高齢障害者の機能的状態の予測因子に関する研究

文献情報

文献番号
199800240A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢障害者の機能的状態の予測因子に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
中村 隆一(国立身体障害者リハビリテーションセンター更生訓練所)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では、高齢者の現状および将来の心身機能を予測する指標を定め、それによって得られるデータから将来の心身機能の低下についての危険因子を明らかにすることを目的とした。
研究方法
本研究は大きく3領域のテーマで構成されている。第1は高齢者および脳卒中による障害者の機能的状態を予測するための簡便な諸尺度について併存的妥当性を検証すること、第2は地域社会で生活を送っている高齢者の余命や機能的状態およびフィットネス訓練の効果に関する諸尺度の予測的妥当性の検討、第3は脳卒中患者の機能的予後に関連する諸尺度の予測的妥当性に関する調査である。
1.現在の機能的状態を予測するための諸尺度と変数
①地域社会に生活している高齢者の生活活動状況:宮城県O町の在宅高齢者121名を対象に心肺フィットネス、筋力、10m距離最大歩行速度(MWS)などの体力テストとMotor Fitness Scale(MFS)および改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)による評価を行い、活動状況調査との関連について分析した。
②生活活動状況に関する評価尺度の標準化の試み-生活活動尺度の在宅高齢者、入所脳卒中者への適応:これまでの研究によって活動状況調査を簡便化した生活活動尺度(LAS)が完成した。仙台市の在宅高齢者111名を対象にして、LAS、老研式活動能力指標(TNIG)、MFSを質問紙法によって調査した。また岡山市内4か所の特別養護老人ホーム入所の脳卒中者68名からLAS、バーセルインデックス(BI)、TMIG、医学的情報および個人情報を得て、諸変数間の関連について調査を行った。
2.高齢者の余命・機能的状態の予測、訓練効果の予測にかかわる変数
①加齢による高齢者の運動能力低下-Motor Fitness Scaleによる追跡調査-:平成9年と10年に調査が実施できた宮城県W町の在宅高齢者92名の個人情報、BI、拡大日常生活活動(EADL)、MFS間の関連について検討した。
②在宅高齢者の機能的状態の予測に関する研究-社会関連性と生命予後との関連を中心として-:愛知県T村在住の60歳以上の全員1,069名を対象に平成4-8年にわたって質問紙による社会関連性を調査し、925名から有効回答を得た。またT村保健センター資料により死亡に関する情報を得た。以上の資料から生存か死亡かの判別にかかわる要因を分析した。
③高齢者に対する持久性運動訓練の効果(最大酸素摂取量の改善率)予測因子に関する研究:公募に応じた仙台市民から62名を選び、無作為に運動群29名、対照群33名に分け、6ヵ月の運動訓練を行い、個人情報、運動生理学的変数および運動学的変数について、その前後で比較検討を行った。参加者は全員健康であり、BIは満点であった。
3.脳卒中患者の機能的予後に関する予測因子
①脳卒中患者における機能回復予測システム(RES-4)の適応可能性-バーセル・インデックスにおける予測値と実測値との不一致に関わる要因分析-:脳卒中の機能回復予測システム(RES-4)は実用に供されているが、一部の患者では予測値と実測値との間に不一致が生じる。そこでRESから520名のデータを得て、BIについて予測値と実測値との差が±10を越える患者の入院時特性を分析し、RES-4利用上の注意点を検討した。
②脳卒中患者における社会的不利の定量的評価に関する研究:発症前に有職であった脳卒中患者52名を対象にして、退院後6ヵ月における社会的不利の状況についてCHARTを用いて調査を行った。なおCHARTから経済的自給の領域は除外した。合計点および各領域別得点を従属変数、退院時の年齢、SIAS-M、FIM領域別得点を独立変数として重回帰分析を行った。
結果と考察
1.現在の機能的状態を予測するための諸尺度と変数
①地域社会に生活している高齢者の生活活動状況:今回の調査では、まず活動状況調査表の簡便化を試みた。75項目の活動から行っている者が20%未満、80%以上のものを除き、33項目を選び、一次元尺度を構成した。その上で86名を対象とした分析では、活動状況スコアの決定因はMWSとHDS-Rであった。身体活動能力と知的能力の高い者ほど、生活活動は多様であり、変化に富んでいることを示唆している。
②生活活動状況に関する評価尺度の標準化の試み-生活活動尺度の在宅高齢者、入所脳卒中者への適応:LAS項目の通過率の順序は、脳卒中者では在宅でも入所でも類似したプロフィールであった。またLASスコアとTMIGスコアとの相関は有意であり、この点からもLASは基準関連妥当性のある尺度と言える。ただし、日常生活における活動性の高い在宅高齢者では両者の相関は低くなり、彼らでは生活環境やライフスタイルの多様性がLASに反映していると解釈される。
以上の結果から、TMIGのように現在わが国で広く用いられている諸尺度は、ある程度は活動性が低下した場合、その状態を評価するのによい尺度であるが、より活動的である高齢者を対象とする場合には活動状況調査あるいはその簡易版であるLASを利用するのがよいと結論される。
2.高齢者の余命・機能的状態の予測、訓練効果の予測にかかわる変数
①加齢による高齢者の運動能力低下-Motor Fitness Scaleによる追跡調査-:地域社会における歩行機能の維持されている在宅高齢者では、1年間の経過では日常生活活動は不変であるが、全身運動や身体バランスなどの基礎的運動能力は確実に低下し、高齢である者ほど低下は顕著であった。基礎的運動能力の低下を予測させる要因は、知的機能と膝伸展力で代表される筋力、非利き手の機能などであった。
②在宅高齢者の機能的状態の予測に関する研究-社会関連性と生命予後との関連を中心として-:社会関連性指標(5領域18項目)調査から5年後の死亡率に関する要因を分析した結果、有意な関連のあるのは年齢、移動能力、身辺処理能力であった。社会への関心、他者とのかかわり、身近な社会参加などは得点が高い場合、死亡率は低下する傾向を示した要因であった。積極的な社会との関係を維持している高齢者の生命予後は良好と言える。
③高齢者に対する持久性運動訓練の効果(最大酸素摂取量の改善率)予後因子に関する研究:最大酸素摂取量改善率=[(訓練後の値-訓練前の値)/訓練前の値]で定義し、改善率に関連する要因を分析した結果、有意な変数は「訓練前の値」だけで、それが低い者ほど改善率は高くなっていた。筋力や身体活動状況は改善率との間に関連が認められなかった。
以上の結果から、日常生活において活動的であり、社会性もある高齢者は運動能力および知的能力が高く、5年後の死亡率が低いことは明らかである。これらの予測には、MFSや10m距離最大歩行速度、社会関連性指標などを利用するのが簡便で信頼性のある方法であろう。一方、運動訓練による心肺フィットネス改善率は、その機能レベルが低い高齢者において著しいことから、適度の身体運動を継続して行うことが高齢者の健康維持によい結果をもたらすと言える。
3.脳卒中患者の機能的予後に関する予測因子
①脳卒中患者における機能回復予測システム(RES-4)の適応可能性-バーセル・インデックスにおける予測値と実測値との不一致に関わる要因分析-:脳卒中患者では、入院リハビリテーション開始後4・8・12週において、実測値が予測値を上回るのは、入院時に直腸膀胱障害がある、軽度の感覚障害があるという特性を示す患者群であった。一方、実測値が予測値を下回るのは、入院時BIが30未満、年齢が54歳以下、発症から入院までの期間が30日以内の者であった。入院時評価において、これらの特性を考慮することでRES-4の信頼性は高まる。
②脳卒中患者における社会的不利の定量的評価に関する研究:CHART得点は年齢、機能障害や能力低下と有意な相関を示し、重回帰分析では年齢とFIMを用いてCHART合計点と領域別得点を予測することが可能と思われた。
これらの研究は脳卒中リハビリテーションの過程において、3-6ヵ月後の能力低下あるいは社会的不利を、ある特定の時期における種々の患者特性と重回帰式を用いることで予測することが実用的になったことを示している。
結論
一連の研究結果から、高齢の在宅者や障害者を対象として生命予後から社会的活動性までを知る目的には歩行能力と知的能力を指標とすることで併存的妥当性および予測的妥当性のある結果が得られることが示された。操作的には、簡便な方式として10m距離最大歩行速度や下肢筋力、バランス保持能力、改訂長谷川式簡易知能評価スケールなどをチェックし、加えてMotor Fitness Scaleや社会関連性指標などの質問紙を利用するとよい。これらの尺度によって得られる得点が低い場合、あるいは検査の適用にならない場合にはバーセル・インデックスなどの指標が有用であろう。
一方、高齢障害者に多い脳卒中患者のリハビリテーションでは、患者の機能的状態に関して予測的妥当性の得られる予測式を求める方法がデータベースと多変量解析の手法を利用することで確立した。実際、特定時期(1-3ヵ月)における機能的状態像を予測することが実用的になったと言える。

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