近隣地域からの侵入が危惧されるわが国にない感染症の発生予防に関する研究

文献情報

文献番号
201318043A
報告書区分
総括
研究課題名
近隣地域からの侵入が危惧されるわが国にない感染症の発生予防に関する研究
課題番号
H25-新興-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
苅和 宏明(北海道大学 大学院獣医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 好井 健太朗(北海道大学 大学院獣医学研究)
  • 有川 二郎(北海道大学 大学院医学研究科)
  • 西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 井上 智(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 伊藤 直人(岐阜大学 応用生物科学部)
  • 丸山 総一(日本大学生物資源科学部 獣医学科)
  • 林谷 秀樹(東京農工大学 大学院農学研究院)
  • 今岡 浩一(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 永田 典代(国立感染症研究所 感染病理部)
  • 早坂 大輔(長崎大学熱帯医学研究所 微生物分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
16,151,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 野生鳥獣類によって媒介される人獣共通感染症は人に感染すると重篤化するものが多く、世界各国で公衆衛生上の大きな問題となっている。これらの人獣共通感染症は病原体の分布域や宿主動物などが不明な場合が多く、発生予防が難しい。
 ダニ媒介性脳炎はマダニ類によって媒介される危険度の高い人獣共通感染症として知られ、ヒトに致命的な脳炎を引き起こす。ロシア、東欧各国を中心に年間8,000名以上の患者が報告されている。ハンタウイルス感染症は腎症候性出血熱とハンタウイルス肺症候群の2つの病型が知られ、いずれもげっ歯類によって媒介される。これまで中国、ロシア、ヨーロッパ、南北アメリカ大陸などで多く報告され、年間の患者発生数が5万人ほどとされているが、世界的に調査が不十分な地域が多く存在する。また、狂犬病は一旦発症すれば100%の致死率を示す致死的な脳炎で、WHOの報告によれば、世界中で毎年5万人以上が狂犬病によって死亡している。その他にも、国内外においてクリミア・コンゴ出血熱、ブルセラ症、バルトネラ感染症、および類鼻疽などの患者が報告されている。
 上記の感染症はいずれも野生動物によって媒介される重篤な人獣共通感染症であり、国内外における汚染地やヒトにおける感染状況に関する情報が不足している。そこで、本研究では信頼性の高い診断法を開発して野生動物を対象とした疫学調査を実施することにより、上記感染症の分布域や病原巣動物といった基礎的な疫学情報を得る。さらに、感染動物モデルを用いて、発症機序や重症化の機序を解析する。
研究方法
 ダニ媒介性脳炎ウイルスのE蛋白とウサギIgG抗体のFc領域を融合蛋白(E-Fc)として培養上清へと分泌させ回収した。長崎県各地およびベトナムでマダニを約1,000匹捕集し、種を同定した。さらにマダニの乳剤から、ウイルス遺伝子の検出を試みた。複数の病原性ハンタウイルスの核タンパク質(N)を用いて多項目同時検出用イムノクロマトグラフィー(Multiplex ICG)の開発を行った。クリミア・コンゴ出血熱ウイルスの糖蛋白を被った水疱性口炎ウイルスをベースとしたシュードタイプウイルスを作製した。狂犬病ウイルスの末梢神経侵入性の異なる固定毒2株(西ヶ原株及びNi-CE株)について、マウス運動神経細胞の初代培養系と筋肉細胞を用いて、病原性発現機序について解析を行った。外国産および在来種の無尾類5種14個体について、ブルセラ属菌の遺伝子検出と菌分離を実施した。和歌山県で捕獲された15頭の野生のニホンザルの血液からBartonella属菌の分離を行った。
結果と考察
 ダニ媒介性脳炎ウイルス(TBEV)のE蛋白をウサギIgG抗体のFc領域と融合させたE-FcをELISA法による血清中の抗TBEV抗体検出系へと応用したところ、中和試験の成績と比較して90%以上の高い相関性を示した。長崎県で採集したマダニからウイルス遺伝子の検出を試みたがSFTSVおよびフレボウイルスの陽性例は確認されなかった。ハンタウイルス感染症について、感染げっ歯類を対象とした、Multiplex ICGによる迅速診断法を開発した。クリミア・コンゴ出血熱ウイルスの代替としてBSL2施設で取扱い可能なシュードタイプを作製し、本シュードタイプを用いてCCHF患者の中和抗体価の測定が可能になった。末梢神経侵入性の異なる狂犬病ウイルス固定毒株である西ヶ原株とNi-CE株は、筋肉細胞におけるウイルスの増殖性が異なることで、末梢神経への侵入性に大きな違いが生じることが明らかになった。また、狂犬病ウイルスの末梢感染性には、筋肉細胞におけるIFN系の回避が重要であることが示唆された。外国産および在来種のイエアメガエル、デニスフロッグからそれぞれ1株、計2株が分離された。これらの分離株2株は、いずれも新規のブルセラ属菌であり、人に感染性があると考えられているB. inopinata近縁の新規ブルセラ属菌である可能性が示された。和歌山県で捕獲された15頭の野生のニホンザルの4頭(26.7%)から塹壕熱の病原体であるBartonella quintanaが分離されたことから、ニホンザルが塹壕熱の病原巣動物となっている可能性が示唆された。
結論
 本年度の研究成果により、安全で簡便かつ信頼性の高いダニ媒介性脳炎、ハンタウイルス感染症、およびクリミア・コンゴ出血熱の診断法を開発することに成功した。今後は新規に開発された診断法を用いて、近隣諸国におけるこれらの感染症の流行状況調査を行い、日本への侵入・流行の危険性を精査していく事が重要であると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

収支報告書

文献番号
201318043Z