新型インフルエンザ発生時の公衆衛生対策の再構築に関する研究 

文献情報

文献番号
201318003A
報告書区分
総括
研究課題名
新型インフルエンザ発生時の公衆衛生対策の再構築に関する研究 
課題番号
H23-新興-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
押谷 仁(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所感染症情報センター)
  • 和田 耕治(国立国際医療研究センター)
  • 神垣 太郎(東北大学 大学院医学系研究科 )
  • 齋藤 玲子(新潟大学 大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,576,000円
研究者交替、所属機関変更
所属研究機関変更;研究分担者 和田耕治 (旧)北里大学 (新)国立国際医療研究センター 2013/8/1より 

研究報告書(概要版)

研究目的
新型インフルエンザのパンデミックは世界中に急速に拡大して、多くの感染者と死亡者をもたらし、社会的にも大きな問題となりうる。その対策としては、ワクチンや抗ウイルス薬以外にも、学校等の休業措置・水際対策・手洗いなどの個人防御を含む公衆衛生対策も重要な対策として考えられてきているが、これらの有効性に関する科学的根拠をさらに積み重ねていくことが今後の新型インフルエンザ対策には重要であると考えられる。
研究方法
1.地域におけるインフルエンザ流行の疫学像に関する研究を行うために、長崎県諫早市(人口約14 万人)および秋田県大館市(人口約8 万人)においてインフルエンザ患者から検体および患者情報を収集するとともに、GIS(地理情報システム)解析や追加のアンケート調査などの疫学解析を行った。2.インフルエンザに対する公衆衛生対応としての有効な検疫のあり方に関する研究として国内1か所の検疫所の健康相談室を訪問し健康相談を行ったものに関する記述疫学を行った。3.市町村における新型インフルエンザ対策を支援するためのツール開発として、予め設定した10 のステップに対して都道府県・市町村の担当者及び有識者からなるグループディスカッションによって整理した。その後、支援ツールの作成と都道府県・市町村でのワークショップを通して使用するワークシートを作成した。4.パンデミック発生時のリスク評価(Pandemic severity)実施の必要性を世界保健機関(WHO)が示しており、この評価が様々なインフルエンザ対策実施のための判断やコミュニケーションの材料となる。この整備はとくにいくつかの対策を組み合わせる公衆衛生対策においても重要であると考えられる。そこで現時点における我が国における情報収集システムの整理を通してグループディスカッションを実施した。
結果と考察
市町村における新型インフルエンザ対策を支援するためのツール開発としてまず、市町村行動計画作成のための手引きを作成し研究班で作成した「新型インフルエンザ対策に関するエビデンスのまとめ」をウェブサイトに公開した。またこれらをもとにいくつかの自治体に行動計画作りに参加しながら地域における新型インフルエンザ対策に関する知見を深めた。第2に、パンデミック発生時のリスク評価の必要性を受けてリスク評価フレームワーク構築に関する指標の整理を行った。第3に、地域におけるインフルエンザ流行の動態に関する疫学研究を継続して行った。長崎県諫早市のフィールドでは医療従事者に比して学校職員の低いワクチン接種率およびB型インフルエンザの小学校内流行ではクラス単位の流行拡大が観察された。秋田県大館市では医療受診した患者の約95%が2日以内の受診行動をとっていたこと、小中学生がいる世帯での二次感染を疑うエピソードのうち46%の初発例が小学生であったことなどが明らかとなった。
結論
本研究班では「新型インフルエンザ発生時の公衆衛生対策の再構築に関する研究」について3年間の研究期間を設置して研究を行ってきた。人口の多くが免疫を持たない新型インフルエンザの流行は経済的にも公衆衛生的にも大きな問題となる可能性があり、この被害を軽減するために流行像に応じた様々な対策の組み合わせが必要である。パンデミック(H1N1)2009の経験から薬物的対応と並んで重要な対策である公衆衛生対策の有効性が明らかとなったものの、より効果的な対策の実施にはより一層の知見の蓄積が必要である。研究最終年度となる平成25年には新型インフルエンザ対策の最前線となる市町村における行動計画作りに関して支援ツールを作成したうえで、いくつかの市町村とともにそのツールを活用した行動計画作りに参加した。また世界保健機関のインフルエンザ対策のガイダンスの改訂では新型インフルエンザの疫学像に対するアセスメントに基づいた対策の実施が強調されたことを受けて、我が国におけるインフルエンザのリスクアセスメントに資するデータの整理を行った。これらの研究によりエビデンスの蓄積および発信、行動計画や医療機関の事業継続計画に関するツール、リスクアセスメントの実施に向けた情報の整理を行うことができ、今後の新型インフルエンザ対策に有効に利用されることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

文献情報

文献番号
201318003B
報告書区分
総合
研究課題名
新型インフルエンザ発生時の公衆衛生対策の再構築に関する研究 
課題番号
H23-新興-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
押谷 仁(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所感染症情報センター)
  • 和田 耕治(国立国際医療研究センター)
  • 神垣 太郎(東北大学 大学院医学系研究科)
  • 齋藤 玲子(新潟大学 大学院医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
所属研究機関変更;研究分担者 和田耕治 (旧)北里大学 (新)国立国際医療研究センター 2013/8/1より

研究報告書(概要版)

研究目的
新型インフルエンザ対策としては、ワクチンや抗ウイルス薬以外にも、学校等の休業措置・水際対策・手洗いなどの個人防御を含む公衆衛生対策も重要な対策として考えられているが、これらの有効性およびその限界に関する科学的根拠は十分とは言えない。2009年に発生したパンデミックインフルエンザに対する公衆衛生対策の有効性が継続的に検討されており、諸外国とは異なる対応が実施された日本独自の対策への評価が求められている。また、新型インフルエンザ等対策特別措置法が2013 年4 月に施行されており、法整備を受けた行動計画の改訂が求められる。とくに流行規模を反映したフェーズとそれに応じた公衆衛生対策の組み合わせでは弾力的に対応出来なかった過去の教訓を踏まえて、世界保健機関(WHO)ではリスクアセスメントによる流行像の評価と対策の実施を勧めている。このように公衆衛生対策の再構築を進めていくためにはインフルエンザの流行動態に関する理解を深め、法的根拠に基づいた計画作りや事前準備に対するサポートを行い、そして公衆衛生対策の効果と限界に関する知見の整理など多角的に検討して行くことが必要である。
研究方法
平成23年度I.新型インフルエンザに対する公衆衛生対策の論文等の文献調査および情報発信ウェブの開発(押谷、齋藤、和田、砂川、神垣)II.インフルエンザ(H1N1)2009 に対して日本で行われた公衆衛生対策の有効性の検討(和田、押谷)III.地域におけるインフルエンザ流行の疫学研究およびインフルエンザ対策の効果に関する検討(齋藤、神垣、押谷)。平成24年度 I. 地域におけるインフルエンザ流行の動態に関する研究(齋藤、神垣、押谷)II.新型インフルエンザに対する公衆衛生対策としての有効な検疫のあり方に関する研究(砂川)III. 新型インフルエンザ流行時の公衆衛生対策に必要なデータ解析およびツールの開発研究(和田、押谷)IV.新型インフルエンザ等発生時の診療継続計画作りに関する研究(吉川)。平成25年度I. 地域におけるインフルエンザ流行の動態に関する研究(齋藤、神垣、押谷)II.新型インフルエンザに対する公衆衛生対応としての有効な検疫のあり方に関する研究(砂川)III.市町村における新型インフルエンザ対策を支援するためのツール開発を目指した研究(和田、押谷)IV.新型インフルエンザ発生時のリスク評価フレームワーク構築に関する研究(砂川、押谷)
結果と考察
本研究では新型インフルエンザ発生時の公衆衛生対策の再構築を進めるための知見を集めることを目的に研究を進め、パンデミック(H1N1)2009で実施された公衆衛生対策に関する文献調査を実施して、そのまとめをウェブに公開した(新型インフルエンザ対策に関するエビデンスのまとめ、http://www.virology.med.tohoku.ac.jp/pandemicflu/school.html)。またフィールド研究によりインフルエンザの地域における空間的な広がりの可視化による検討、学童及び未就学児での高い累積罹患率、流行像として学童群が流行をリードするパターンと成人層が流行をリードするパターンがあること、小学校区を単位で考えた場合に罹患率が高く学区を横断する通園児童での流行は学区間の広がりを説明しないこと、小学生の症例が家族内二次感染の約半数の起点になりうること、医療機関を受診する症例のほとんどは発症してから2 日以内という非常に早い段階で受診していることなどが明らかとなった。これらから公衆衛生対策の実施により感染拡大をある程度コントロールすることは可能であり特に早期に実施することはその効果を大きくすることが出来ると考えられるが、その効果を最大化するための組み合わせや種々の対策の有効性や限界については更なる知見が必要である。また市町村や医療機関における新型インフルエンザ対策を推進するためにいくつかのガイドライン・マニュアルの開発を行った(「新型インフルエンザ等発生時の診療継続計画作りの手引き」及び「市町村行動計画作成のための手引き」)。これらは実際の使用に即して更なる改訂をしていくことが望ましいと考えられる。将来のインフルエンザパンデミックでは流行像に対するリスクアセスメントの実施と対策の評価というサイクルが重要であり、そのアセスメント方法の検討が今後必要と考えられる。
結論
新型インフルエンザに対する公衆衛生による効果は期待できるが、詳細な運用についてはまだまだ知見が不十分である。インフルエンザの流行動態は地理的に、人口動態的に必ずしも均質に広がるわけではなく、ターゲットとなる地域や年齢層における流行動態の理解は不可欠である。これらを踏まえて実際のインフルエンザ対策を実施する自治体や関係機関への継続的な支援を行っていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-03-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201318003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
インフルエンザパンデミック(H1N1)2009 で実施された公衆衛生対策に関する文献調査を実施して、そのまとめをウェブに公開した(新型インフルエンザ対策に関するエビデンスのまとめ、http://www.virology.med.tohoku.ac.jp/pandemicflu/school.html)
臨床的観点からの成果
小学校区を単位で考えた場合に罹患率が高く学区を横断する通園児童での流行は学区間の広がりを説明しないこと、小学生の症例が家族内二次感染の約半数の起点になりうること、医療機関を受診する症例のほとんどは発症してから2 日以内という非常に早い段階で受診していることなどが明らかとなった。これらから公衆衛生対策の実施により感染拡大をある程度コントロールすることは可能である。
ガイドライン等の開発
1. 吉川徹、和田耕治、石丸和宏、押谷仁.新型インフルエンザ等発生時の診療継続計
画作りの手引き. 2. 石丸和宏、吉川徹、和田耕治.パンデミックインフルエンザに対する病院管理体制チェックリスト.2013  3. 和田耕治.市町村(保健所を設置していない)のための新型インフルエンザ等対策特別措置法に関連した行動計画作成ツール
その他行政的観点からの成果
感染者数を血清疫学調査に基づいて推定した上で、超過死亡数を除した感染時致命確率を年齢層ごとに推定したものを日本の人口に外挿して算出して新型インフルエンザ等対策有識者会議医療公衆衛生に関する分科会(第4回)において資料として提出した(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002oeqs-att/2r9852000002oevc.pdf)。また、第16回新型インフルエンザ専門家会議において、新型インフルエンザのリスクアセスメントについての説明を行った。
その他のインパクト
1.押谷仁.(H23)【インフルエンザその現状と対応】インフルエンザ流行の世界的動向.化学療法の領域27巻12号 2.同. (H24)【インフルエンザをめぐる最近の進歩】世界的にみたインフルエンザの動向鳥インフルエンザを含めて. 呼吸器内科22巻6号 3. 同. (H25) "新型インフルエンザ等"の法的規制を考える公衆衛生の立場から考える新型インフルエンザ対策. 感染症道場2巻4号

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
8件
総説
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hirotsu N, Wada K, Oshitani H.
Risk Factors of Household Transmission of Pandemic (H1N1)2009 among Patients Treated with Antivirals: A Prospective Study at a Primary Clinic in Japan.
PLoS One. , 7(2)  (2012)
doi: 10.1371/journal.pone.0031519.
原著論文2
Wada K, Ezoe-Oka K, Smith DR.
Wearing Face Masks in Public During the Influenza Season May Reflect Other Positive Hygiene Practices in Japan.
BMC Public Health , 12:1065  (2012)
原著論文3
Isawa T, Wada K.
Reasons for and against receiving influenza vaccination in a working age population in Japan: a national cross-sectional study.
BMC Public Health , 13:647  (2013)
原著論文4
Wada K, Smith DR.
Influenza vaccination uptake among the working age population of Japan: results from a national cross-sectional survey.
PLoS ONE. , 8(3): (e59272.)  (2013)
doi: 10.1371/journal.pone.0059272.
原著論文5
Suzuki T, Ono Y, Maeda H,et al.
Effectiveness of Trivalent Influenza 11 Vaccine among Children in Two Consecutive Seasons in a Community in Japan.
Tohoku J Exp Med. , 232 , 97-104  (2014)
原著論文6
Huo X, Kamigaki T, Mimura S, et aL.
Analysis of medical consultation interval between the symptom onset and consultation observed in multiple medical facilities in Odate city, Japan, 2011/2012 and 2012/2013 season.
J Infect Chemother.  (2014)
doi: 10.1016/j.jiac.2014.02.005.
原著論文7
Mimura S, Kamigaki T, Takahashi Y, et al.
Role of Preschool and Primary School Children in Epidemics of Influenza A in a Local Community in Japan during Two Consecutive Seasons with A(H3N2) as a Predominant Subtype.
PLoS ONE. , 10(5): (e0125642.)  (2015)
doi: 10.1371/journal.pone.0125642.
原著論文8
Cauchemez S, Van Kerkhove MD, Archer BN, et al.
School closures during the 2009 influenza pandemic: national and local experiences.
BMC Infect Dis. , 14:207.  (2014)
doi: 10.1186/1471-2334-14-207.

公開日・更新日

公開日
2014-06-10
更新日
2017-06-05

収支報告書

文献番号
201318003Z