慢性疲労症候群の病因病態の解明と画期的診断・治療法の開発 

文献情報

文献番号
201317091A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性疲労症候群の病因病態の解明と画期的診断・治療法の開発 
課題番号
H25-神経-筋-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
倉恒 弘彦(関西福祉科学大学 健康福祉学部)
研究分担者(所属機関)
  • 稲葉 雅章(大阪市立大学大学院医学研究科)
  • 近藤 一博(東京慈恵会医科大学医学部ウイルス学講座)
  • 伴 信太郎(名古屋大学医学部附属病院・総合診療医学講座)
  • 久保 千春(国際医療福祉大学 福岡保健医療学部)
  • 野島 順三(山口大学大学院医学系研究科)
  • 渡辺 恭良(独立行政法人理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター)
  • 松本 美富士(東京医科大学)
  • 局 博一(東京大学大学院農学生命科学研究科)
  • 田島 世貴(社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団兵庫県立リハビリテーション中央病院)
  • 片岡 洋祐(独立行政法人理化学研究所ライフサイエンス技術基盤研究センター)
  • 久保 充明(独立行政法人理化学研究所ゲノム医科学研究センター)
  • 谷畑 健生(東灘区役所医務課)
  • 山野 嘉久(聖マリアンナ医科大学 医学系研究科)
  • 福田 早苗(大阪市立大学大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
15,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
CFSの病因に直結したバイオマーカーを確立し、画期的診断・治療法を開発する。
研究方法
実態調査:CFS患者662例に対し、質問調査とともに担当医師による項目調査を実施した。バイオマーカー探索:一般臨床血液検査項目とともにクエン酸、微量元素、CoenzymeQ10、粒子タンパク質、メタボローム解析、酸化ストレス、自律神経機能、ケモカイン、唾液中HHV-6とHHV-7を調査した。脳分子動態解析:[11C]PK-11195とPETを用いて、CFSの脳内炎症像を検討した。臨床診断、治療法の開発:線維筋痛症(FM)との関連調査、疲労と睡眠に関する研究、還元型CoQ10の効果、CFSに対する集学的治療効果、ヨガによる症状改善度を検討した。一般地域住民における実態調査:2012年度に実施した豊川保健所管内における慢性疲労・慢性疲労症候群の調査結果を分析した。
結果と考察
実態調査:662名を対象に調査が終了し、PS重症度分類による違い、軽快例との違いなどが明らかとなってきた。特に、社会生活参加の困難さがCFSの特徴の1つであり、重症度に比例して困難になることが示された。ライフ顕微鏡(日立社製)を用いてCFS患者48名、健常者56名について睡眠覚醒リズムを検討したところ、平均METs、覚醒時METs、睡眠時METs、睡眠効率、睡眠時間の全てで有意差が確認された。計算式にて身体活動レベル(PAL)を算出したところ、CFS患者のPALは1.55±0.12であり、健常者のPAL1.75±0.14より有意に低値であった。重症群のPALは1.40±0.04であり、この値は日本人のPAL調査結果の70歳代の低いレベルの活動度と同じであり、要介護1,2レベルの報告とも同等であった。したがって、身体活動レベル評価はCFS患者と健常者を区別する客観的指標の1つであることが確認された。
バイオマーカー探索:CoQ10の還元型比率が健常者よりCFS患者で低いという特徴が明らかになった。また、いくつかの炎症系のバイオマーカーが患者群において高いことを見出した。メタボローム解析では、TCA回路内のクエン酸・イソクエン酸や、尿素回路内のオルニチン・シトルリンに特徴的な変化が見出され、これらを用いた客観的な診断が可能であることが判明した(特許出願中)。CFSでは明らかな酸化ストレス値に増加と、抗酸化力値の有意な低下が認められた。唾液中HHV-6、HHV-7の評価は、CFSと過労などによる生理的疲労との鑑別に有用であることが判明した。
脳分子動態解析:PET解析において、CFS患者の[11C]PK-11195結合度は健常者に比し、視床、中脳、橋、海馬、扁桃体や帯状回で有意に高く、視床、中脳、扁桃体での炎症が強い場合は認知機能の障害が強く、帯状回や視床の炎症の強さと頭痛や筋肉痛などの痛みの程度が相関し、海馬での炎症が強いほど抑うつの症状が強いことが明らかとなった。このことは、CFSは神経炎症を伴う器質的な病態であることを強く示唆している。本論文は世界の多くの国々から賞賛を受けており、海外でも同様の追試を行う計画が進んでいる。
臨床診断、治療法開発:本邦FMにおける約1/3にCFSの併発を認めることが判明した。RA患者の検討では、身体的疲労感や疾患活動性よりも精神的疲労感が睡眠障害と強く関係していた。名大にて実施された集学的治療評価では、漢方療法で「著明改善」と「改善」で約75%の結果が得られた。ヨガの効果は、健常人では疲労の改善度が大きい程心理状態の改善度も大きかった。培養細胞を用いた基礎検討では、還元型CoQ10は正常心筋細胞および障害心筋細胞においてミトコンドリア機能を十分に活性化する作用があることが示唆された。
一般地域住民における実態調査:2012年度調査を分析した結果、半年以上続く慢性疲労が39.4%に認められ、記載のある1126例中383例(34.0%)は原因不明の慢性疲労であった。CFS調査では、旧厚生省CFS診断基準に合致した症例が1例、症状クライテリア7項目を満たし、身体クライテリア項目を確認できた場合はCFSと診断される可能性がある者も1例認められ、今回の調査結果でも一般地域住民の0.1~0.2%の者がCFS診断基準を満たしていることが確認された。
結論
脳分子動態解析により、CFS患者の視床、中脳、橋、海馬、扁桃体、帯状回において神経炎症が存在することを世界で初めて明らかにした。新規のバイオマーカーとして炎症系のバイオマーカーの可能性があることを見出した。CFSの治療法の検討でもいくつかの新知見が得られた。さらに、疲労の頻度やCFSの有病率を算出し、現在の日本における疲労の実態を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201317091Z