経鼻インフルエンザワクチン等粘膜ワクチンの有効性に関する研究

文献情報

文献番号
201318015A
報告書区分
総括
研究課題名
経鼻インフルエンザワクチン等粘膜ワクチンの有効性に関する研究
課題番号
H23-新興-一般-015
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 奥野 良信(一般財団法人阪大微生物病研究会観音寺研究所)
  • 田代 眞人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 新井 洋由(東京大学大学院薬学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
19,918,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
経鼻インフルエンザワクチンは、インフルエンザウイルスの感染阻止に働く気道粘膜上の分泌型IgA抗体を誘導することから、血清中のIgG応対のみを誘導する現行の注射によるワクチンと比べて有効性が高いことが期待されている。実用化に向けた経鼻インフルエンザワクチンの臨床研究においてその有効性を評価する事を目的とする。
研究方法
経鼻不活化全粒子インフルエンザワクチン接種後誘導される鼻腔中の抗体を解析をゲル濾過クロマトグラフィーで分画し、その性状と中和能について検討した。同時にワクチン原液からヒトへの投与を想定した経鼻投与用試作ワクチン製剤を作製し、非臨床試験(ラットを用いた毒性・生殖発生試験、及びサルを用いた安全性薬理試験)を開始した。また高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)の不活化全粒子ワクチンを用いた経鼻ワクチン接種により誘導される抗体の解析を行った。また、ワクチンによる免疫を増強する研究として哺乳動物培養細胞を用いて抗ウイルス応答に関与する細胞内シグナル伝達に対するType 8 PLA2の関与を調べた。
結果と考察
経鼻不活化全粒子インフルエンザワクチンは、感染の場である気道粘膜上に分泌型IgAを誘導する。経鼻不活化全粒子ワクチンを接種された被験者の鼻腔洗浄液から精製したIgAの解析により、鼻腔内のIgAインフルエンザウイルスに対する中和能を有しておりウイルス感染防御に寄与していることが示唆された。健常成人において、経鼻インフルエンザワクチンの接種は、IgA抗体産生細胞を優位に誘導することが明らかとなった。インフルエンザウイルスの感染の場となる上気道粘膜上に、このような特徴を有するIgA抗体を分泌型抗体として誘導可能な経鼻インフルエンザワクチンは、新しいワクチンとして非常に有効性の高いワクチンであると考える。
また本研究において作製した、全粒子インフルエンザワクチン原液、及び経鼻投与用季節性インフルエンザワクチン製剤は (1)十分な安全性を有していた。(2)用法・用量・有効性・持続性の根拠となる成績が集積され、実用的な免疫応答を誘導できることが確認された。また哺乳動物培養細胞を用いた解析から、Type 8 PLA2はIFNβによるJAK-STATシグナルを負に制御する因子であることが明らかとなった。またin vitroの解析からMAFPがType8 PLA2の酵素活性を阻害することがわかった。
結論
以上のことから、インフルエンザの不活化全粒子ワクチンの経鼻接種によりヒトの鼻腔粘膜上にインフルエンザウイルスに対する中和能を有するIgA抗体が誘導されウイルス感染防御に寄与していることが示唆され本ワクチン製剤は、臨床応用での有用性が望める次世代ワクチン候補として期待できるものであると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201318015B
報告書区分
総合
研究課題名
経鼻インフルエンザワクチン等粘膜ワクチンの有効性に関する研究
課題番号
H23-新興-一般-015
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
長谷川 秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 奥野 良信(一般財団法人阪大微生物病研究会観音寺研究所)
  • 田代 眞人(国立感染症研究所 インフルエンザウイルス研究センター)
  • 新井 洋由(東京大学大学院 薬学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
経鼻投与型インフルエンザワクチンは、気道粘膜上に分泌型IgA抗体を誘導することでインフルエンザウイルスの感染阻止に有効であることが、主にマウスを用いた実験から明らかになっている。一方、ヒトにおける経鼻投与型インフルエンザワクチンによる気道粘膜上抗体応答の評価は、大きく遅れている。本研究では、健常人ボランティアに対して不活化全粒子ワクチンの経鼻接種を行い、誘導される抗体応答の評価を行う事を目的とする。
研究方法
健常人ボランティアに対し、不活化全粒子インフルエンザワクチンの経鼻接種を行い接種後の血清及び鼻腔洗浄液を採取しインフルエンザウイルスに対するHA抗体価測定及び中和抗体価測定を行った。鼻腔洗浄液については総蛋白濃度で標準化を行い経鼻インフルエンザワクチンを評価する基盤を整えた。臨床研究で使用する全粒子不活化ワクチンの試験製造と動物実験による安全性評価を行った。さらに粘膜ワクチンの有効性を高める創薬基盤を確立することを目的とし研究を行なった。
結果と考察
健常人ボランティアに対し、不活化全粒子季節性インフルエンザワクチンの経鼻接種を行った結果、血清中HI抗体は、EMAにより定められた注射型インフルエンザワクチンに対する有効性判断基準を十分満たすことが明らかとなり、かつ鼻腔洗浄液中には中和活性を有する機能的な抗体が強く誘導されることが明らかとなった。以上のことから、ヒトにおいて不活化全粒子季節性インフルエンザワクチン単独の経鼻接種は効果的なワクチン接種法になりうると考えられた。健常成人ボランティアを募った経鼻インフルエンザワクチン臨床試験において、誘導される抗体産生細胞と記憶B細胞の解析を行った。経鼻ワクチンは、ヒトにおいてもIgA抗体産生細胞を強く誘導することが明らかとなり、IgA抗体はIgG抗体と比べて多様性に富む可能性が示唆された。本研究において作製した、全粒子インフルエンザワクチン原液、及び経鼻投与用季節性インフルエンザワクチン製剤は (1)十分な有効性を有していた。(2)安全性において問題となるような事象が認められなかった。(3)動物実験により、用法・用量・有効性・持続性の根拠となる成績が集積された。以上のことから、本ワクチン製剤は、臨床応用での有用性が望める次世代ワクチン候補として期待できるものであると考えられる。
Type 8 PLA2は抗ウイルス応答を負に制御する因子であり、Type 8 PLA2の阻害剤が粘膜ワクチンの有効性を高めるアジュバントとなる可能性が示唆された。
結論
健常人ボランティアに対し不活化全粒子季節性インフルエンザワクチンの経鼻接種を行った結果血中にEMAの基準を満たすHI抗体が誘導され更に鼻腔洗浄液中に中和抗体が誘導された。本研究の為に供されたワクチンの安全性有効性が動物実験で確認された。また鼻腔洗浄液が経鼻インフルエンザワクチンの有効性評価に有用である事が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201318015C

成果

専門的・学術的観点からの成果
経鼻インフルエンザワクチンは、感染の場となる気道粘膜上に分泌型IgA抗体を誘導することから、血清中のIgG抗体のみを誘導する現行ワクチンより有効性が高いと考えられる。ヒトにおける有効性の検証に加えて、最大の特徴であるヒト分泌型IgA抗体に関しては不明な点が多いため、その性状と中和能について検討した。その結果、pIgAのウイルス感染防御における役割を明らかにした。また、ワクチンにより付与される抗ウイルス応答において、8型PLA2がJAK-STAT経路を負に制御する因子であることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
経鼻インフルエンザワクチンの有効性を明らかにするために、国立感染症研究所ヒトを対象とする医学研究倫理審査委員会承認のもと健康成人ボランティアを募った臨床試験を実施した。既に感染あるいはワクチン接種による基礎免疫を有する季節性インフルエンザウイルスに対しては、不活化全粒子ワクチンのみの経鼻接種により、欧州医薬品庁が定める有効性判断基準を満たす血清HI抗体の誘導に加えて、鼻腔領域内に中和抗体を誘導することを明らかにした。この結果は、実用化を目指す上で非常に意義のある成果と考える。
ガイドライン等の開発
特に無し
その他行政的観点からの成果
特に無し
その他のインパクト
テレビ朝日「モーニングバード」(2013年12月9日放送分)、フジテレビ「全力教室」(2014年1月19日放送分)、日経サイエンス(2014年4月号)等で、実用化に向け研究を行っている経鼻インフルエンザワクチンが取り上げられ、取材協力あるいは出演した。その中で、経鼻インフルエンザワクチンの特徴を紹介すると同時に、本研究課題での研究成果を一部紹介した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
119件
学会発表(国際学会等)
17件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
混合免疫賦活剤を含む新規ワクチン
詳細情報
分類:
特許番号: 5190628
発明者名: 長谷川秀樹、谷本武史
権利者名: 感染研所長、阪大微研
出願年月日: 20080331
取得年月日: 20130208
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ainai A, Tamura S, Suzuki T et al.
Intranasal vaccination with an inactivated whole influenza virus vaccine induces strong antibody responses in serum and nasal mucus of healthy adults.
Hum Vaccin Immunother , 9 (9) , 1962-1970  (2013)
10.4161/hv.25458
原著論文2
van Riet E, Ainai A, Suzuki T, Kersten G, Hasegawa H.
Combatting infectious diseases; nanotechnology as a platform for rational vaccine design.
Adv Drug Deliv Rev. , 74 , 28-34  (2014)
10.1016/j.addr.2014.05.011.
原著論文3
Hasegawa H, van Reit E, Kida H.
Mucosal immunization and adjuvants.
Curr Top Microbiol Immunol. , 385 , 371-380  (2015)
原著論文4
Suzuki T. et.al.
Relationship of the quaternary structure of human secretory IgA to neutralization of influenza virus.
Proc Natl Acad Sci U S A. , 112 (25) , 7809-7814  (2015)
10.1073/pnas.1503885112.
原著論文5
Ainai A, Hasegawa H, Obuchi M, Odagiri T, Ujike M, Shirakura M, Nobusawa E, Tashiro M, Asanuma H.
Host Adaptation and the Alteration of Viral Properties of the First Influenza A/H1N1pdm09 Virus Isolated in Japan.
PLoS One. , 10 (6) , e0130208.-  (2015)
10.1371/journal.pone.0130208
原著論文6
Ikeda K, Ainai A, Hasegawa H.
Protective antibody responses against A(H1N1)pdm09 primed by infection and recalled by intranasal vaccination.
Vaccine. , 33 (45) , 6066-6069  (2015)
10.1016/j.vaccine.2015.09.072.
原著論文7
Saito S, Ainai A, Suzuki T, Harada N, Ami Y, Yuki Y, Takeyama H, Kiyono H, Tsukada H, Hasegawa H.
The effect of mucoadhesive excipient on the nasal retention time of and the antibody responses induced by an intranasal influenza vaccine.
Vaccine. , 34 (9) , 1201-1207  (2016)
10.1016/j.vaccine.2016.01.020.
原著論文8
Hayashi K, Yoshida H, Sato Y, Tobiume M, Suzuki Y, Ariyoshi K, Hasegawa H, Nakajima N.
Histopathological Findings of Lung with A/H1N1pdm09 Infection-Associated Acute Respiratory Distress Syndrome in the Post-Pandemic Season.
Jpn J Infect Dis. , 70 (2) , 197-200  (2017)
10.7883/yoken.JJID.2016.120.
原著論文9
Kawaguchi A, Suzuki T, Ohara Y, Takahashi K, Sato Y, Ainai A, Nagata N, Tashiro M, Hasegawa H.
Impacts of allergic airway inflammation on lung pathology in a mouse model of influenza A virus infection.
PLoS One. , 12 (2) , e0173008. -  (2017)
10.1371/journal.pone.0173008.
原著論文10
Ainai A, Suzuki T, Tamura SI, Hasegawa H.
Intranasal Administration of Whole Inactivated Influenza Virus Vaccine as a Promising Influenza Vaccine Candidate.
Viral Immunol. , 30 (6) , 451-462  (2017)
10.1089/vim.2017.0022.
原著論文11
Suzuki T, Ainai A, Hasegawa H.
Functional and structural characteristics of secretory IgA antibodies elicited by mucosal vaccines against influenza virus.
Vaccine. , 35 (39) , 5297-5302  (2017)
10.1016/j.vaccine.2017.07.093.
原著論文12
Sano K, Ainai A, Suzuki T, Hasegawa H.
The road to a more effective influenza vaccine: Up to date studies and future prospects.
Vaccine. , 35 (40) , 5388-5395  (2017)
10.1016/j.vaccine.2017.08.034.
原著論文13
Terauchi Y, Sano K. et.al.
IgA polymerization contributes to efficient virus neutralization on human upper respiratory mucosa after intranasal inactivated influenza vaccine administration.
Hum Vaccin Immunother. , 9 , 1-11  (2018)
10.1080/21645515.2018.1438791.

公開日・更新日

公開日
2014-06-10
更新日
2018-06-07

収支報告書

文献番号
201318015Z