢症の原因であるヒトノロウイルス(NoV)、サポウイルス(SaV)、ロタウイルス、最近同定された新規ヒトポリオーマウイルス(MCV、KIV、WUVなど)、子宮頸癌の原因ウイルスであるヒトパピローマウイルス(HPV)、ウイルス性肝炎の原因ウイルスであるE型肝炎ウイルス(HEV)を対象とし、診断技術・実験モデルの開発、予防・治療法開発のための基盤研究等を包括的に行った。各ウイルス材料よりcDNAを単離、組換え抗原発現系を構築し、ウイルス様粒子(VLP)等の作製を行った。
結果と考察
1)抗原抗体診断系の開発と血清疫学解析
 293FT細胞を用いてHPV 6/16/18型のVLPを作製・精製し、日本人男性HIV患者での4価HPVワクチンの免疫賦与効果を検討したところ、ワクチン接種によりほぼ全ての被験者で抗体価の陽転が認められることが判明した。また、各VLPを蛍光標識することによりソーターを用いて同時にそれぞれに対する抗体を測定できる系を確立した。

2)実験モデルの開発とウイルス生活環の解析
 ヒトNoV(GII.3、GII.4、GI.I株)の全長cDNAをEF-1αプロモーター下流に組み込んで感染性粒子の産生を試みた。システムの検証に、サロゲートウイルスとしてマウスNoVを用いたところ、HEK293T細胞、COS7細胞にて感染性粒子が産生可能であることが明らかになり、宿主特異性を規定するのはウイルスのエントリーから脱核までのステップにあると予想された。内視鏡的に採取したヒト小腸・大腸上皮幹細胞の安定的な培養法および遺伝子操作技術を確立した。幹細胞は生体内の腸管上皮組織を擬似した組織構造体(オルガノイド)を形成し、永続的な培養が可能である。HEVのレプリコンを包埋した1回のみ感染できる増殖能のない擬似粒子の作成に成功し、ウイルス生活環の解析を開始した。

3)宿主免疫応答の解析と予防・治療法開発のための基盤研究
 次世代シークエンサーを用いて24例のノロウイルス配列を包括的に解析したところ、従来のダイレクトシークエンシング法では単独の遺伝子型しか検出されなかった例で、直近に国内で流行していた亜株や遺伝子型がマイナーな配列として検出され、様々な感染経路で混合感染が頻繁に生じている可能性が示唆された。糖鎖を利用したウイルス濃縮技術の開発を目指し、ポリペプチド鎖等を基盤としたシアロ糖またアシアロ糖の多価化合物によるヒトPyVの捕捉効果を解析し、シアロ糖の多価効果を明らかにした。Ferret HEVの構造蛋白を組換えバキュロウイルスで発現し、実験用フェレットからferret HEV-LPsを抗原とした抗体検出ELISA法によって抗ferret HEV IgGおよび IgM抗体が検出されたことから、実験用フェレットのHEV汚染が示唆された。
結論
培養細胞での感染増殖系が確立されていない病原ウイルス群について、VLP、psudovirion、近縁動物ウイルスモデルなど種々の新規技術、実験ツールを開発、取得した。これらを駆使して、ウイルス生活環、病態発現の分子機構解析、血清疫学的解析、更に、診断・予防・治療法の開発研究の進展が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201318050Z