小児の肝移植患者におけるワクチン接種の安全性・有効性に関する研究 

文献情報

文献番号
201318045A
報告書区分
総括
研究課題名
小児の肝移植患者におけるワクチン接種の安全性・有効性に関する研究 
課題番号
H25-新興-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 昭彦(新潟大学 医歯学系)
研究分担者(所属機関)
  • 笠原 群生(国立成育医療研究センター 臓器移植センター)
  • 竹田 誠(国立感染症研究所 ウイルス3部)
  • 宮入 烈(国立成育医療研究センター 感染症科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
6,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝移植児を受けた児は、移植後、免疫抑制剤を常時服用し、慢性的な免疫不全状態となり、多くの感染症に罹患するリスクにさらされる。その中で幾つかの疾患は、ワクチンで予防できる病気(VPD: Vaccine Preventable Diseases)であり、ワクチンいう予防手段が存在する以上、その接種は確実に行われ、これらの疾患から守られるべきである。一方で、特に生ワクチンは、免疫不全状態の児は、ワクチンによって疾患を発症するリスクがあり、一般的に接種は禁忌とされてきたが、免疫状態が許せば、接種によってこれらの病気から守ることが可能である。
これまで世界最大の小児の生体肝移植センターである国立成育医療研究センターでは、肝移植患者に対してワクチン接種を積極的に行ってきた。しかしながら、その開始時期、適応に関しては、科学的根拠に乏しい。したがって、接種前後の液性免疫と細胞性免疫機能の評価を行うことによって、より客観的なデータに基づき、より効果的で、より安全なワクチン接種を行うことが期待できる。最終的には、肝移植後の患者に対する予防接種ガイドライン作成のための基本的情報を提供し、テーラーメードのワクチン接種を実施することをその目的とする。
研究方法
① 肝移植前後のワクチンの効果、安全性の前方視的調査
1) 肝移植前の患者の評価
現時点(2014年4月)で、国立成育医療研究センターにおける肝移植患者数は、250名を超えている。移植をこれから受ける患者に対しては、移植前に接種可能なワクチンの接種を推奨してきた。その際、接種前の液性免疫と細胞性免疫を評価し、また、移植の入院時には、同様の検査を行い、既に接種したワクチンの効果を液性免疫と細胞性免疫の評価を行ってきた。
2) 肝移植後の患者の評価
移植後6, 9, 12, 18, 24か月に同様の液性免疫と細胞性免疫の評価を行ってきた。
3) 研究開始時に既に肝移植が終了している患者
研究開始時に既に移植の終了した患者においては、研究に参加した時点で、同様の液性免疫と細胞性免疫の評価を行い、免疫状態の把握を行ってきた。
4) 肝移植患者に対する予防接種ガイドラインへのデータ提供
以上の研究の結果から得られたデータを基に、生体肝移植患者に効果があり、かつ安全なワクチン接種が実施できるように、肝移植患者に対する予防接種ガイドライン作成のためのデータを提供した。
② 免疫学的評価
1) 液性免疫能(B細胞機能)
水痘、麻疹、風疹、ムンプスの生ワクチンに対して、EIA法を用い、抗体値を測定した。
 2) 細胞性免疫能(T細胞機能)
細胞性免疫は、抗体産生を行うB細胞の機能をコントロールしており、その機能は、多岐にわたる。特に細胞障害T細胞の機能は、抗原に対して生体が反応する重要な役割を果たしており、その機能の評価は重要である。この機能の評価を行うにあたり、麻疹、水痘、風疹抗原によるELISPOTを用いたリンパ球の細胞性免疫の評価を行った。
結果と考察
①肝移植前の液性免疫の評価
 肝移植前に麻疹、風疹、水痘、ムンプスワクチンを接種した患者(49名、48名、40名、41名)を対象に、移植後の抗体価と抗体陽性に関連する因子の解析を行った。各ワクチンに対する抗体陽性率は麻疹(46.7%)、風疹(89.4%)、水痘(67.5%)、ムンプス(51.2%)であり、風疹を除くすべての生ワクチン接種によって、十分な抗体の上昇が得られていないことが分かった。これは、多くの患者が1歳未満での接種を余儀なくされていることが原因と考えられた。
①肝移植後の液性免疫の評価
肝移植後、約2年経過した後の抗体価のデータを発表し、抗体陽転率は、麻疹、風疹、水痘、ムンプスでそれぞれ、77.5% (31/40), 100% (40/40), 66.7% (20/30), and 60.7% (20/33)であり、移植後、2年を経過し、接種された水痘、ムンプスワクチンによって、抗体陽転率は60%程度であり、陽転しなかった患者においては、追加接種の必要性を示唆する所見が得られた。
また、これらの患者では、ワクチン接種は、安全に実施され、実際に疾患を発症するなどの副反応は認められなかった。
②肝移植後の細胞性免疫の評価
上記の患者を対象に、水痘、麻疹、風疹に対するELISPOTによる細胞性免疫の評価を行ったが、その比較では、その相関は認められなかった。
結論
肝移植後のワクチン接種は、客観的データがなく、その接種に関する明確な基準は存在しない。したがって、現在採血を行っている患者のデータを把握することは極めて重要であり、更なるデータの蓄積と細胞性免疫評価が待たれる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201318045Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,300,000円
(2)補助金確定額
8,300,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,685,208円
人件費・謝金 636,000円
旅費 600,826円
その他 429,354円
間接経費 1,915,000円
合計 8,266,388円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2014-05-28
更新日
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