地域リハビリテーション・システムに関する研究

文献情報

文献番号
199800237A
報告書区分
総括
研究課題名
地域リハビリテーション・システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 利之(横浜市総合リハビリテーションセンター)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤利之(横浜市総合リハセンター長)
  • 浜村明徳(医療法人共和会南小倉病院長)
  • 林拓男(公立みつぎ総合病院整形外科部長)
  • 三宅誼(医療法人社団三草会理事長)
  • 高岡徹(国立長寿医療研究センター研究員)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成11(1999)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者や高齢障害者が住み慣れた地域社会で生活したいというニーズに応えるには、その基本的な生活を保障したうえで、社会参加を実現する総合的なサービス・システムが必要である。しかし、わが国の現状はサービス・チームやシステムの欠如により単発かつ部分的なサービスにとどまっている例が多く、看護や介護を含む総合的ケアの在り方が問われている。とりわけ、公的介護保険制度の導入を前に、多くの訪問看護ステーションや在宅介護支援センターが活動をはじめているが、いずれも障害のある人たちの生活スタイルを再構築するリハビリテーションに介入し、その自立を積極的に支援するには至っていない。そこで本研究では、県、大都市、小都市、民間医療機関を単位としたシステムの先進例をモデルに、各種のリハビリテーション・サービスをより効率的・効果的に提供する具体的な方法について検証する。 今年度は本研究計画の2年目として、各単位別に、それぞれのモデルシステムの有用性について検証するとともに、地域ケアにおける看護・介護の活動とリハビリテーションとの関係について検討し、その連携の在り方や今後の課題を明らかにする。
研究方法
県、大都市、小都市、民間医療機関を単位とした各地域のリハビリテーションシステムにおいて、すでにサービスが行われている在宅高齢障害者を対象に聞き取り調査を行ない、それぞれのモデルシステムが有効に機能しているか否かについて検討した。また、地域リハビリテーション・システムにおける看護・介護の役割については、分担研究者の協力を得て、各地域の訪問看護ステーションやホームヘルプ実施機関などで活動している職員にアンケート調査を実施した。 調査対象数は、長崎県:100人、横浜市:104人、御調町:225人、医療法人社団三草会クラーク病院:102人のほか、看護・介護の役割に関するアンケート:209人である。調査内容は、モデルシステムの検証については、医学的リハビリテーションの経験の有無、その内容と成果、在宅リハビリテーションの適応と効果など、それぞれのシステムに合わせて種々工夫した。また看護・介護の役割ついては、実際に行っている業務内容、他機関との連携の現状と今後の希望、リハビリテーション概念の理解などとした。
結果と考察
県域(長崎)におけるシステムは、一般に小都市モデルの集合体とその間隙にある郡部のシステムに分けることができる。今回は、小都市モデルの検証については他の分担研究者が行っていることから、とくにリハビリテーションや福祉資源の乏しい郡部5町を対象に、そのシステムの在り方を検討した。その結果、発症が明らかな脳卒中などでは何らかの形で医学的リハビリテーション・サービスにつながっていたが、その後の地域ケアの担い手は主に保健婦に依存しており、在宅サービスの不適切な導入も多々見受けられた。これらの点から、今後は、県単位のリハビリテーション支援センターによる県内小都市に対する後方支援的サービス(関係職種の研修など)にとどまらず、郡部に対する直接的な技術援助や人的援助について具体化する必要があると考えられた。とりわけ地域で活動している保健・福祉関係者の実践的な研修は焦眉の課題である。 大都市(横浜市)におけるシステムでは、窓口である福祉事務所は一次スクリーニングの機関としても概ね有効に機能していた。しかし、介護保険の導入によりその直接的な担い手になるであろう訪問看護ステーションとの連携では、15
4人中在宅リハビリテーションの利用者数はわずか11人と少なく、連携の不十分さが浮き彫りになった。ただし、看護担当者が在宅リハビリテーションを依頼したいと希望している利用者は37人おり、その具体的内容は、自分たちが実施している関節可動域訓練や起居動作訓練などが適切であるか否かの評価、具体的な実施方法の指導、定期的な訓練プログラムのチェック、身体機能評価に基づくケアプラン立案の援助などであった。これらの点から、今後は看護・介護職の地域リハビリテーションに対する理解を深めるとともに、在宅リハビリテーションの適応基準の作成などが課題と考えられた。そのためには、方面別に地域リハビリテーション支援センターを設置し、訪問看護ステーションや在宅介護支援センターとの連携を強化、リハビリテーションの立場から後方支援できるシステムを構築する必要があろう。小都市(御調町)におけるシステムの特徴は、病院と保健・福祉行政との一体的運営ができていることであり、その管轄する人口からみても全ての町民を直接的に診ることが可能であることである。そのため、ケア担当者会議はすべての要介護・支援者を対象として、リハビリテーション専門職を含む在宅サービスに関与する町内の全てのスタッフ・機関が参加する会議として位置づけられ、チームとして対象者の生活障害を総合的に評価しており、適切なサービスの提供につなげる基盤となっている。現在では、スタッフの能力向上に伴い、現場レベルで対応できる対象者は協議のみとして合議にいる検討を省略しているが、概ね問題はなく、システムは有効に機能していた。ただし、御調町のシステムをすべての小都市に拡大しようとすると、(1)マンパワーの確保、(2)関係者の地域リハビリテーションへの理解、(3)地域リハビリテーションの適応基準の設定、(4)サービス利用者の意識、(5)費用便益の問題などの打開策が必要であると思われた。医療機関(医療法人社団三草会クラーク病院在宅支援事業部)を中心としたシステムでは、退院から地域リハビリテーションへの移行はスムーズに行われていた。しかし、退院前プランと地域でのプラン、介護支援専門員の資格を有する看護・介護職によるプランと現行のプランとを比較検討した結果、前者の一致率は約60%、後者では比較的良好な一致が得られた。なお、退院前プランと地域プランとの比較では、導入された福祉用具や福祉サービス、家屋改修などについて大きな問題はなかったが、精神・心理面や介護に関するプランに問題が認められており、地域リハビリテーションにおいては退院前プランでは不十分さが残ることが確認された。また、医療法人としての制約から福祉施設との連携強化、居住地が遠隔地の場合の対応などが課題としてあげられた。看護・介護サービスの役割については、看護職を主に医学的知識に基づいて病状観察や健康管理、介護指導などの役割を期待されていた。一方、家事援助は主にホームヘルパーなどの介護職が行っていたが、サービス量の不足からか、未だ明確な役割分担ができていない状況もうかがえた。ちなみに、リハビリテーションの概念理解については、リハビリテーション専門機関との連携希望は強いもののその理解はあいまいで、実際場面におけるリハビリテーションの適応やサービス内容について不適切さが見受けられた。今後は実践をとおした現場研修が課題であり、その充実は地域ケアにおける看護・介護サービスを有効なものにする鍵となろう。
結論
地域・在宅ケアの充実には地域リハビリテーションのサービスが必要不可欠である。その提供については、一定の地域を単位としたリハビリテーション支援センターを配置、訪問看護ステーションや在宅介護支援センターなどの第一線のサービス機関を後方から支援するシステムが有効であることを検証した。しかし、これらのモデルシステムを各地に拡大するためには、リハビリテーション専門職などの人材養成や県・市町村行政によるリハビリテーション支援センターの設置が不可欠である。また、関係者の地域リハビリテーションへの理解やその適応基準の作成、費用便益の
問題などについても解決されなければならないであろう。

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