新評価方法を用いたフォールディング病の分子シャペロン療法の検討

文献情報

文献番号
201317088A
報告書区分
総括
研究課題名
新評価方法を用いたフォールディング病の分子シャペロン療法の検討
課題番号
H25-神経-筋-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小野寺 理(新潟大学 脳研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 西澤 正豊(新潟大学 脳研究所)
  • 柿田 明美(新潟大学 脳研究所)
  • 赤澤 宏平(新潟大学 医歯学総合病院)
  • 永井 義隆(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)
  • 石川 欽也(東京医科歯科大学 神経内科)
  • 佐藤 俊哉(新潟大学 脳研究所)
  • 他田 正義(新潟大学 脳研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
21,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究申請の目的はフォールディング病に対し,化学シャペロンの病態進行抑制効果を検討する事である.近年多くの神経変性疾患が蛋白質のフォールディング異常で引き起こされる事が明らかとなった.このフォールディング異常を標的とした治療は,病態の進行を抑制する画期的な治療法に繋がる.我々はポリグルタミン病をモデルとして蛋白質フォールディング異常を抑制する化学シャペロンを探索し,治療薬候補としてQAI1を見出した.QAI1は,臨床応用されている薬剤であり,有力な治療薬候補化合物である.しかし,今までに見いだされた多数の候補化合物のヒトへの臨床応用は,現実には成功していない.この要因の一つが治療効果の評価方法にある.稀少疾患である本症はサンプルサイズに限界があるため,介入研究の成否は誤差の少ない評価方法に左右される.これには連続変数による評価が理想的であるが,フォールディング病では被見者の意志が混入しない連続変数による評価方法は存在しなかった.我々は本症において高頻度に冒される小脳に注目し,小脳病変における「時間的予測性の障害」を,等速反復運動の速度の変動値として検出し,障害程度を連続変数として表す検査プログラムを開発した.本研究では,申請者らがiPadにて開発した,簡便,鋭敏で,評価者間変動のない評価方法を用いて,QAI1の進行抑制効果を検討する.
研究方法
私たちは,視標追跡課題により上肢運動機能を解析するための,iOS6.0/iPadを用いた定量的検査システムを開発した.本年度は (1) 本検査システムにおいてどのような課題が小脳性運動失調を検出するのに適しているのか,課題の至適条件.(2) その課題条件のもとで,健常群とSCD疾患群との違い,疾患重症度との相関を検討した.健常者36例SCD患者51例 (MJD/SCA3 10例,SCA6 8例,DRPLA 3例,CCA 26例,他の失調症4例) を対象に,臨床項目(発症年齢,罹病期間,ポリグルタミン病原因遺伝子のCAGリピート数),SARAスケール,iPatax検査項目の測定値を解析した.課題の至適条件の検証: 等速移動する視標追跡課題の条件 (直線 vs 曲線,数段階の速度,周回 vs 反復) を変えて,各条件における速度の変動係数 (coefficient of variation, CV)と重症度SARAとの相関を比較検討した.
結果と考察
比較的ゆっくりとした,非連続運動より複雑な視標追跡課題が小脳性運動失調を検出するのに適していた.速度のCVと重症度SARAとの相関:等速直線反復運動および等速曲線反復運動における速度のCVは両者とも,SARA合計およびSARA上肢機能と各々高い相関を示した.運動学習の効果:健常群,疾患群ともに,時間経過に伴い速度のCVの減少を認め,運動学習を反映している可能性が示された.経時的変化は個人差が大きく,悪化例と改善例がみられた.日差変動もあり,評価は慎重にする必要がある.以上より本検査システムは小脳性運動失調の定量評価に有用であると考えられた.神経・筋疾患は長期療養を必要とするため日常生活への支障が大きく,その病態の進行阻止治療は悲願である.しかし,未だ現実とはなっていない.この原因として,その希少性と多様性故に,評価できる検出力をもった治験が計画されていない事が上げられる.十分な検出力のある治験には,大きな症例数か,鋭敏でブレのない評価方法が必要である.しかし,症例数には自ずと限界がある.そのため,評価方法に成否が左右される.その評価方法は,従来,主観の混入するカテゴリー分類が用いられてきた.本症の稀少性を顧みると,簡便で,どこでも,主観の混入なしに評価できることが望ましい.タブレット端末を用いた評価方法は,これらを解決する画期的な医療診断デバイスとなる可能性がある.本申請にある“評価デバイスの革新に基づく検出力をもった希少性疾患の治療研究”は,類似治療研究の増加を促し,結果として,希少性,神経・筋疾患患者に貢献する.また客観的な数値による評価基準は,症状の理解と,それに応じた生活基盤を確立する上で,患者にとっても極めて有用な情報になる.本研究により,医療診断デバイスとしてのタブレット端末の有効性が示されれば,施策へ直接反映される可能性,また,他疾患の評価において間接的に活用される可能性がある
結論
本検査システムは小脳性運動失調の定量評価に有用であることに加え,小脳機能として重要な運動学習を評価できる可能性が期待できる.今後,治療研究での実用化に向けて,日内変動・日差変動,同一例での経時的変化等のデータを蓄積し評価する必要がある.

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201317088Z