骨髄・臍帯間葉系細胞由来脳移行性シュワン細胞による脳梗塞の神経修復治療

文献情報

文献番号
201317110A
報告書区分
総括
研究課題名
骨髄・臍帯間葉系細胞由来脳移行性シュワン細胞による脳梗塞の神経修復治療
課題番号
H24-神経-筋-若手-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
松瀬 大(九州大学 大学院 医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 松下 拓也(九州大学 大学院 医学研究院)
  • 吉村 怜(九州大学 大学院 医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
3,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 脳梗塞は罹患率の高い疾患であり、罹患すると多くの後遺症を残し、ADLを大きく損ねることが少なくないが、発症後の症状を改善する治療法に乏しいのが現状である。過去の脳梗塞に対する細胞移植治療研究は多くなされており、機能改善を認めているものが多数見られるが、そのほとんどは機能改善の機序が明確にされていない。移植細胞もさまざまなものが使用されているが、移植した細胞そのものが失われた細胞の代わりとなって機能改善しているというよりむしろ、移植細胞の栄養効果等による改善が主である報告が少なくないと思われる。  
シュワン細胞は軸索再生を促す作用を持ち、移植した場合、末梢神経だけでなく、中枢神経においても軸索の再生をサポートする。したがって、本来軸索再生能力に非常に乏しい中枢神経疾患において、シュワン細胞を用いた細胞移植治療は非常に高い可能性を持っていると思われる。しかし、シュワン細胞を神経疾患の治療に実用化する際に、末梢神経由来のシュワン細胞を使用する場合は、シュワン細胞を得て培養するために他の健康な末梢神経を切除せざるを得ない。さらに、適切な時間の中で治療に十分な量のシュワン細胞を培養、増殖させることは技術的に困難である。したがって、末梢神経に代わって、シュワン細胞の機能を持った細胞を十分量容易に得ることができる細胞源が渇望されている。
我々は最近、間葉系細胞からシュワン細胞を誘導することに成功した。それを末梢神経障害部へ移植することで、移植細胞自身が再髄鞘化し軸索再生を促進することで神経機能回復を果たすことを明らかにした。これらの方法を用いて間葉系細胞から分化誘導したシュワン細胞を活用することで、健康な末梢神経を損傷することなく有効な細胞移植治療が可能となっている。
本研究では、間葉系細胞からシュワン細胞を誘導し、それを脳梗塞モデルへ移植することで軸索の再生を促し、脳梗塞後の神経症状を改善させる新たな治療法を確立することを目的とする。それにより、神経細胞を外部から補充するのではなく、hostの軸索再生機能を促進することによる移植治療が可能となる。中枢神経系での軸索再生能を証明するために、まず中枢性の脱髄モデルを作成し、そこに誘導したシュワン細胞を移植し、機能的、組織学的改善、軸索再生の評価を行う。また、移植細胞の生着、中枢移行性についても注目する。
研究方法
8週齢♂のWistar Ratの骨髄間葉系細胞(BM-MSCs)から、BME、ATRAで処理したのち、FGF、FSK、PDGF、HRGの栄養因子のカクテルを加えることで、シュワン細胞(BM-SCs)が誘導されたことを確認した。その中枢移行能と軸索再生作用を調べる目的で、中枢性脱髄モデルラットを作成し、誘導シュワン細胞の移植効果を確認することとした。experimental autoimmune encephalomyelitis(EAE)や、Cuprizoneを使用して作成したモデルは定量的な評価が困難であった。そこで、Ethidium bromideを脊髄に局注し、局所の脱髄モデルを作成し、細胞を脱髄部に局注しての評価を行う。局所脱髄モデルに対する、移植細胞の生着、軸索再生能、機能改善、組織学的改善について評価し、BM-SCsの優位性を示し、そののちに中大脳動脈閉塞(MCAO)モデルラットを作成し、脳梗塞への本細胞の移植治療効果について評価を進める。一方ヒト臍帯間葉系細胞(UC-MSCs)についても、同様に誘導、移植実験を行う。
結果と考察
中枢性脱髄モデルの作成においては、toxicモデルとして、EBによる脱髄モデルを作成した。注入7日後に、注入部位周辺にfluoromyelinの染色性が低下している部位を認め、比較的広範に脱髄巣ができていることが確認された。なおtoxicモデルとしてLysolecithinによる脱髄モデルも検討したが、脱髄病巣がEBに比較し軽度であり、EBによるモデルのほうが有用であると判断した。注入28日後でも依然脱髄巣は認めており、脱髄モデルとして、EBモデルを採用することとした。移植1週間後には、GFAP陽性細胞に乏しい領域を中心に分布し、4週間後ではfluoromyelin陽性構造が移植部位付近に増加しており、細胞移植による再髄鞘化の促進が示唆された。一方UC-MSCsについても、現在同様の方法でシュワン細胞(UC-SCs)の誘導を確認できた。 
結論
BM-SCsには中枢での再髄鞘化作用があり、移植後軸索再生を促し、神経再生に寄与する可能性が認められた。今後さらに脱髄モデル、脳梗塞モデルに対する移植実験を進める。UC-MSCsにおいても同様に移植実験を行う。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-05-12
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317110Z