震災後精神症状の脆弱性因子・獲得因子・回復過程の心理・神経基盤を解明し、早期発見・予防・治療のターゲットを特定するための研究

文献情報

文献番号
201317103A
報告書区分
総括
研究課題名
震災後精神症状の脆弱性因子・獲得因子・回復過程の心理・神経基盤を解明し、早期発見・予防・治療のターゲットを特定するための研究
課題番号
H24-精神-若手-014
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
関口 敦(東北大学 東北メディカル・メガバンク機構)
研究分担者(所属機関)
  • 事崎 由佳(東北大学 加齢医学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
1,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東日本大震災では,内陸部の被災程度は比較的軽度とはいえ,被災者は多大なストレスに晒されている.過去の研究ではストレス暴露後の脳画像評価が主であり,精神症状(不安,うつなど)の脆弱性/獲得因子の弁別および,精神症状からの回復を予測する諸因子は未解明であった.
 我々の研究室では,宮城県在住の学生・小児を対象とした脳画像研究を行っており,震災前の脳画像データを多数保有しており,これらデータベース内の被験者を再募集し,縦断的に 震災前後の脳形態画像および震災後の精神症状を評価することで,震災後に発現した精神症状の脆弱性/獲得因子および回復過程の心理・神経基盤を解明することができた.
 本研究の目的は,震災前後の脳画像を用いて震災後に発現した精神症状の脆弱性/獲得因子および回復過程の心理・神経基盤を解明することである.
研究方法
平成25年度には,震災前の脳画像データのある大学生32名,健常小児229名の縦断データを取得した.更に,対照群を設定するために,震災経験を挟まない健常大学生の1年間の縦断追跡データ37名分を撮像した.加えて,震災未経験の対照群を設定するために,震災前のデータベースから震災経験を挟まない対照群を設定するために,震災前データベース内の被験者を再検索し,300日以上あけて2回以上のMRI実験に参加していた大学生11人の縦断データを抽出した.
結果と考察
大学生被験者の震災1年後の追跡調査の結果,PTSDを発症した者はいなかった.脳画像解析の結果,海馬の萎縮,眼窩前頭皮質量の増大を認め,後者は自尊心の強さと正相関していた.また,右帯状束の白質統合性の一時的な増加,左鉤状束の白質統合性の減少を認めた.これら脳形態変化は,PTSD症状,不安症状など心理指標との相関も認められたことから,一時的な震災後精神症状の増減に従って,白質統合性が動的に変化したことが読み取れる.回復過程の予測因子として,自尊心の強さ,帯状束/鉤状束の動的変化が示唆された.
 小児被験者の心理データ解析の結果,234名中,14名で有意な震災ストレス反応が認められた.また, 12歳以上の青年層166名における震災ストレス反応と脳灰白質量変化を検証したところ,右外側前頭皮質の萎縮および左海馬の増大が震災ストレス反応を予測し,震災前後での右小脳の減少および背側前帯状皮質の増加が震災ストレス反応の結果として認められた.これら結果は成人のものとは異なるパターンを示しており,発達過程におけるストレス反応の特徴を示しているものと考えられた.
 これら因子は,災害後精神障害の早期発見,予防,治療への寄与が考えられる.具体的には,災害直後に把握すべき心理特性や神経学的変化についての情報を提示し,これらは,精神療法のターゲットになると考えられる.
結論
本年度の脳画像研究は,大規模災害前後の脳灰白質量,白質統合性の形態変化の1年後の経過を報告した世界で初めての研究である.また,小児におけるストレスイベントと脳形態変化の因果関係を示した初めての研究である. 災害ストレスの脳形態への中長期的な影響と共に、適応過程および回復過程に対する理解を深め,災害後精神症状の早期発見,予防に資する基礎研究として意義深いものと考える. 一方で,これらは比較的軽度な被災をした健常レベルの大学生の結果であり,より強烈な被災体験をした被災者への応用は慎重を期する必要がある.今後,より広い世代に渡る,様々なレベルのトラウマ体験をした被災者を対象とした検証が待たれるところである.

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201317103Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
1,560,000円
(2)補助金確定額
1,560,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 11,792円
人件費・謝金 283,810円
旅費 414,040円
その他 490,358円
間接経費 360,000円
合計 1,560,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
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