レット症候群の早期診断と治療をめざした統合的研究

文献情報

文献番号
201317085A
報告書区分
総括
研究課題名
レット症候群の早期診断と治療をめざした統合的研究
課題番号
H24-神経-筋-一般-007
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 雅之(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部)
研究分担者(所属機関)
  • 松石豊次郎(久留米大学医学部)
  • 白川 哲夫(日本大学歯学部小児歯科学)
  • 高橋  悟(旭川医科大学医学部)
  • 青天目 信(大阪大学医学部)
  • 堀家 慎一(金沢大学学際科学実験センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
14,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
レット症候群(RTT)は乳児期から多彩な症状を呈する疾患である。RTTの原因遺伝子としてメチル化CpG結合タンパク2(MECP2)が解明されたが、その複雑な分子機構と多彩な症状、診断の困難さにより臨床研究の進展は少なく、確立された治療法や療育法がない。本研究では、患者データーベース(DB)を構築し、基礎研究とトランスレーショナルリサーチを展開し、科学的根拠に基づいた生物マーカーと早期診断法を確立し、創薬・治療法の開発を目指す。
研究方法
(1) 患者データベース:患者登録票を作成し、患者登録票記入のための手引きを作成した。これまでの診断基準を見直し、国際的な基準をもとに診断基準を作成した。
(2) 臨床研究:①GRLの生物マーカーの検証:RTTと対象の空腹時GRL、GH、IGF-1の血中濃度を測定し、身長、体重、頭周囲長、BMIとの相関を検討した。②MECP2遺伝子異常のないRTTでCDKL5、FOXG1遺伝子解析を行なった。
(3) 基礎研究:①MECP2のMBD変異の網羅的発現解析を行なった。②Mecp2欠損マウスのアストロサイトの解析を行なった。③RTTの呼吸病態解析では、無呼吸の回数を調べ、病理学的解析を行なった。④hIGFBP3+/Mecp2-マウスを作成し、病理学的、行動学的解析を行なった。⑤h15C+マウスF12細胞のPWS-IC欠失改変ヒト15番染色体を構築し、クロマチン動態と遺伝子発現を解析した。⑥Cdkl5 欠損マウスの表現型解析を行なった。
(倫理面への配慮)本研究では、各研究施設の当該委員会等において承認済みである。学内外の種々の指針や法令を尊守し実施した。
結果と考察
(1) 患者データベース:DBシステムを構築した。疾患DBは、その疾患の実態を解明するだけでなく、臨床研究や治験への基盤データとして重要である。今回作成したDBは、患者(およびその家族)主導による患者登録制はこれまでに数少ない。患者(およびその家族)が積極的に関わることで、研究への理解と課題の共有化が期待できる。
(2) 臨床研究:①前思春期における活性型GRL比率がRTTの身体発育の生物マーカーとなる可能性が推定された。②典型的RTTでは3歳以前にてんかんを発症することはまれであるが、CDKL5遺伝子異常の患者は乳児期早期から難治性てんかんを発症し、それ以外の症状は多彩である。FOXG1遺伝子異常の症例の特徴は乳児期早期からの精神運動発達遅滞と小頭症である。FOXG1遺伝子は14番染色体(14q12)上にあり、患者間の臨床症状の重症度は比較的均一である。
(3) 基礎研究:①MBDの点変異がMECP2の標的遺伝子の動態に影響を及ぼしていることが想定された。②骨髄の移植細胞のキメラ化が確認された。GRL併用による移植細胞の生着率も解析し、Mecp2欠損マウスの効率的な骨髄移植手技を確立することが期待される。Mecp2がアストロサイトに発現し、細胞の生存率に影響しないが、アストロサイトの特異的遺伝子発現に関与していた。③Mecp2欠損マウスの無呼吸は、延髄呼吸関連中枢の神経伝達の低下が関与していることを明らかにした。④hIGFBP3+/Mecp2-マウスはMecp2欠損マウスに比して、IGFBP3過剰発現により神経伝達の障害が示唆された。⑤PWS-IC欠失父方染色体で父方アレル特異的なクロマチン脱凝集が維持されていた。これは、父方アレル特異的なクロマチン脱凝集の形成・維持に父性発現するncRNAやUBE3A-ATSを必要とし、PWS-IC欠失母方染色体で異所的クロマチン脱凝集が生じたことはMeCP2などのメチル化CpGを認識する分子が正常母方アレルのコンパクトなクロマチン状態の維持に重要であることが示された。⑥CDKL5遺伝子変異による発達障害の病態がシナプス機能異常であることが初めて明らかとなった。
結論
本研究班の臨床及び基礎研究を通して、診断基準の見直しと提言を行ない、患者DBの構築し、GRLの生物マーカーの有効性、診断困難例への対応などについて解決法を見いだすことができた。現在進行している基礎研究においても臨床応用を見据えた研究が展開することができた。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317085Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
18,330,000円
(2)補助金確定額
18,330,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 8,129,727円
人件費・謝金 3,167,704円
旅費 2,075,000円
その他 1,077,591円
間接経費 3,880,000円
合計 18,330,022円

備考

備考
物品費として、品目や数量は予定どおりであったが、当初の見積りより22円を超過した。超過分は自己資金で補填した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-