地域流行型真菌症の疫学調査、診断治療法の開発に関する研究

文献情報

文献番号
201318018A
報告書区分
総括
研究課題名
地域流行型真菌症の疫学調査、診断治療法の開発に関する研究
課題番号
H23-新興-一般-018
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 義継(国立感染症研究所 真菌部)
研究分担者(所属機関)
  • 渋谷 和俊(東邦大学医学部 病院病理学講座)
  • 杉田 隆(明治薬科大学)
  • 泉川 公一(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 高倉 俊二(京都大学大学院医学研究科)
  • 大野 秀明(国立感染症研究所 真菌部)
  • 金子 幸弘(国立感染症研究所 真菌部)
  • 石野 敬子(昭和大学 薬物治療学講座 薬学部感染制御薬学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
8,645,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域流行型真菌症は特定地域に生息する真菌による感染症の総称であり、わが国では渡航者の感染例が多いが、渡航機会の増加を背景に増加傾向にある。また、明らかな渡航歴のない感染例も報告されるようになってきた。米国CDCから致死率が高い地域流行型真菌症として、Cryptococcus gattiiの注意喚起がなされ、北米西海岸からの拡大が危惧されている。わが国においては平成22年に初めて、北米流行C. gattii株と同一遺伝子型の中枢神経系クリプトコックス症症例が報告された。既にわが国に定着している可能性が示唆され、①疫学調査、②簡易診断法の構築、および③診療指針の策定が急務となった。疫学調査、簡易診断系構築および診療指針の策定は、直接的に公衆衛生学的に有益であり、感染症法等により把握すべき疾患か否かの判断根拠として行政施策に活用できる。
研究方法
1. クリプトコックス属菌経気道感染モデルマウスを作製し、DNAマイクロアレイ法を用いた肺における発現遺伝子の変化を網羅的に解析した。
2. 特筆すべき渡航歴のない日本人から本邦で初めて分離されたVGIIa株の莢膜多糖の化学構造を検討した。
3. 我が国で多くみられるnon-HIV患者におけるクリプトコックス症について、①臨床病態解析、②疾患感受性遺伝子解析を行った。
4. カンジダ血症患者の診療内容と予後の関連を後ろ向きに調査し、予後改善のための課題を検討した。
5. FLCZ低感受性株の薬剤排出能および薬剤排出関連遺伝子とエルゴステロール合成遺伝子の遺伝子発現解析を行った。
6. 日本で初めて分離された北米流行型C. gattii株について、マウス感染モデルを用いた病原性や感染病態、菌の病原因子について解析した。
7. 樹状細胞に対してC. gattii菌体または精製莢膜多糖を添加し、免疫応答性を比較した。さらに、CD4欠損マウスにC. gattiiを経気管的投与して、その生存率等を比較した。
結果と考察
1. C. gattii感染症における病態解析:C. gattii 感染マウス肺では3-phosphoglycerate dehydrogenaseの発現亢進が確認され、肺胞上皮細胞への接着能に関与している可能性が示唆された。
2. 本邦で初めて分離されたC. gattii VGIIa JP01株の血清学的解析および比較ゲノム:VGIIa, b, c株の莢膜多糖構造は細部で差異がある可能性が示された。また、VGIIa株間の糖組成はキシロース含量が異なっていた。
3. 生体側の因子に関する研究/診断応用研究:我が国における患者背景、治療薬選択、治療期間について解析した。また、疾患感受性遺伝子候補としてMBL遺伝子を解析したが、有意なSNPsを認めなかった。
4. 移植等の易感染性患者に発症する深在性真菌症の臨床疫学研究:早期に経験的治療をすべき高致死率に関わる因子を同定した。また、肺移植後肺アスペルギルス症について、予防抗真菌薬と発生状況、拒絶反応との鑑別について検討した。
5. C. gattii の薬剤感受性決定因子に関する研究: FLCZ低感受性株でR6G排出能の亢進および2種類の薬剤排出ポンプ関連遺伝子の発現上昇が認められた。
6. 日本で分離された北米流行型C. gattii株の病原性および菌学的性質の解明:病原性が強いC. gattiiほど全身臓器への播種傾向が高いことが示唆された。さらに菌倍加時間や菌体外酵素産生能についても検討したが、病原性との相関は認められなかった。
7. C. gattiiの免疫原性に関する研究: C. gattiiは免疫応答を惹起しにくく、莢膜多糖構造が影響していると考えられた。また、健常マウスとCD4欠損マウスとで生存率および肺内生菌数に相違を認めなかった。
結論
わが国に特有のC. gattiiの存在が示唆され、国内でも感染しうることを考慮すべきと考えられた。特に、極めて病原性の強いC. gattii株のわが国への定着が懸念され、今後の公衆衛生学的対策の必要性が認められた。また、新規診断法・治療法の開発に寄与する基礎的な研究の継続も必要である。さらに、環境調査を含めた地域流行型真菌症の疫学調査についても検討したい。今回、本研究での解析結果を2014年度版深在性真菌症の診断・治療ガイドラインのクリプトコックス症および輸入真菌症の各項目に反映させることができ、地域流行型真菌症対策としての一歩となった。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201318018B
報告書区分
総合
研究課題名
地域流行型真菌症の疫学調査、診断治療法の開発に関する研究
課題番号
H23-新興-一般-018
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
宮崎 義継(国立感染症研究所 真菌部)
研究分担者(所属機関)
  • 渋谷 和俊(東邦大学医学部 病院病理学講座)
  • 杉田 隆(明治薬科大学)
  • 泉川 公一(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 高倉 俊二(京都大学大学院医学研究科)
  • 大野 秀明(国立感染症研究所 真菌部)
  • 金子 幸弘(国立感染症研究所 真菌部)
  • 石野 敬子(昭和大学 薬物治療学講座 薬学部感染制御薬学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域流行型真菌症は特定地域に生息する真菌による感染症の総称であり、わが国では、渡航者の感染例が多いが、渡航機会の増加を背景に増加傾向にある。また、明らかな渡航歴のない感染例も報告されるようになってきた。近年、米国CDCから、コクシジオイデス症より致死率が高い地域流行型真菌症として、Cryptococcus gattiiの注意喚起がなされ、北米西海岸からの拡大が危惧されている。わが国においても平成22年に初めて、北米流行C. gattii株と同一遺伝子型の重症中枢神経系クリプトコックス症が報告された。このようなわが国で問題となり得る地域流行型真菌症に対応するため、クリプトコックス症をはじめとする真菌症の臨床・疫学調査および基礎的研究を実施した。
研究方法
1. わが国の患者から分離されたC. gattii 5株の遺伝子解析に基づく分子疫学解析を実施し取扱指針を作製した。
2. 経気道C. gattiiマウス感染症における病態解析
① 毒力規定因子の解明を目的とした織学的解析、網羅的発現遺伝子解析を行った。
② 日本で初めて分離された北米流行型株の菌側病原因子について検討した。
3. 渡航歴のない日本人から分離された株の莢膜多糖構造を検討した。C. gattiiに近縁なTrichosporon asahiiの全ゲノム解析を行った。
4. わが国ではnon-HIV患者におけるクリプトコックス症が多いため、本症の診断、治療について聞き取り調査を行い、宿主の疾患感受性解析を行った。
5. カンジダ血症患者の診療内容と予後の関連に関する後ろ向き調査、肺移植後の肺アスペルギルス症について、予防抗真菌薬と発生状況、拒絶反応との鑑別について検討を行った。
6. C. gattii の薬剤感受性決定因子に関する研究
アゾールの標的分子遺伝子の比較、薬剤排出能および薬剤排出関連遺伝子の発現解析を行った。
7. 日本で分離された北米流行型C. gattii株の病原性および菌学的性質の解明
8. 樹状細胞にC. gattiiの菌体または精製莢膜多糖を添加し、免疫応答性を比較した。また、CD4欠損マウスにC. gattiiを経気管支的に投与し生存率等を比較した。
結果と考察
1. 「C. gattii症例の取扱指針」を公表した。わが国では4例を確認したが、海外での例を含め、現行での指針を示した。
2. 本邦におけるC. gattii感染症の現況:5株のうち2株はVGIに、3株はVGIIに分類された。
3. C. gattiiマウス感染症における病態解析:最も強い致死性を示した株は全身臓器への易播種性があったが、メラニン産生や莢膜厚に明らかな相関は認められなかった。病理組織ではC. gattiiは既存の肺構築改変を来たしやすく、大食細胞を介した細胞間相互作用を誘導させ難く肺胞上皮細胞への接着が関与することが示唆された。
4. 本邦で初めて分離されたC. gattii VGIIa JP01株の血清学的解析および比較ゲノム:VGIIa, b, c株の莢膜多糖は非常に類似していた。また、C. gattiiとT. asahii間で相同性が高い遺伝子を選別した。
5. 生体側の因子に関する研究/診断応用研究: 患者背景、治療薬選択、治療期間について解析した。
6. 移植等の易感染性患者に発症する深在性真菌症の臨床疫学研究:抗真菌薬予防投与の進歩により、肝移植後の深在性真菌症が抑制されていた。肺移植後の肺アスペルギルス症について、予防抗真菌薬と発生状況、拒絶反応との鑑別を検討した。
7. C. gattii のFLCZ感受性株と低感受性株を比較し、1アミノ酸の置換(N249D)を見出した。また、低感受性株で、R6G排出能亢進、薬剤排出ポンプ関連遺伝子の発現上昇が認められた。
8. C. gattiiの免疫原性に関する研究: C. gattiiは菌体、莢膜多糖成分ともに、樹状細胞の免疫応答誘導能が極めて低いことが明らかとなった。また、CD4欠損マウスで生存率、肺内生菌数に相異を認めなかった。
結論
わが国でのC. gattii株は必ずしも北米流行株と一致せず、明らかに渡航歴のない患者でも発症例があることから、国内でも感染しうることを考慮すべきである。本研究成果から、2014年版深在性真菌症の診断・治療ガイドラインへの反映、および、Cryptococcus gattii感染症の取り扱い指針を作成し、C. gattii感染症対策としての大きな一歩となった。今後、新規診断法・治療法の開発に寄与する基礎的な研究の継続、および、環境調査を含めた地域流行型真菌症の疫学調査についても検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201318018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
地域流行型真菌症とは特定地域に生息する真菌による感染症の総称で、わが国では海外渡航者の増加を背景に漸増傾向にある。本研究では、高病原性Cryptococcus gattiiによるクリプトコックス症をはじめとする新興真菌症の、①わが国における疫学調査、②病態・病原性解析、③宿主因子解析、④診断・治療法、に関する研究を実施した。その結果、わが国でのC. gattii臨床分離株は必ずしも北米流行株とは一致せず、国内でも感染しうることを提言し、感染症学ならびに公衆衛生学的に重要な知見を示した。
臨床的観点からの成果
本研究成果の、「2014年版深在性真菌症の診断/治療ガイドライン」への反映、および、「Cryptococcus gattii感染症の取り扱い指針」を公表し、C. gattii感染症に関する診断と治療に関する情報を臨床現場で活用可能とした。C. gattii感染症の客観的な予後予測や診断・治療法の確立につながると期待できる。
ガイドライン等の開発
研究成果を取扱および対策指針策定に活用し、「2014年版深在性真菌症の診断/治療ガイドライン」に反映させるとともに、「Cryptococcus gattii感染症の取り扱い指針」を公表した。
その他行政的観点からの成果
カナダや米国ではこの高病原性C. gattii株による感染流行が依然続いており、重要な公衆衛生学的問題となっている。わが国に高病原性クリプトコックスが土着する科学的根拠を示したことで、発生動向を把握する必要性に関して行政施策判断に有益な情報となる。
また、本研究の成果に基づいて、感染症法改訂の要望が日本感染症学会、日本医真菌学会から提言された。
その他のインパクト
クリプトコックス症の危険因子や対処法に関しての報道に情報提供した。(テレビ朝日)

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
29件
その他論文(和文)
25件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
101件
学会発表(国際学会等)
10件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tarumoto N, Kinjo Y, Kitano N et al.
Exacerbation of invasive Candida albicans infection by commensal bacteria or a glycolipid through IFNγ produced in part by iNKT cells
J Infect Dis  (2013)
10.1093/infdis/jit534
原著論文2
Umeyama T, Ohno H, Minamoto F et al.
Determination of epidemiology of clinically isolated Cryptococcus neoformans strains in Japan by multilocus sequence typing
Jpn J Infect , 66 (1) , 51-55  (2013)
原著論文3
Nagi M, Tanabe K, Ueno K et al.
The Candida glabrata sterol scavenging mechanism, mediated by the ATP-binding cassette transporter Aus1p, is regulated by iron limitation
Mol Microbiol , 88 , 371-381  (2013)
原著論文4
Ueno K, Okawara A, Yamagoe S et al.
The mannan of Candida albicans lacking β-1,2-linked oligomannosides increases the production of inflammatory cytokines by dendritic cells
Med Mycol , .51 , 385-395  (2013)
原著論文5
Kaneko Y, Miyagawa S, Takeda O et al.
Real-time microscopic observation of Candida biofilm development and effects due to micafungin and fluconazole
Antimicrob Agents Chemother , 57 , 2226-2230  (2013)
原著論文6
Hosogaya N, Miyazaki T, Nagi M et al.
The heme-binding protein Dap1 links iron homeostasis to azole resistance via the P450 protein Erg11 in Candida glabrata
FEMS Yeast Res , 13 , 411-421  (2013)
原著論文7
Okubo Y, Wakayama M, Ohno H et al.
Histopathological study of murine pulmonary cryptococcosis induced by Cryptococcus gattii and Cryptococcus neoformans
Jpn J Infect Dis , 66 , 216-221  (2013)
原著論文8
Okubo Y, Tochigi N, Wakayama M et al.
How Histopathology Can Contribute to an Understanding of Defense Mechanisms against Cryptococci
Mediators Inflamm  (2013)
10.1155/2013/465319
原著論文9
Ohno H, Tanabe K, Umeyama T et al.
Application of nested PCR for diagnosis of histoplasmosis
J Infect Chemother , 19 , 999-1003  (2013)
原著論文10
Kaneko Y, Fukazawa H, Ohno H, Miyazaki Y
Combinatory effect of fluconazole and FDA-approved drugs against Candida albicans. J Infect Chemother
J Infect Chemother , 19 (6) , 1141-1145  (2013)
原著論文11
Mihara T, Izumikawa K, Kakeya H et al.
Multilocus sequence typing of Cryptococcus neoformans in non-HIV associated ryptococcosis in Nagasaki
Med Mycol , 51 (3) , 252-260  (2013)
原著論文12
Sugiura K, Sugiura N, Yagi T et al.
Cryptococcal cellulitis in patient with bullous pemphigoid
Acta Derm Venereol , 93 (2) , 187-188  (2013)
原著論文13
Kimura M, Araoka H, Uchida N et al.
Cunninghamella bertholletiae pneumonia showing a reversed halo sign on chest computed tomography scan following cord blood transplantation
Med Mycol , 50 , 412-416  (2012)
原著論文14
Tanabe K, Lamping E, Nagi M et al.
Chimeras of Candida albicans Cdr1p and Cdr2p reveal features of pleiotropic drug resistance transporter structure and function
Mol Microbiol , 82 , 416-433  (2011)
原著論文15
Tomita H, Muroi E, Takenaka M et al.
Rhizomucor variabilis infection in human cutaneous mucormycosis
Clin Exp Dermatol , 36 , 312-314  (2011)
原著論文16
Nagi M, Nakayama H, Tanabe K et al.
Transcription factors CgUPC2A and CgUPC2B regulate ergosterol biosynthetic genes in Candida glabrata
Genes Cells , 16 , 80-89  (2011)
原著論文17
Nagi M, Tanabe K, Nakayama H et al.
Serum cholesterol promotes the growth of Candida glabrata in the presence of fluconazole
J Infect Chemother , 19 (1) , 138-143  (2013)
原著論文18
Tarumoto N, Kinjo Y, Ueno K et al.
A limited role of iNKT cells in controlling systemic Candida albicans infections
Jpn J Infect Dis , 65 (6) , 522-526  (2012)
原著論文19
Saraya T, Tanabe K, Araki K et al.
Breakthrough invasive Candida glabrata in patients on micafungin: A novel FKS gene conversion correlated with sequential elevation of minimum inhibitory concentration
J Clin Microbiol  (2014)
10.1128/JCM.03593-13
原著論文20
Norkaew T, Ohno H, Sriburee P, et al.
Detection of environmental sources of Histoplasma capsulatum in Chiang Mai, Thailand by nested PCR
Mycopathologia , 176 (5) , 395-402  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-06-13
更新日
2017-06-16

収支報告書

文献番号
201318018Z