アトピー関連脳脊髄・末梢神経障害の病態解明と画期的治療法の開発

文献情報

文献番号
201317079A
報告書区分
総括
研究課題名
アトピー関連脳脊髄・末梢神経障害の病態解明と画期的治療法の開発
課題番号
H24-神経-筋-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
吉良 潤一(国立大学法人 九州大学 大学院医学研究院 脳神経病研究施設神経内科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 楠 進(近畿大学医学部神経内科)
  • 吉田 眞理(愛知医科大学加齢医学研究所神経病理学部門)
  • 桑原 聡(千葉大学大学院医学研究院神経内科学分野)
  • 錫村 明生(名古屋大学環境医学研究所神経免疫学)
  • 萩原 綱一(九州大学大学院医学研究院臨床神経生理学分野)
  • 松下 拓也(九州大学大学院医学研究院神経内科学分野)
  • 松瀬 大(九州大学大学院医学研究院神経内科学分野)
  • 吉村 怜(九州大学大学院医学研究院神経内科学分野)
  • 城戸 瑞穂(九州大学大学院歯学研究院口腔解剖学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
19,635,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 アトピー関連脳脊髄・末梢神経障害には、アトピー性脊髄炎、Churg-Strauss症候群(CSS)が含まれるが、さらに平山病やHopkins症候群においてもアトピー素因の病態への関与が報告され、広範囲な神経疾患病態にアトピー素因が関与している可能性が示唆されている。また、末梢の炎症が中枢神経グリア炎症を惹起することも知られているが、末梢におけるアレルギー炎症と中枢神経系の炎症を直接的に結びつける研究はない。
 本研究では、これらのアトピー関連脳脊髄・末梢神経障害に共通する末梢のアレルギー炎症が中枢神経炎症を惹起するメカニズム解明のため、モデルマウス作成と解析を中心とした病態生理の解明および治療法の開発を目指す。
研究方法
①アトピー性脊髄炎モデルマウスの作成(吉良、錫村、城戸)
 6週齢の雌C57Bl/6マウスに、週に一回卵アルブミン(OVA)の腹腔内注射を行い3週後にOVAの気道内吸入を4日間連続で行い気管支喘息を誘発した。また、同週齢マウスに対し、OVAの背部塗布によるアトピー性皮膚炎誘導を行い、これらのマウス中枢神経グリア炎症を免疫組織学的に解析した。また感覚障害の有無を行動実験にて確認した。
②IL-9の神経障害における役割の解析と抗IL-9療法の開発(錫村、吉良)
 アトピー性脊髄炎患者髄液で増加するIL-9の神経障害における役割を培養細胞系やマウスの実験的自己免疫性脳脊髄炎系などで解析し、抗IL-9療法の開発を継続して行った。
③アトピーに関連した臨床像の十分に解明されていない神経障害の解析(吉良、楠、桑原、萩原)
 アトピー性脊髄炎患者、CSSを含むアトピー関連末梢神経障害患者の128チャネル脳波計による精密な脳波解析や脳磁図による解析をおこなった。
④髄液でのサイトカイン産生細胞の解析(桑原、吉村)
 髄液の網羅的サイトカイン・ケモカイン解析を実施した。
⑤アトピー性脊髄炎剖検例での免疫病理学的解析(吉田)
 世界でも唯一のアトピー性脊髄炎剖検症例の脊髄の病理学的解析をおこなった。
⑥新診断基準による国際的な共同臨床疫学調査の実施(吉良、楠、桑原)
 新診断基準の自験例以外の日本人集団での感度、特異度の検証後に、アトピー性脊髄炎の報告がある海外施設(韓国Ajou University、イタリアAzienda Ospedaliera University、英国National Hospital for Neurology and Neurosurgery)と新規診断基準による共同臨床疫学調査を実施する。
結果と考察
結果・考察
① 気管支喘息モデルマウスでは感覚過敏症(アロディニア)が認められ、これらのマウス頚髄ではミクログリアが活性化していた。また、血管内皮細胞の活性化と血管周囲アストロサイトの活性化も認められたことから、末梢血におけるアトピー性炎症が血管内皮やアストロサイトの活性化を介して脳内グリア炎症を惹起し、感覚過敏を誘発している可能性が強く示唆された。
 アトピー性皮膚炎モデルマウスでは、とくに胸髄におけるミクログリアの活性化がみられ、感覚性刺激もグリア炎症の誘発、増悪に関与していることが示唆された。
② 錫村研のParajuliらは、マウスアストロサイトのCCL11(eotaxin-1)産生を突き止めた。また、その受容体であるCCR2,3,5はミクログリアに発現し、実際にミクログリアの遊走能を促進し、グルタミン酸毒性の増強や活性酸素種(ROS)の産生を介した神経障害機序が示唆された。
③ 萩原らはアトピー性脊髄炎患者6名について脳磁図(MEG)を用いた体性感覚誘発磁場の解析を行い、従来の体性感覚誘発電(SEP)検査では検出できない軽微な異常を同定した。このことは、アトピー性脊髄炎患者が主観的に訴える感覚障害を客観的に評価することが可能となった点で重要な発見であった。
④ 桑原らは、平山病の重症度とアトピー素因(血清IgEレベル)の相関を見いだし、平山病の病態におけるアレルギー性機序の関与を強く示唆した。
⑤ 妊娠中期にアトピー性脊髄炎に罹患し、全経過1年2ヶ月で死亡した22歳女性の神経病理学的解析を行ったところ、頚髄から腰髄にかけて広く海綿状の変化を認め、アトピー性脊髄炎とその他の脊髄炎との病理学的違いを明らかにした。
⑥ 新診断基準(Isobe et al, JNS 2012)策定により、国際的に統一された診断が可能となった。これをもとに本邦自験例以外の症例検討および海外で報告のあった施設における共同臨床疫学調査を検討中。
結論
 3年計画の2年目として、昨年度の研究をさらにすすめ、臨床的および基礎的に、重要な発見があった。本年度はこれらの発見をより深く解析し、原因追求と治療法開発を継続的におこなう。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2015-05-12
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317079Z