下部神経管閉鎖障害の病態・制御研究

文献情報

文献番号
201317083A
報告書区分
総括
研究課題名
下部神経管閉鎖障害の病態・制御研究
課題番号
H24-神経-筋-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大野 欽司(名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 東 雄二郎(愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所)
  • 芳賀 信彦(東京大学医学部附属病院)
  • 柳田 晴久(福岡市立こども病院)
  • 鬼頭 浩史(名古屋大学医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
12,750,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
胎生初期における下部神経管閉鎖障害は二分脊椎に加えて下肢運動感覚障害、膀胱・直腸機能障害を惹きおこす。本症における脊髄神経細胞障害の発症機構は十分に解明されておらず治療法も存在しない。妊娠初期における400 µg以上の葉酸摂取が本症の発症率を低下させることが知られているが (New Engl J Med 350:101, 2004)、葉酸欠乏は本症の唯一の原因ではない。遺伝性症例も報告されているが、多くは孤発例である。我々はホメオボックス遺伝子Zeb1 Zeb2 (Sip1)欠損マウスが神経管閉鎖障害を起こすことを報告してきた(Am J Hum Genet 72: 465, 2003; Dev Dyna 235: 1941, 2006; PLoS Genet 7: e1002307, 2011; Neuron 73: 713, 2012; Neuron 77: 83, 2013; Genesis 2014)。モデル動物において神経管閉鎖に関わる遺伝子が他に80種類同定をされているが(Nat Rev Genet 4: 784, 2003)、ヒトにおいてはVANGL1 (New Engl J Med 356: 1432, 2007)と VANGL2 (New Engl J Med 362: 2232, 2010)の遺伝子変異が報告をされているのみである。本研究では、(i) 網羅的なエキソームシークエンス解析により神経管形成遺伝子群のde novo変異の検索を行う。(ii)モデル動物におけるZeb2 (Sip1)の神経管閉鎖に関わる分子作用機構を解明する。(iii) 新規に同定をした脊髄運動神経細胞特異的に発現をするRSPO2、分子X、分子Yの運動神経細胞分化促進作用の分子機構を解明するとともに、脊髄運動神経細胞の軸索延長を増強する薬剤をdrug repositioning法により同定をする。
研究方法
(i) 血液DNAからAgilent社SureSelect Human All Exon V4を用いてexome capture resequencing (ECR)解析を行った。高信頼度から低信頼度までパラメータを変動させながら、VNAGL1, VANGL2, ZEB1, ZEB2に加えて、葉酸代謝に関与する31遺伝子、モデル動物において神経管閉鎖に関わる80遺伝子に絞りde novo遺伝子変異解析を行った。(ii) Zeb2 (Sip1)欠損モデル動物を用いて神経版細胞極性、神経管細胞増殖、BMPシグナルの関連性を明らかにするべく実験を行った。(iii) 脊髄運動神経細胞のレーザーキャプチャーマイクロダイセクション法により同定をしたRspo2、分子X、分子Yのノックアウトマウス解析ならびに脊髄運動神経初代培養細胞を用いて、これら分子の運動神経細胞分化促進作用の分子機構を解明を行った。また既認可薬パネルとArray Scanを用いて脊髄運動神経細胞の軸索延長を増強する薬剤を同定を試みた。
結果と考察
(i) 9名の患者のECR解析を行い、一例においてVANGL1遺伝子に新規ヘテロ変異を同定した。他の症例においてはGene_A, Gene_BにSNVsを同定し分子機構の解析を計画した。(ii) (a) 細胞極性, (b) 神経管の細胞増殖 (c) BMPシグナルとの関連性についてSip1ノックアウトマウスの解析を行い、Sip1ノックアウト胚では、神経管閉鎖が起こる背側領域で、BMPシグナルが正常に入力されず、神経管細胞の極性が正常に形成されていないことが示唆された。(iii) マウス脊髄前角細胞のレーザーキャプチャーマイクロダイセクションにて脊髄前角細胞特異的に発現をするRspo2、分子X、分子Yを同定し、いずれも運動神経細胞の神経突起延長作用を有することを明らかにした。さらに、マウス脊髄運動神経細胞プライマリー培養に対して既認可薬Zが濃度依存的に神経突起延長促進作用を有することを同定した。
結論
下部神経管閉鎖障害患児9例のexome capture resequencing解析によりVANGL1の新規ミスセンス変異を含む候補遺伝子変異群を同定するとともに、ZEB2 (SIP1)が神経管閉鎖に関わる重要な分子であることを明らかにした。さらに、Rspo2、分子X、分子Yが運動神経突起延長促進作用を有する脊髄運動神経に特異的に発現をする新規分子であることを明らかにするとともに、既認可薬Zが脊髄運動神経突起延長促進作用有することを同定した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201317083Z