HTLV-1感染症予防ワクチンの開発に関する研究 

文献情報

文献番号
201318022A
報告書区分
総括
研究課題名
HTLV-1感染症予防ワクチンの開発に関する研究 
課題番号
H23-新興-一般-029
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 俣野 哲朗(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 梁 明秀(横浜市立大学大学院 医学研究科)
  • 外丸 詩野(北海道大学大学院 医学研究科)
  • 田中 正和(関西医科大学 微生物学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
27,668,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(Human T-cell leukemia virus type 1: HTLV-1)感染症は成人T細胞性白血病(ATL)や関連脊髄症(HAM)等の重篤な疾患を引き起こすが有効なワクチンが無く開発が求められている。HTLV-1感染予防及びATL発症予防ワクチンの開発を目的とする。
研究方法
コムギ無細胞タンパク質合成システムを用いたHTLV-1がコードする全タンパクの合成。哺乳類細胞発現系を用いた可溶性HTLV-1 Envタンパク質合成、三量体型可溶性HTLV-1 Envタンパク質の合成。 HTLV-1 Envタンパク質の大量発現系の構築。ヒト化マウスへのHTLV-1感染とヒト化マウスを用いたワクチン接種。化学増幅型ルミネッセンスプロキシミティホモジニアスアッセイ、アルファスクリーン法による患者血清中の抗体検出。
結果と考察
ワクチン抗原として感染防御効果が予想されるHTLV-1のEnvタンパク質合成系構築を試みた。哺乳類培養細胞タンパク質合成系を用いて可溶性Envタンパク質の作製を試みたところ野生型のEnvタンパクの合成は困難であったが、三量体化させることにより可溶性三量体型Envタンパク質の合成に成功した。しかしながら、哺乳類培養細胞を用いたタンパク質合成系による可溶性三量体型Envタンパク質合成はワクチンとして使用するには精製抗原の収率と精製度が悪く、ワクチン抗原製造系として適さないと考えられた。そこで実用的なワクチン抗原製造系確立を目指し、昆虫細胞タンパク質合成系を用いHTLV-1ワクチン抗原としての三量体型HTLV-1 Envタンパク質合成とその検討を行った。またHTLV-1感染ヒト化マウスの系で、Taxペプチドワクチンの皮下および経鼻投与により感染細胞の増殖抑制効果が認められたことから、同マウスモデルはヒト免疫系を基盤としたHTLV-1発症予防ワクチンの開発において有用な評価系を提供すると考えられた。さらにTaxトランスジェニックマウス由来ATL細胞を移植した同系マウスにおけるtax cDNA量を解析し、移植後3週目までは移植細胞が維持されることを確認した。この移植マウスは、Tax特異的CTLによるin vivoでのTax発現細胞排除効果の評価系として有用と考えられる。コムギ無細胞タンパク質合成システムを活用して作製したHTLV-1抗原タンパク質および血清中に含まれる少量の抗体を検出できる測定法を開発した。またそれらを活用し、HTLV-1感染患者血清を用いた抗体の検出に成功した。
結論
HTLV-1の感染防御ワクチンの抗原候補としてEnvタンパクが有力で有る事から可溶化したEnvタンパクの作製を行ってきた。哺乳類細胞でのタンパク発現系において自然の状態に近い三量体Envタンパクの合成に成功したので大量発現系への以降を行っている。ワクチンの効果を調べる動物モデルとしてはヒト化マウスとそのマウスに対する感染系が有用であると考えられた。本モデルマウスではヒトの抗体誘導が可能であった。またワクチン接種後又は患者の病態と血清中の抗体の関係を調べる系としてアルファスクリーンを利用した微量抗体の測定系を構築した。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201318022B
報告書区分
総合
研究課題名
HTLV-1感染症予防ワクチンの開発に関する研究 
課題番号
H23-新興-一般-029
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 俣野 哲朗(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 梁 明秀(横浜市立大学大学院 医学研究科)
  • 外丸 詩野(北海道大学大学院 医学研究科)
  • 田中 正和(関西医科大学 微生物学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HTLV-1感染症のコントロールのために、HTLV-1感染予防ワクチンの開発が求められている。そこで本研究ではHTLV-1感染症をコントロールする為の感染予防ワクチンを開発する事を目的とする。
研究方法
コムギ無細胞系を用いてHTLV-1がコードするすべてのタンパク質(Gag, Env, Tax-1, HBZ, p27REX, p27I, p30II) について、生理活性を保持した状態で完全長にて合成した。また、最も有力な感染防御抗原候補であるEnvタンパク質を抗原とした不活化ワクチン開発を目指し、コムギ無細胞系タンパク合成、哺乳類培養細胞タンパク質合成系を用いてその作成を行い可溶性について検討した。更に実用的なワクチン抗原製造系確立を目指し、昆虫細胞タンパク質合成系を用い三量体型HTLV-1 Envの合成を進めている。またヒト化マウスに対するTaxペプチドワクチンの皮下あるいは経鼻投与の効果を検討した。独自のATL発症モデルであるTaxトランスジェニックマウス由来のATL細胞を用い、この細胞を移植した同系マウスにおけるTax特異的CTL反応の誘導を確認した。更に加齢と共に発症するATLの発症モデルとしてプロテアソーム機能の減弱した遺伝子改変マウス(老化マウスモデル、β5t-Tg)を用いて発症モデル動物を作製した。
結果と考察
HTLV-1感染症を流行地域から減少させるために感染阻止を目指したワクチン開発を目的とし、感染防御抗原として機能することが予想されるEnvタンパク質合成系構築を試みた。哺乳類培養細胞タンパク質合成系を用いて可溶性Envタンパク質の作製を試みたところ、三量体化させることにより可溶性三量体型Envタンパク質の合成に成功した。実用的なワクチン抗原製造系確立を目指し、昆虫細胞タンパク質合成系を有するワクチンメーカーと共同で三量体型HTLV-1 Envタンパク質合成の検討を進めている。
コムギ無細胞タンパク質合成系を活用し、HTLV-1抗原タンパク質を作製した。またそれらを活用し、HTLV-1タンパク質に対する抗体の測定法を開発した。今後は様々な臨床段階の患者血清中の抗HTLV-1抗体を測定するとともに、その抗原エピトープを特定することで、新たなワクチン開発のための基礎データとする予定である。また、患者血清を用いたアッセイにおいては、本アッセイの結果と臨床背景との相関を検討し、HTLV-1感染またはATLおよび関連疾患の発症に伴って上昇する抗体を探索することで、ATLの発症予測や予後判定に応用できると期待される。
Taxトランスジェニックマウス由来ATL細胞を移植した同系マウスにおけるTax特異的CTL反応の誘導を確認した。また、この移植マウスにおけるtax cDNA量を解析し、少なくとも移植後3週目まで移植細胞が維持されることを確認した。HTLV-1特異的CTLの有効性評価に適した動物モデル構築は重要であるが、本研究結果は、このATL細胞移植マウスがTax特異的CTLの有効性評価に有用なモデルであること示すものである。
HTLV-1感染ヒト化マウスを用いることで、ペプチドあるいはDNAワクチンを用いた抗HTLV-1宿主免疫の活性化による感染個体内ウイルス感染細胞の抑制を介したATL発症予防法の開発に向けた個体レベルでの検討が可能になることが示された。
今後、ワクチン投与による感染あるいは感染細胞増殖過程における抑制段階の特定をはかると共に、CTLやサイトカイン・抗体産生量の測定を介したワクチン効果の定量化、およびアジュバントの種類を含めた各種ワクチン効果の比較、投与方法の標準化を進めていく予定である。β5t-Tgマウスはプロテアソームの機能異常による免疫応答の変化を解析できる有用なモデルである。また、Tax/β5t-Tgマウスは、HTLV-1関連疾患の免疫病態、発症予防ワクチンの解析に有用なマウスモデルになる可能性が考えられる。
結論
HTLV-1がコードする全てのタンパクをコムギ無細胞タンパク質合成系を用いて作成し、基礎検討を行い、感染防御抗原として最も有望なHTLV-1 Envタンパクについて哺乳類タンパク質合成系、昆虫細胞タンパク合成系を用いて実用的な可溶化Envタンパクの合成を行っている。ワクチンの評価系としてはヒト化マウスへの免疫とチャレンジ感染が有効で有る事が示され、発症予防にはCTLが重要な働きをしている事が示唆されCTL誘導型のワクチンも同時に開発をしており、それぞれの長所を取り入れたワクチンが期待できる。また老化モデルマウスにおいてはATL発症及び高齢者でのワクチン接種モデルとして活用が期待できる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201318022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
HTLV-1感染症の感染予防ワクチンを開発するために、HTLV-1がコードする全ての蛋白質をコムギ無細胞蛋白質合成系により作成し基礎検討を行い、感染防御抗原として最も有望なEnv蛋白質について哺乳類蛋白質合成系、昆虫細胞蛋白質合成系を用いて実用的なEnv抗原合成系開発を開始した。さらにワクチン評価系としてヒト化マウスへの免疫とチャレンジ感染の実験系を確立した。またATL発症予防に重要なCTL誘導型のワクチンも同時に開発を進めており、それぞれの長所を取り入れたワクチンの開発が期待できる。
臨床的観点からの成果
HTLV-1キャリアに対する発症予防ならびに授乳による感染リスクを低減させる手段として、ワクチン接種が考えられる。HTLV-1のEnvタンパク質を主要抗原とする不活化ワクチンが感染予防ワクチンとして有望であると考えられるが、従来のウイルス不活化ワクチンの製造方法では、HTLV-1ワクチンを製造することは極めて難しい。そこで、本研究ではEnvタンパク質を用いたリコンビナントワクチン開発のための基盤的技術を開発しており、今後、HTLV-1ワクチン開発研究がさらに促進することが期待できる。
ガイドライン等の開発
特になし。
その他行政的観点からの成果
ATLならびにHAMは、HTLV-1により引き起こされる難治性疾患である。以前は、九州・沖縄地方の風土病と考えられていたが、関東・近畿地方の大都市圏への拡散し、国内におけるHTLV-1キャリアは依然として多い。HTLV-1の主たる感染経路は授乳による垂直感染であるが、水平感染も一定数存在しており、人工乳の利用以外の感染予防対策が求められている。本研究を通して感染予防ワクチン開発の実現可能性についての基礎的知見が得られつつあり、今後の感染予防対策研究の方向性を考える上で貴重な成果と考える。
その他のインパクト
特になし。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
40件
学会発表(国内学会)
39件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Senchi K, Matsunaga S, Hasegawa H, Kimura H, Ryo A.
Development of oligomannose-coated liposome-based nasal vaccine against human parainfluenzavirus type 3.
Front Microbiol. , 4 , 346-  (2013)
原著論文2
Niikura K, Matsunaga T, Suzuki T, et al.
Gold nanoparticles as a vaccine platform: influence of size and shape on immunological responses in vitro and in vivo.
ACS Nano , 7(5) , 3926-3938  (2013)
原著論文3
鈴木 忠樹、 長谷川 秀樹
【感染症と癌、病理からのメッセージ】 HTLV-1と白血病・リンパ腫
病理と臨床 , 31 (2) , 146-150  (2013)
原著論文4
Moriya C, Horiba S, Kurihara K, et al.
Intranasal Sendai viral vector vaccination is more immunogenic than intramuscular under pre-existing anti-vector antibodies.
Vaccine , 29 , 8557-8563  (2011)
原著論文5
Kurihara K, Takahara Y, Nomura T, et al.
Immunogenicity of repeated Sendai viral vector vaccination in macaques.
Microbes Infect , 14 , 1169-1176  (2012)
原著論文6
Ando H, Sato T, Tomaru U, et al.
Positive feedback loop via astrocytes causes chronic inflammation in virus-associated myelopathy.
Brain , 136 (Pt9) , 2876-2887  (2013)
原著論文7
Miyatake Y, Oliveira AL, Jarboui MA, Ota S, Tomaru U, Teshima T, Hall WW, Kasahara M
Protective roles of epithelial cells in the survivalof adult T-cell leukemia/lymphoma cells
Am J Pathol , 182(5) , 1832-1842  (2013)
原著論文8
Tanaka M, Nitta T, Sun B, Fujisawa J, Miwa M
The route of primary HTLV-1 infection regulates HTLV-1 distribution inreservoir organs of infected mice.
Exp Thr Med. , 2 , 89-94  (2011)
原著論文9
T Tezuka K, Xun R, Tei M, Ueno T, Tanaka M, Takenouchi N, Fujisawa J.
An animal model of adult T-cell leulemia: humanized mice with HTLV-1-specific immunity.
Blood. , 123 , 346-355  (2014)
原著論文10
Willems L, Hasegawa H. et.al.
Reducing the global burden of HTLV-1 infection: An agenda for research and action.
Antiviral Res. , 137 , 41-48  (2017)
10.1016/j.antiviral.2016.10.015.
原著論文11
Gallo RC, Willems L, Hasegawa H;
Screening transplant donors for HTLV-1 and -2.
Blood. , 128 (26) , 3029-3031  (2016)
10.1182/blood-2016-09-739433.
原著論文12
Hasegawa H, Sano K, Ainai A, Suzuki T.
Application of HTLV-1 tax transgenic mice for therapeutic intervention.
Adv Biol Regul. , 68 , 10-12  (2018)
10.1016/j.jbior.2018.02.004.

公開日・更新日

公開日
2014-06-10
更新日
2018-06-07

収支報告書

文献番号
201318022Z