国際的なバイオリスク管理の基準に基づく病原体取扱いと管理のモデル総合システムの構築と検証に関する研究

文献情報

文献番号
201318009A
報告書区分
総括
研究課題名
国際的なバイオリスク管理の基準に基づく病原体取扱いと管理のモデル総合システムの構築と検証に関する研究
課題番号
H23-新興-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
杉山 和良(国立感染症研究所 バイオセーフティ管理室)
研究分担者(所属機関)
  • 佐多 徹太郎(富山県衛生研究所)
  • 御手洗 聡(公益財団法人結核予防会結核研究所)
  • 棚林 清(国立感染症研究所 バイオセーフティ管理室)
  • 清水 博之(国立感染症研究所 ウイルス第2部)
  • 安藤 秀二(国立感染症研究所 ウイルス第1部)
  • 重松 美加(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 藤本 秀士(九州大学医学研究院 保健学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
19,932,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、研究施設管理のISO、CWA15793バイオリスク管理(BM)基準、最新の欧米の指針の比較調査と分析を行い、BM委員会の役割設定、試料管理を含むBMの管理運用の仕組みの構築、系統的バイオリスク評価と教育研修プログラムの導入等の総合モデルを、既存施設をベースに設計し、BM導入前後での研究活動における有用性を検証し、管理基準の効果を具体的な導入前後の変化で示すことで、病原体等取扱い施設のBM体制の確立に有用な指標を提供する。感染症法に期待されている病原体等の適正な取扱いに関わるBM像の国内普及と研究者および関係施設への浸透に向けた提言と、用途目的に合わせた実験室設計の提案を通じ、安全な研究環境の構築に貢献することを目的としている。併せて、病原体取扱い施設や指導者の認証の国際的な仕組み作りと、教育訓練プログラム作成に協力し、学生実習から特定病原体の研究に至るBMの有り方への提言を行う。
研究方法
病原体等を取扱う事により生じるバイオリスクの管理強化のために、既存のBM基準と指針を分析し、BMの総合モデル設計を研究分担者が分担し実施し、総合報告においてまとめる。試料管理等のバイオリスクの管理運用の仕組みの構築、用途に合わせた実験室のデザインと設計、バイオリスク評価の手法の手引きの作成、教育研修プログラムのモデルの提案とプログラム効果の分析、BM基準導入の研究活動における影響を検討し、効果指標を示す。研究班のニーズ調査、病原体輸送に対する意識調査の分析結果を基に、国際バイオセーフティ学会連合(IFBA)や欧州標準化委員会のBM標準化と専門家認証の仕組み構築に協力する。病原体等取扱い施設のBM体制の確立に有用な研修教材作成のための、検証データ収集のための実験を実施し、事故およびヒヤリハット事例の収集と活用方法の検討を行う。
結果と考察
最終年度は研究成果を学会発表し、論文等にまとめる他、成果物のWEB提供等を進め、総合モデルの主要な3部門の施設設計と教育プログラム案、資材管理プログラムについて国内普及と定着に向けた提言を行った。①モデル実験室の管理運用の効果を検証。BMの国際基準及び主要機関の指針に基づくBSL2教育用実験室をデザイン設計。②資材管理プログラムの運用及び実用性評価。オープンソース資材管理モデルの提示。③地方衛生研究所等におけるヒヤリハット事例の情報共有方法の検討。④BM国際基準の運用効果の検証方法の提案。⑤根絶対象ウイルス取扱いのDVD研修教材のニーズと海外施設のヒヤリハット事例に関する小規模調査の実施。⑥成人教育手法の効果評価方法の検討。⑦3D疑似体験型の教育手法の学習効果と手法受入れ状況調査実施。⑧セミナー型研修の効果評価及び成果発表。⑨病原体輸送の梱包手順資料の作成と安全性強化の研修の内容、教材、資料DVD作成及び研修開催と指導の支援。反復研修の必要性に関する質問票調査の実施と解析。⑩病原体輸送による風評被害発生懸念の妥当性をグループインタビュー調査及びネット調査の解析から検討。⑪病原体輸送容器の消毒滅菌後の耐用性及び効果的高圧蒸気滅菌手法の検証実験の実施と成果発表。⑫WHO「感染性物質の輸送規則に関するガイダンス 2011-2012版」及び「2013-2014版」の翻訳、CENワークショップ合意文書CWA15793、CWA16335作成への協力と要旨の翻訳、IFBA バイオセーフティ専門家認証の設計と設立への参画、リスク評価教本の草案作成。病原体等を取扱う際のBMの強化は「感染事故」及びテロ目的の盗難等の「事件」を防止する為に重要である。国際基準の順守による効果の検証報告例は未だ無く、国内では、感染症法に記載のある設備と機器の要件以外のBMの基準を導入している施設も、実効性の検討の報告もない。本班の研究者らはバイオセーフティ強化に必要な管理体制の提案、安全な病原体輸送のための知識、バイオセキュリティ概念の普及、バイオリスク評価支援ツール作成、人材育成のための教材作成、教育訓練の研修プログラムの提案を行ってきたが、本邦のBMの強化の最大の障害は近年の施設運用予算の著しい削減である。今回、研究期間中に継続的な病原体取り扱い設備の維持と運用人材の養成を保証する施設管理者の理解と予算措置が得られる機関がなかった為、一施設で総合的なモデル施設の構築はできなかった。代替策として本研究では、総合モデルを分割し、モデル施設のデザインと設計、人材育成プログラムのモデルと手段、資材管理モデルについて、要点、選択肢、及び効果を提示した。BM強化を図る際に利用可能である。
結論
本邦のBM強化に必要な国際基準のモデルケースを示し、運用評価した。管理者の状況認識の向上を図り、現場のBM担当者には問題解決能力を付与する人材育成の実践には、行政的支援が不可欠である。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201318009B
報告書区分
総合
研究課題名
国際的なバイオリスク管理の基準に基づく病原体取扱いと管理のモデル総合システムの構築と検証に関する研究
課題番号
H23-新興-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
杉山 和良(国立感染症研究所 バイオセーフティ管理室)
研究分担者(所属機関)
  • 佐多 徹太郎(富山県衛生研究所)
  • 御手洗 聡(公益財団法人結核予防会結核研究所 抗酸菌部)
  • 藤本 秀士(九州大学大学院医学研究院 保健学部門)
  • 有川 二郎(北海道大学大学院 医学研究科)
  • 奈良 武司(順天堂大学 医学部)
  • 棚林 清(国立感染症研究所 バイオセーフティ管理室)
  • 清水 博之(国立感染症研究所 ウイルス第2部)
  • 安藤 秀二(国立感染症研究所 ウイルス第1部)
  • 重松 美加(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、研究施設管理のISO、CWA15793バイオリスク管理(BM)基準、最新の欧米の指針の比較調査と分析を行い、BM委員会の役割設定、試料管理を含むBMの管理運用の仕組みの構築、系統的バイオリスク評価と教育研修プログラムの導入等の総合モデルを、既存施設をベースに設計し、BM導入前後での研究活動における有用性を検証し、管理基準の効果を示し、病原体等取扱い施設のBM体制の確立に有用な指標を提供する。感染症法が求める病原体等の適正な取扱いに必要なBMの具体像の国内普及と浸透に向けた提言と、用途目的に合わせた実験室設計の提案を通じ、安全な研究環境の構築に貢献することを目的としている。併せて、病原体取扱い施設や指導者の認証の国際的な仕組み作りと、教育訓練プログラム作成に協力し、学生実習から特定病原体の研究に至るBMの有り方への提言を行う。
研究方法
国際的なBM基準と欧米各国の最新の指針を比較調査及び分析し、研究分担者が分担しBMの総合モデル設計を行う。BM運用の仕組みの構築、用途毎の器機配置や研究者の動線を考慮した実験室のデザインと設計、バイオリスク評価の手順書作成、モデル教育研修プログラムの提案と効果の分析、BM基準導入による研究活動への影響を検討し、効果判定指標を示す。施設のニーズ調査、病原体輸送に対する意識調査の分析結果を基に、国際バイオセーフティ学会連合のBM標準化と専門家認証機構の設計と導入に協力する。病原体等取扱い施設のBM体制確立に有用な研修教材の作成、検証データ収集の為の実験を実施し、事故およびヒヤリハット事例の収集と活用方法の検討を行う。
結果と考察
①モデル実験室のデザインと設計を行い、管理運用の効果について検証。②BMの国際基準および主要機関の指針に基づくBSL2教育用実験室をデザイン設計。③二次元バーコードを用いた資材管理プログラムを作成、モデルケースを提示。④地方衛生研究所等の研修の実態調査と改善、ヒヤリハット事例の情報共有方法の検討を実施。⑤BM国際基準の効果検証方法を人材育成とヒヤリハット事例減少の二点から提案。⑥高度封じ込め病原体取扱い者研修用DVD教材の翻訳、同施設でのヒヤリハット事例調査を実施。⑦成人教育手法の調査分析、効果評価方法の検討。⑧3D疑似体験型教育のプロトタイプの設計、学習効果と対象群の受容調査の実施。⑨複数手法を組み合わせた研修実施と学習定着に関する効果評価。⑩安全な病原体輸送のための容器、梱包方法、注意喚起のあり方の検討及び、専用オーバパック容器の開発。⑪厚生労働省による研修及び講習のプログラムと教材作成、開催支援、指導、質問票調査の実施と解析。⑫一般の方に対するインターネット調査の実施と解析及び質的調査との複合解析を行い、病原体輸送を行うことによる風評被害発生懸念の妥当性を検討した。⑬病原体輸送容器の消毒滅菌及び内圧への耐用性の検討と反復利用のリスクデータの収集、⑭効果的な高圧蒸気滅菌手法の検証等を行った。他に、⑮WHO「感染性物質の輸送規則に関するガイダンス」の2011-2012版及び2013-2014版の翻訳、⑯CENワークショップ合意文書CWA15793、CWA16335作成協力及び要旨の翻訳紹介、⑰IFBA バイオセーフティ専門家認証の設計と設立委員会への参画、⑱リスク評価教本草案の作成を行った。経済的環境の悪化で予算措置の可能な施設が無く、1施設での総合的モデル設立は困難であったが、施設、人材、資材管理のBMの3要点に絞り、モデル実験室2つをデザイン、設計、一部改修し、人材育成手法の紹介、複数の育成プログラム案の提示、既存資材を活用した資材管理手法を示した。本邦のBMの強化の障害は施設運用予算の著しい削減が大きく影響し、導入設備の維持と運用人材の養成の重要性への管理者の理解が不可欠である。効率的組織運営と設備管理により、長期的な研究上のコスト削減と科学的成果の品質管理の両立を図る発想の転換を施設管理者へ期待したい。同時に、現場のBM担当者には、原則に則り臨機応変に自発的に解決策を探求する姿勢と訓練が必要である。それには、問題解決型の育成プログラムとその指導者の確保が鍵となる。研究の国際的流動性に対応し、本邦発の研究成果の国際的競争力を担保する為にも、BM実務者が参加する国際基準の組織作りは必然である。BMに関する全方位的な情報収集を今後も継続する必要がある。
結論
本研究班は予算的制約の中で、本邦のBM強化に必要な国際基準のモデルケースを3つの領域において示した。施設改善には管理者の理解と継続的支援が、問題解決能力を付与する人材育成の実践には、認証制度と職域の設立など行政的支援が不可欠である。今後は、実験室でのヒヤリハット事例のデータベース化と、その人材教育と未然防止の啓発への活用を検討する。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201318009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
バイオリスク管理の基礎を集約した早期曝露的研修を、研究を開始したばかりの大学院生に対して行い、リスク評価と安全管理に関する知識定着についてのデータを示した。学問領域の確立が世界的にも懸案となっていることから、教育機構の構築に重要なエビデンスを提供している。消毒滅菌、資材の耐用性等の安全に関わる具体的なエビデンスを、数値データとして示した。
臨床的観点からの成果
本研究は医療分野との直接的接点は無いため、臨床=現場と読み替えて記載する。
1つ目の実験室では、バイオセーフティの確保のためデザイン変更の指示を行い、モデルとして実際にそれに沿った内部の改修を行った。2つ目の実験室はバイオリスク管理の基準に基づく設計図面を作成し、予定された改修に備えて提供した。資材管理を現場導入することで、バイアル紛失等のリスクの低減を可能にした。臨床検体の安全な梱包と輸送についての知識普及へ貢献した。
ガイドライン等の開発
既存のWHOガイドラインの翻訳と紹介を実施。欧州標準化委員会での国際基準及びバイオリスク管理専門家の要件に関する専門家委員会での討議に参加し、2011年に2つの合意文書としての指針策定に協力した。2014年以降、この合意文書を元に国際標準化機構においてISO 35001バイオリスク管理システム国際規格の草案作成に協力し、推敲後TC212 WG5 CDを経て、現在TC212案としてのDIS投票中である。
その他行政的観点からの成果
ゆうパック輸送に用いる常温および冷凍用の4次容器をデザイン、設計し、制作し、発生動向調査等の厚生労働省の管轄の輸送において利用されている。ゆうパックでの輸送および、病原体と臨床検体の梱包に関する研修プログラムを設計し、厚生労働省へ提供し、年2~4回の継続運用がなされ、国内の輸送の安全向上に寄与している。
その他のインパクト
大学教育へのバイオリスク管理の取り入れを、他国に先駆け実施し、その成果を学会等で共有することで、他国での導入を促進している。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
27件
その他論文(英文等)
3件
CEN Workshop Agreementを共著 1)CWA15793:2011 2)CWA16335:2011 professional competence
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
ゆうパックでの感染性の疑われる材料の輸送に用いる4次容器の設計、同研修プログラムの設計、研修用DVD資料の作成
その他成果(普及・啓発活動)
15件
WHO発行資料の翻訳、WEBでの無償公開 小児科医会、研修、市民セミナーなどでの講演

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Iki S, Horiguchi I, Shigematsu M, et al.
Qualitative analysis by focus group interviews of the image and acceptability among housewives of pathogen transport.
Jpn. J. Infect. Dis. , 65 (5) , 403-409  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-05-23
更新日
2018-06-07

収支報告書

文献番号
201318009Z