感染症を媒介する節足動物の分布・生息域の変化、感染リスクの把握に関する研究

文献情報

文献番号
201318029A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症を媒介する節足動物の分布・生息域の変化、感染リスクの把握に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
澤邉 京子(国立感染症研究所 昆虫医科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高崎 智彦(国立感染症研究所 ウイルス第一部 )
  • 林 昌宏(国立感染症研究所 ウイルス第一部 )
  • 津田 良夫(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 林 利彦(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 伊澤 晴彦(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 冨田 隆史(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 山内 健生(富山県衛生研究所 がん研究部)
  • 平林 公男(信州大学 繊維学部)
  • 大塚  靖(大分大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
29,746,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 近年の地球温暖化の進行や,大規模自然災害による環境変化により,媒介節足動物の生息域や発生数は増大し,アルボウイルス感染症の発生リスクが高まっている.国内におけるそれら節足動物の分布・生息域の変化,保有病原体のヒトへの感染リスク評価を目的に,東北被災地およびその他国内各地における疾病媒介節足動物の分布調査,媒介節足動物からの病原微生物の分離・検出と検出法の開発,媒介蚊に関する基礎的研究およびトコジラミの殺虫剤抵抗性に関する全国調査と殺虫試験を実施した.
研究方法
1)蚊成虫はドライアイストラップを用いて一晩捕集し,幼虫は柄杓による掬い取り法で採取した.ハエ類は30cm×30cm粘着板を用いて,月に1度5月~10月に調査した. 2)マダニは一人30分間のフランネル法により捕集した.3)蚊・マダニ乳剤は培養細胞に接種し細胞変性効果を観察し,一部は乳飲みマウスに接種した.4)蚊から分離された日本脳炎ウイルスおよびマダニから分離されたウイルスは,次世代シークエンサーあるいはRDV法のより遺伝子解析を行った.5)新潟・富山両県のコガタアカイエカの発生消長をもとに,NOAAの気象データ,気象庁の観測データ等を用いてコガタアカイエカの国内分散を考察した.6)新規にマイクロサテライトマーカーを設計し,アカイエカ種群の判別を実施した.7)新たに開発したQProbe法により,トコジラミのナトリウムチャンネル2座位に関する遺伝子型を決定し,ピレスロイド系殺虫剤の抵抗性の発達を調査した.8)チカイエカにおいては,ピリプロキシフェン抵抗性機構を解明した.
結果と考察
1)東北地方津波被災地における蚊の発生は減少傾向にあるものの,未だ被災前の状態には戻っていないため今後も監視が必要である.盛岡市内でヒトスジシマカが6年連続で確認され,北西への分布域拡大も示唆された.国内各地でヒトスジシマカの生息状況調査を進め,深刻さを増すデング熱の国内発生への対策に向けた媒介蚊対策ガイドラインを作成した.主にSFTS対策を目指したマダニ相の調査において,一人30分間のフランネル法によりマダニ類の季節消長および捕集数の比較が可能であることが分かった.
2)長崎県で捕集されたコガタアカイエカから1型日本脳炎ウイルスが分離され,現在アジア地域で蔓延している1型ウイルスに対する現行ワクチンの有効性も確認された.コロモジラミから塹壕熱バルトネラ菌遺伝子が検出され,患者のIgG抗体保有率も判明した.路上生活者の間で着実に塹壕熱が広まっていることが示唆された.Great Island virus groupに属するウイルス,Uukuniemi様 virusが国内のマダニから初めて分離され,マダニが保有するウイルス叢の把握が必要である.
3)成田空港敷地内でネッタイシマカが発見される事例が相次ぎ,国内定着が危惧されている.ネッタイシマカは空港の屋外では冬季の低温によって死滅するが,ビル内での越冬の可能性が示唆された.富山・新潟でのコガタアカイエカの発生消長,NOAAの気象データ,気象庁の観測データ等から,国内移動と分散の一端が明らかになった.マイクロサテライト解析により,北部九州ではネッタイイエカと同じハプロタイプを持つアカイエが存在することが分かった.国内のトコジラミにアセチルコリンエステラーゼ阻害剤に抵抗性のY348(331)変異体が多数存在するが,現時点では軽微である.現在市販されている各種防疫用殺虫製剤は,フタトゲチマダニ若虫に対して高い殺虫効力があることが,野外での準実地試験法で確認された.
結論
1)東北地方津波被災地は未だ蚊の発生は多い状況にあることが示唆された.2)ヒトスジシマカの分布調査,コガタアカイエカの国内移動に関する調査の継続が望まれた.3)国内のマダニ調査から,市街地の公園と河川敷にもマダニ類は広く生息すること.一人30分間のフランネル法の有用性が確認された.4)2012年長崎県捕集蚊から1型日本脳炎ウイルスが分離され,マダニからは国内で新規のウイルス分離された.5)現行の3型ウイルスから製造された日本脳炎ワクチンは1型ウイルスにも有効であることが分かった.6)コロモジラミから塹壕熱病原細菌B. quintanaの遺伝子が検出された.7)空港の屋外ではネッタイシマカは冬季死滅するが,ビル内での越冬の可能性が示唆された.8)マイクロサテライト解析により北部九州のアカイエカにはネッタイイエカのハプロタイプが含まれることが分かった.9)国内のトコジラミにAChE阻害殺虫剤の有効性はほぼ保たれていた.10)医薬品・医薬部外品防疫用殺虫製剤はフタトゲチマダニ若虫に高い致死効果を示した.

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201318029Z