顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーのエピジェネティック病態解明と革新的治療法の開発

文献情報

文献番号
201317082A
報告書区分
総括
研究課題名
顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーのエピジェネティック病態解明と革新的治療法の開発
課題番号
H24-神経-筋-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
田中 裕二郎(東京医科歯科大学 難治疾患研究所 遺伝生科学分野)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,525,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
FSHDは、第4番染色体テロメア近傍のレトロ反復配列(D4Z4)の短縮を伴う常染色体優性遺伝疾患で、進行性筋ジストロフィー症の中で三番目に頻度が高い。10万人に約5人の発症率であることから、数千人規模の潜在的患者が予想されるが、海外からの報告に比べ本邦での臨床研究は立ち遅れているのが現状である。FSHDの患者ではD4Z4の反復数が10コピー以下に短縮しているか(1型)又はヘテロクロマチン制御因子SMCHD1に変異が存在するする(2型)ことから(Lemmers et al., Nat. Genet., 2012)、FSHDの病態の本質はクロマチン制御機構の破綻である可能性が高い。また、我々は、2012年にイタリアのFSHD研究グループとの共同研究により、DUX4遺伝子の転写活性化にはヒストンメチル基転移酵素ASH1が選択的に関与していることを報告している。本年度の研究目的は、(1)病態解明:ASH1及びヘテロクロマチン制御因子によるD4Z4転写制御機構の解明、(2)治療薬開発のための細胞スクリーニング系の確立、(3)次世代シーケンサーによるFSHDの遺伝子診断法の確立の3つに要約される。
研究方法
1.D4Z4の5’上流を含むレポーター:前年度の研究から更に5’上流のNDE (Non-deleted element)に伸展したレポーターを作成した。
2.ASH1及びヘテロクロマチン制御因子のノックアウト:CRISPR gRNA (ガイドRNA)発現ベクター及びCas9発現ベクターを用い、ヒト及びマウス細胞でASH1、Suz12、G9a遺伝子をノックアウトした。また、CRISPR/Cas法によりASH1遺伝子ノックアウトマウスを作成した。
3.D4Z4トランスジェニックマウスの作成:D4Z4領域を含むBACクローンを新たに入手し、これをマウス受精卵前核に注入することによりトランスジェニックマウスを作成した。
4.D4Z4を含むBACクローンのシーケンシング及びアセンブリ:D4Z4領域全体を含むBACクローンを新たに入手し、一分子DNAシーケンサー(PacBio RS)によるシーケンシングを行い、de novoアセンブリ、ターゲット・リシーケンシング法によるアセンブリを試みた。
結果と考察
FSHDの原因遺伝子であるDUX4遺伝子の発現制御機構を解明するためには、ASH1と関連ヘテロクロマチン制御因子の役割をそれぞれ明らかにすることが重要である。本年度は、まずプロモーター領域を前年度の研究からさらに5’上流のNDE(Non-deleted element)まで拡張したレポーターを作成し、ASH1及びMLL1発現ベクターによる転写活性化を確認した。更に、クロマチン構造制御に基づくDux4発現制御のメカニズムを検証するため、CRISPR/Cas9システムによりASH1及び抑制因子Suz12(Polycombグループ)とG9a(ヘテロクロマチン因子)を欠損する細胞を、マウス筋芽細胞C2C12及びヒト白血病細胞K562からそれぞれ樹立した。また、筋細胞分化を含めASH1の生体内機能を解明するため、ASH1遺伝子変異マウスを新たに作成し、ホモ接合体が生後致死的であることを明らかにした。今後はC2C12の筋細胞分化モデルを用いてASH1とヘテロクロマチン制御因子による筋細胞分化の制御を解析するとともに、D4Z4レポーターを用いてその転写制御機構を検証する予定である。FSHDの遺伝子診断に必須となるD4Z4反復配列長の決定に関しては、新たにD4Z4全領域を含むBACクローンを入手し、PacBio RSシーケンサーを用いて最長22Kbを超えるリード配列を得ることに成功した。これを用いてPacBio RSの解析パイプライン(HGApアルゴリズム)によるde novoアセンブリ及びD4Z4のコンセンサス配列を基にしたターゲット・リシーケンシングを行い、3.3Kbの極めて相同性の高い配列を13コピー含む領域をアセンブルすることが原理的に可能であることを初めて明らかにした。さらにこのBACクローンを用いてトランスジェニックマウスを樹立し、D4Z4の発現制御機構を生体内で解析するための基盤を確立した。
結論
本研究の目的であるFSHDの病態解明,診断法及び治療法の開発に向けて、それぞれレポーターの構築、ASH1及びヘテロクロマチン制御因子ノックアウト細胞及びマウスの確立、D4Z4領域のシーケンシング及びアセンブリの原理的証明に成功した。これらの細胞、動物疾患モデルを基盤とし、最終年度はD4Z4領域から転写されるncRNAに対するノックダウンベクターを用いた分子標的治療法の開発と実際の患者細胞を用いたFSHDの遺伝子診断法の確立を目指す。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-05-12
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317082Z