脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201317090A
報告書区分
総括
研究課題名
脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究
課題番号
H25-神経-筋-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
嘉山 孝正(山形大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 三國 信啓(札幌医科大学附属病院 脳神経外科)
  • 吉峰 俊樹(大阪大学医学部附属病院 脳神経外科)
  • 高安 正和(愛知医科大学病院 脳神経外科)
  • 宇川 義一(福島県立医科大学附属病院 神経内科)
  • 馬場 久敏(福井大学医学部附属病院 整形外科)
  • 有賀 徹(昭和大学医学部附属病院 救急医学講座)
  • 喜多村 孝幸(日本医科大学附属病院 脳神経外科)
  • 深尾 彰(山形大学大学院医学系研究科 公衆衛生・予防医学講座)
  • 細矢 貴亮(山形大学医学部附属病院 放射線診断科)
  • 畑澤 順(大阪大学医学部 生体情報医学講座)
  • 篠永 正道(国際医療福祉大学熱海病院 脳神経外科)
  • 佐藤 慎哉(山形大学医学部附属病院 脳神経外科)
  • 西尾 実(名古屋市立大学医学部附属病院 脳神経外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
12,308,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、脳脊髄液減少症の科学的根拠に基づく診断基準を作成、新たな診断基準による本症の原因疾患別患者割合の把握、不確実な診断・治療による合併症発生の回避を目的とし、最終的には誰が見ても納得できる診療指針の作成を目指す。
研究方法
 (1)本症に関する文献レビューを行い、臨床像を検討し、診断プロトコールを作成、作成した診断プロトコールによる前方視的解析を行い、診断基準を確立する。(2)その後、新たな診断基準による原因疾患別患者割合と治療法の検討をおこない、診療ガイドラインを作成する。このうち平成25年度は、平成23年度に公表した「脳脊髄漏出症の画像判定基準・画像診断基準」の検証と本症の治療法の1つである「ブラッドパッチ療法」の有効性・安全性の評価を目的とした新たな臨床試験を継続中である。
結果と考察
 本症の治療法の一つであるが保険適応外の治療法である「ブラッドパッチ療法」が、先進医療として平成24年6月に承認された。現時点で研究班の7施設を含む全国の35施設が承認されている。先進医療が承認されたことを受けて、さらにブラッドパッチ療法を含めた治療法の検討と公表した基準では「髄液漏あり」と診断することが困難な周辺病態の研究を目的とした新たな臨床試験を平成24年6月から開始、平成26年3月末の時点で55例が登録され、現在も研究継続中である。今年度の研究結果として、登録された50症例を対象に検討した内容を取りまとめた。詳細は、冊子体を参考にされたい。
 本臨床研究は、現在も登録継続中であり、今回報告する結果と考察は、あくまでも途中経過であり、正式な検討は、予定症例数に達した時点で行う予定である。
以下に、今回50例の時点での考察を記載する。
 ①脊髄MRI axial T2像の有用性について:本研究班の画像判定基準および診断基準においては、脊髄MRI axial T2像のFloating dural sac sign (FDSS)に重きを置いている。これは、脊髄MRIが腰椎穿刺前に髄液漏の評価を行うことが可能であるためである。これまで本症の診断において、しばしば腰椎穿刺によるRIや造影剤の漏出との区別が問題視されてきた経緯がある。今回の画像中央判定による検討では頭部造影MRIで硬膜の増強効果を認め低髄液圧症と診断されたほとんど全ての症例でFDSSが陽性であった。このことは、脊髄MRI axial T2像の有効性を強く示していると思われる。  
 ②穿刺部からの漏出について:現在行なっている臨床試験は、本症の診断に用いられているMRI、RI脳槽シンチ、CTミエログラフィーを同一症例に行い、それぞれの所見を比較できる点がこれまでになくユニークな点である。登録症例50例の画像中央判定結果をみると、やはり腰椎穿刺により少なからず穿刺部から脳脊髄液が漏出することがCTミエログラフィーや腰椎穿刺前後の脊髄MRIの検討によって明らかとなった。この穿刺部からの漏出は、24時間RI残存率やRIクリアランスの評価に影響を与えることが懸念され、これらの項目を画像判定基準や診断基準に組み入れる際には、慎重な対応が必要である。
 ③頭部造影MRIによる硬膜増強効果と髄液漏出について:これまでにも「脳脊髄液漏出があっても硬膜の増強効果を呈さない場合がある」との指摘があったが、今回の検討でもその考え方が裏付けられている。すなわち、脊髄MRIにおいてFDSSが認められ脳脊髄液漏出があると考えられても、頭部造影MRIで明らかに硬膜増強効果ありと判定されたのは65%であった。頭部造影MRIの硬膜増強効果に関しては、髄液漏出の程度(症状の程度)と画像所見が変化するまでにlag timeがある症例も複数経験しており、その評価には慎重を要するが、頭部造影MRIの所見のみで髄液漏の存在を診断するのは困難と考えられる。
 ④ブラッドパッチの有効性について:症例数が数十例の段階で治療効果を正確に判定するのは困難であるが、大まかな傾向は把握できるものと考える。今回、画像中央判定により脳脊髄液漏出症が確定・確実な症例に限定した検討をおこなった結果でも、7割弱の症例が治癒しており、悪化や有害事象がなかったことから、診断をしっかり行なえば脳脊髄液漏出症に対するブラッドパッチ療法は有効かつ安全な治療法であることが期待される。
結論
 研究班が策定した基準により「脳脊髄液漏出症」と診断された患者を対象にブラッドパッチ療法が先進医療として認められ、全国の35施設で行なわれている。また現在、診断基準の検証と治療法の安全性有効性を評価するための臨床試験を継続中であり、本症の治療法確立に向け確実に前進しているものと考える。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317090Z