自然災害時を含めた感染症サーベイランスの強化・向上に関する研究

文献情報

文献番号
201318036A
報告書区分
総括
研究課題名
自然災害時を含めた感染症サーベイランスの強化・向上に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
松井 珠乃(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究分担者(所属機関)
  • 谷口 清州(国立病院機構三重病院 国際保健医療研究室)
  • 永井 正規(埼玉医科大学 公衆衛生学教室)
  • 中瀬 克己(岡山市保健所)
  • 神谷 信行(東京都健康安全研究センター 疫学情報室)
  • 山本 英二(岡山理科大学 総合情報学部)
  • 中野 貴司(川崎医科大学 小児科)
  • 堀野 敦子(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 西藤 成雄(西藤小児科)
  • 佐多 徹太郎(富山県衛生研究所)
  • 池松 秀之(九州大学先端医療イノベーションセンター)
  • 蒲地 一成(国立感染症研究所 細菌第二部)
  • 森兼 啓太(山形大学附属病院検査部)
  • 奥村 貴史(国立保健医療科学院 研究情報支援研究センター)
  • 齋藤 玲子(新潟大学大学院医歯学系国際保健分野)
  • 高橋 英之(国立感染症研究所 細菌第一部)
  • 笠原 敬(奈良県立医科大学 感染症センター)
  • 中島 一敏(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 石黒 信久(北海道大学大学病院感染制御部)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 藤本 嗣人(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 大日 康史(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
27,991,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
感染研感染症疫学センター・病原体部、地方感染症情報センター、地方衛生研究所、大学の研究者、臨床医などが一同に会し1.健康危機発生時への備えと水平サーベイランス(感染症発生動向調査)の継続的な評価と改善、2.感染症発生動向調査の特性と制約―垂直サーベイランス(水平サーベイランスを補完する仕組み)の必要性、3.健康危機発生時のサーベイランスシステムの構築、の3点についてサーベイランスの課題を克服するための手法を検討し、そのプロセスを通じてより強固なネットワークを構築すること。
研究方法
●水平サーベイランス関連:2012年2月に「感染症発生動向調査におけるデータの質管理のための地方感染症情報センター向けのガイドライン」が出され、その前後それぞれ1年間で、誤報告率を検討する等の検討を行った。地方感染症情報センター間の情報共有のための首都圏インフルエンザ患者報告数Webシステムの運用を行い、地方感染症情報センターにおける感染症情報の収集・解析・還元についてのアンケート調査等を行った。定点サーベイランスの指標の一つである注意報・警報レベルの発生割合を検討しまた罹患数推計については外来患者延べ数を補助変量とする新たな推計法を開発した。
●垂直サーベイランス関連:地域の主たるインフルエンザの入院施設における累積入院率の重症化率としての指標の検討、インフルエンザ・RSウイルス感染症等の流行状況を実地診療医家の間で迅速に共有するためのWeb入力システムの開発、病院小児科を対象としてインターネットを利用した細菌性髄膜炎の症例登録システムの開発、RSウイルスの分子疫学的動向の調査、マクロライド耐性マイコプラズマの治療効果、性感染症発生動向調査活用ガイドライン利用状況のアンケート調査等を行っている。髄膜炎菌のLAMP法による核酸検出法の構築と咽頭うがい液からのDNA抽出方法の確立、百日咳菌と百日咳類縁菌の計4菌種を同時に鑑別可能な4PlexリアルタイムPCR法の開発、地方衛生研究所における急性呼吸器感染症(ARI)起因ウイルスの遺伝子検出診断系の構築等を行った。
●健康危機発生時関連:東日本大震災に関連する感染症発生について、法に基づく公式なサーベイランス情報の解析を行った。学校欠席者情報収集システムを集団感染の早期探知に活用できた事例を収集した。イベントベースサーベイランス(EBS)とリスク評価についてのワークショップにおいて我が国で近年発生した健康危機事例を概観した。

結果と考察
◎水平サーベイランス関連:感染症発生動向調査上の誤報告率を検討したところ、これまで誤報告率が高かった疾患のうち一部が有意な改善を見たことが確認された。地方感染症情報センターにおいては、サーベイランス業務の人員配置に格差がある現状が明らかとなった。定点サーベイランスにおける注意報・警報レベルの発生割合を検討し、流行状況を反映しているものであり妥当であると評価がなされた。
◎垂直サーベイランス関連:地域の基幹的な病院の累積の入院患者数とインフルエンザ定点の外来患者数を使用した累積入院率は、地域における重症化率をリアルタイムで把握できる可能性が示唆された。実地診療医家の間でのWebサイトに情報を公開するシステムは、感染症発生動向調査で得られない質的情報(重症例等)もリアルタイムで収集しているのが特徴である。髄膜炎菌、百日咳・百日咳類縁菌、ARIについては、検査系を確立し、来年度は実際にパイロットで運用が開始される予定である。
◎健康危機発生時関連:東日本大震災後には、レジオネラや破傷風においては、法に基づく公式なサーベイランスで比較的多くの報告が見られたが、急性感染性胃腸炎、急性呼吸器感染症、インフルエンザ様疾患/インフルエンザについては、公式な感染症発生動向調査からは情報を得ることは出来なかった。EBSのワークショップにおいては、現在の健康危機管理システムでは、迅速な把握と対応ができない分野があることが確認された。

結論
●本研究班において継続的に感染症発生動向調査のデータの解析と検討が行われており、サーベイランスデータの解釈と対応法の決定に役立っているとともにシステムの更新に理論的な根拠を与えている。
●垂直サーベイランスの試行を通じて疾患の重症度評価、病原体のモニタリング手法の開発など、今後の国のサーベイランスの検討課題とすべき点が明らかにされつつある。これらについて公衆衛生学的なインパクトとシステム効率や国のサーベイランスとして行った場合の合理性などを総合的に評価して今後の感染症発生動向調査の改善に結びつけていく必要がある。
●日本において、EBSが必要であるということについて、今年度、公衆衛生の専門家の間で一定の合意がなされたが、技術的側面や制度について今後課題を整理していく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201318036Z