老人痴呆患者の問題行動への対処法

文献情報

文献番号
199800244A
報告書区分
総括
研究課題名
老人痴呆患者の問題行動への対処法
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
齋藤 和子(千葉大学看護学部)
研究分担者(所属機関)
  • 小穴康功(東京医科大学霞ヶ浦病院)
  • 武村和夫(社会福祉法人穏寿会理事長)
  • 廣野恵子(老人保健施設米山爽風苑)
  • 津田ヨシエ(市川市社会福祉部)
  • 田中久江(広島県東広島保健所)
  • 佐藤美智子(秋田桂城短期大学看護学科)
  • 石津宏(琉球大学医学部)
  • 野口美和子(千葉大学看護学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老人痴呆患者では、初期の、軽症段階における保護・看護・介護のあり方が痴呆症状全体の進行、問題行動の出現に重要な役割をはたしている。そこでこの目的は1.問題行動出現のメカニズムを明らかにし、2.初期、軽症段階における、問題行動の緩和あるいは改善に導くような精神機能維持活動のプログラムおよび活動用の道具を開発し、3.殊に寒冷地、降雪地等、老人が閉居し、寝たきり状態に陥りやすい地域で、訪問看護・介護時に実施できるゲ-ムおよび遊具等を工夫、開発し、よって4.痴呆の重症化を予防し、問題行動を回避あるいは緩和する看護・介護の具体的方法を確立することである。
研究方法
分担研究者の分担課題によって調査研究あるいは臨床実践研究である。
結果と考察
各課題毎に結果を要約し、考察を加える。
1.千葉県内老人福祉センタ-における痴呆を疑われる利用者に関する調査:老人福祉センタ-は地域の一般老人が自主的に通所し、文化・教養活動等に参加する利用施設であるが、時間の経過とともに利用者の状況には施設間で差異が生じているし同一施設でも変化してきている。特に介護保険の実施により今後軽度痴呆性老人の利用は増加するものと予測される。そこで本研究では痴呆を疑われる老人の利用状況及びセンタ-としての対応状況について調査した。その結果(1)痴呆を疑われる利用者の頻度は平均2%であり大部分は軽症者であった。(2)これらのうちの75%は特に問題なく、友人や仲間と過ごしている。(3)全施設の75%、事例経験を持つ施設では78%が痴呆性老人の利用に肯定的であった。以上の結果を踏まえ、今後は痴呆に関する知識を持つ介護専門員の配置が必要であると結論した。
2.老人性痴呆疾患の問題行動重症者群と軽傷者群の背景と対策-多軸的背景スケ-ルを中心に-:痴呆性疾患患者の問題行動の背景と対策について、痴呆スケ-ル、神経学的症状、情動障害、意識障害、問題行動の内容、脳の萎縮程度、薬物療法の効果等を簡易スケ-ル化して検討した。対象者は、老人性痴呆疾患センタ-を平成3年から10年までの7年間に受診した520名中研究者が経過を観察しえたもので、問題行動あり37例、対象群として問題行動なし13例の計50例である。問題行動あり群はさらに重症群20例と軽症群17例に分類し、これら3群について結果を比較検討した。その結果(1)重症群には前景に出る症状により幻覚妄想を主とした群、情動障害を主とした群および行動障害を主とした群に分かれた。(2)軽症群では情動障害が少なく、精神症状は薬物療法で改善されやすい。(3)薬物療法で重要なことはどの症状を目標に治療するのかということである。
3.老人保健施設デイケ通所中の痴呆性老人の問題行動への対処法:研究の目的は「リアリテイ・オリエンタ-ション」(以下RO)指導が痴呆性老人の問題行動に及ぼす変化について考察することである。対象者は老人保健施設デイケアに通所の痴呆性老人で78歳-91歳までの19名である。集団で、1日1回、20分間、2か月にわたりROを実施した。その結果痴呆の中核症状への有効性は不明であったが、周辺症状である問題行動の改善では有効であった。
4.軽症痴呆患者の問題行動出現回避のモデルグル-プワ-ク:痴呆の進行を防止させるための予防的ケアの方法を確立することを目的として「精勤機能回復訓練」及び「在宅の日常生活時間の構造化」への援助を実施した。対象者は平均年齢83.7歳の後期高齢者10名で、月2回のグル-プワ-クを26か月(延べ52回)実施し、その開始時と終了時で精神機能、感情表出、生活行動及びQOLを評価した。いずれの評価も開始時の能力が維持もしくは改善された。
5.冬季降雪地帯における痴呆予防教室の具体的プログラム開発とその普及について:平成8、9年度は痴呆予防のための遊具やゲ-ムを開発したが、本年度は在宅の痴呆性老人をモデルに冬季4か月脳活性化訓練教室「お達者交流会」を実施した。他に地域の一般老人を対象に「若返り健康教室」を実施した。また介護職員、訪問看護婦・士等を対象に研修交流会を開催した。
6.沖縄県における老人痴呆患者の問題行対処法ー沖縄の社会文化的環境と精神衛生の視点からー(第3報):沖縄における痴呆老人患者の臨床症状、とりわけ問題行動について、沖縄の人々の精神構造の基層における社会文化的要因の及ぼす影響を探り、地域特性を踏まえた対処方略を工夫してメンタル・ケアを行った群と、これらの工夫を取り入れず通常の療養ケアを行った群(いずれも18名)とで、臨床的な問題行動の評価尺度を用いて評価し、その消長を12か月追跡した。その結果、ADL,NMスケ-ル、島袋式並びに下地式場面行動評定票において前者は後者を上まわり、問題行動やより改善された。
7.老人痴呆患者の問題行動への対処法ー老人病院における痴呆患者の問題行動とその対処法についてー:看護婦4人の援助事例に基づいた報告を対象とし、老人痴呆患者の問題行動への対処方法をいかにして見出しているか分析した。その結果、ケアの前提として、「痴呆患者の自尊心を守ること」「その人のニ-ドを探ること」「痴呆患者の人としての本質を信じ、見出すこと」があげられた。
結論
各分担者は各々研究対象の拡大、内容の充実、あるいは応用実践を行った。得られた結果はそれぞれ痴呆性老人の問題行動への対処に示唆を与えるものであった。以上

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