文献情報
文献番号
201318005A
報告書区分
総括
研究課題名
網羅的ロタウイルス分子疫学基盤構築とワクチン評価
課題番号
H23-新興-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
片山 和彦(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究分担者(所属機関)
- 藤井 克樹(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
- 村上 耕介(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
- 下池 貴志(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
- 高木 弘隆(国立感染症研究所 バイオセーフティ管理室)
- 中込 治(長崎大学医学部感染免疫学講座)
- 中込 とよ子(長崎大学医学部感染免疫学講座)
- 小林 宣道(札幌医科大学医学部)
- 谷口 孝喜(藤田保健大学医学部ウイルス寄生虫講座)
- 水谷 哲也(東京農工大学農学部付属国際家畜感染症防疫研究教育センター)
- 辰巳 正純(札幌医科大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
23,943,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
第一の目的は、国家レベルでロタウイルス(RV) の分子疫学調査基盤を構築し、RVワクチン導入効果を多角的に評価することである。全国を5つのブロックに分割して拠点病院に協力を依頼し、RV感染症事例(重症の入院事例を含む)を対象に網羅的な情報検出と、RV全ゲノム塩基配列を対象とした分子疫学情報の蓄積を行う。情報は、臨床的側面、ワクチンの投与の有無、ゲノム塩基配列などから多角的に解析し、RV感染症重篤化に関与する因子の同定、ワクチン評価システムの構築等に役立てる。第二の目的は、全国規模蓄積したデータに基づきバイオインフォマティックスによる解析を実施し、RVの病原性発現機構研究、ワクチン作用機序研究の推進に寄与することである。
研究方法
全国13箇所の小児科病院拠点にて、RV感染症が疑われる入院症例の調査を実施した。便検体に含まれるRVのスクリーニング、全ゲノムセグメント塩基配列解析を実施した。周辺諸国のRVについても全ゲノムセグメント解析調査を行い、我が国の流行動向との比較検討を実施した。ウシRVをベースとしたロタテックにより生じるウシRVリアソータントのデータ蓄積も実施した。
結果と考察
病院ベースのネットワークを用いて、ロタウイルス感染症の入院事例を対象とした網羅的な情報検出と、検体のサンプリング、蓄積が継続され流行期の検体解析が行われた。全ゲノムセグメントを対象とした網羅的塩基配列解析は、これまでの疫学では検出し得なかった新規リアソータントロタウイルスの感染事例が重症ロタウイルス感染症での入院症例に含まれていたことを明らかにした。これらの結果は、ロタウイルスが予想をはるかに超えた形で遺伝子分節再集合を起こして進化していることを示していた。また、ブタ様セグメントがヒトロタウイルスに侵入したことも検出した。動物のロタウイルスセグメント侵入は、ウシロタウイルスベース生ワクチン(ロタテック)の接種により加速される可能性も有り、今後も厳重な注意が必要である。
ワクチンの接種率は、地域によって差があるが、全国平均で約45%に達した。昨年の調査対象地域における接種率5%未満に比し劇的な摂取率上昇を示した。ワクチン導入前後にあたる3シーズンのRVA流行状況を解析したところ、ウイルス検出率の低下傾向や、リアソータント株の2シーズン連続の流行など、これまでにない状況が観察された。今後従来とは異なる流行パターンに移行するおそれもあり、広範囲での継続的かつ詳細な監視体制の強化が必要である。また、今回2シーズン連続の流行が明らかとなったリアソータント株は、今後新たな流行株として定着する可能性も十分に考えられる。
ワクチンの接種率は、地域によって差があるが、全国平均で約45%に達した。昨年の調査対象地域における接種率5%未満に比し劇的な摂取率上昇を示した。ワクチン導入前後にあたる3シーズンのRVA流行状況を解析したところ、ウイルス検出率の低下傾向や、リアソータント株の2シーズン連続の流行など、これまでにない状況が観察された。今後従来とは異なる流行パターンに移行するおそれもあり、広範囲での継続的かつ詳細な監視体制の強化が必要である。また、今回2シーズン連続の流行が明らかとなったリアソータント株は、今後新たな流行株として定着する可能性も十分に考えられる。
結論
病院ベースのネットワーク(8都道府県、12病院)の下、ロタウイルス感染症入院事例の網羅的情報検出、検体サンプリング、ウイルス学的データ、臨床データの蓄積および解析を開始行った。ロタウイルスの全11ゲノムセグメント増幅法の開発に成功したことにより、平成24年度までに131入院事例のロタウイルスゲノム全セグメント全長塩基配列決定に成功した。ワクチンの第一の標的である入院患者におけるロタウイルスの遺伝子型分布を調査し、全国で優勢株が同様であることが分かった。しかし、驚くべきことにその優勢株は、G1P[8]の過半数が一般的なWa-likeな遺伝子型構成ではなく、DS-1-like遺伝子分節再集合体であることが全セグメント全長塩基配列決定によって明らかになった。これらの結果は、ロタウイルスが予想をはるかに超えた形で遺伝子分節再集合を起こして進化していることを示していた。また、ブタ様セグメントのヒトロタウイルスへの侵入も検出した。平成25年度は、北海道、秋田県、宮城県、東京都、愛知県、京都府、山口県の7都道府県9病院からRV下痢症入院患者のロタウイルス陽性患者便検体165検体の内、Wa-like G1タイプが32検体(19%)、DS-1-like G1タイプが100検体(61%)、G2タイプが10検体(6%)、G3タイプが3検体(2%)、G9タイプが20検体(12%)であった。2011/12シーズンに発見されたDS-1-like G1タイプの流行が、2012/13シーズンに入っても引き続き優勢になっていることが明らかとなった。このウイルス株は特に東日本・北日本で多く検出されており、今後の動向に注意が必要である。現在ワクチン接種率は、全国平均で45%に達しており、ワクチンによる淘汰圧上昇がロタウイルスのゲノム遺伝子型構成に影響を与え、新規リアソータントの出現を加速させている可能性がある。我々は、ロタルイスの未知の変化に対応すべく、ロタウイルスの11ゲノムセグメントを対象とした分子疫学的研究を継続していく必要がある。
公開日・更新日
公開日
2015-03-31
更新日
-