細胞表面認識分子の異常により引き起こされる新規ヒトてんかんの同定とその病態進展機構の解明、および診断法・治療法の開発

文献情報

文献番号
201317075A
報告書区分
総括
研究課題名
細胞表面認識分子の異常により引き起こされる新規ヒトてんかんの同定とその病態進展機構の解明、および診断法・治療法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
H23-神経-筋-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
星野 幹雄(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 病態生化学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤雄一(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部)
  • 伊藤雅之(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部)
  • 早瀬ヨネ子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 病態生化学研究部 )
  • 中尾啓子(埼玉医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
11,509,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
イハラてんかんラット(IER: Ihara epileptic rat)は生後から発達障害様症状(社会性行動異常、記憶・学習障害)を、5ヶ月からてんかん症状を呈し約一年で死に至る原因不明の自然発症ラット突然変異体である。我々の予備実験により、IERではてんかん発症前から大脳皮質および海馬のニューロサーキットに形態学的異常が認められ、脳の興奮性が異常に高まっていることが示唆されていた。また、我々の連鎖解析によりその原因遺伝子領域がかなり狭められ、その領域内にはEpi-IERという大きな遺伝子しかデータベース上存在しなかったために、Epi-IERこそが原因遺伝子であろうと考えられた。その遺伝子は分子間相互作用モチーフを持つ細胞膜蛋白質をコードしていたが、IERではその発現が失われている。以上から、IERは細胞表面認識分子を失ったためにニューロサーキットに異常をきたし発症すると考えられ、「ニューロサーキット異常型」の良い発達障害を伴うてんかんのモデルとなる。そこで、本研究では、IER型の「細胞表面認識分子の異常によりもたらされる発達障害およびてんかん」の発症・病態進展機構をモデル動物を使って明らかにすること、そして、それに相当するヒト疾患を新たに同定し、将来の診断法や有効な治療法の開発に道を拓くこと、を研究目的としている。
研究方法
Zinc Finger Nuclease(ZFN)法を用いて、Epi-IER遺伝子のノックアウトラットを作製した(平成24年度)。そのZFN KOラットにおけるEpi-IER蛋白質の発現量を定量し、評価する。また、その表現型がIERと同様なのかどうかについて調べる。バイオリソース検体については、前年度にやり残した症例のRNA・cDNAバイオリソース調製を行うと共に、EPI-IERの発現量解析を行う。さらにその中の低発現量患児においてEPI-IERゲノムのエクソンシークエンス解析を行う。
結果と考察
Epi-IERがIERの原因遺伝子であることを、ZFNを用いたノックアウトラットを作製することによって完全に証明した。さらに、前年度からひき続く解析によって、IERのてんかんの焦点が多くの場合扁桃体であること、そしてそれは扁桃体におけるバランスを欠いた興奮性ー抑制性神経細胞活性によってもたらされていることが示唆された。また、発達障害をともなうてんかん症例のリサーチリソースの解析から、ヒトリンパ芽球におけるEPI-IERの発現が極端に低下する症例を見いだし、さらにその中にRare SNPsを見つけた。また、局在性大脳皮質異形成(FCD)と片側巨脳症(HME)における原因遺伝子の探索と、Epi-IERのファミリー遺伝子Epi-IER2の機能についての解析も行った。
結論
今年度は最終年度であり、これまでにIERの表現型解析と原因遺伝子の同定、そしてその遺伝子産物の生理的機能およびその異常によるてんかんの発症機構について、おおよそ明らかにできたと考えている。しかしながら、ヒト相同疾患の同定については道半ばであり、EPI-IER遺伝子の発現量が低下する家系やいくつかのRare SNPsは同定することができたが、その相同疾患の完全な同定には至っていない。今後もひきつづきその相同疾患の同定に努力するとともに、このEPI-IER遺伝子の血液中あるいはリンパ芽球中における発現量が、「精神遅滞+てんかん」のバイオマーカーになりうるのかどうかについても、検討して行きたい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201317075B
報告書区分
総合
研究課題名
細胞表面認識分子の異常により引き起こされる新規ヒトてんかんの同定とその病態進展機構の解明、および診断法・治療法の開発
研究課題名(英字)
-
課題番号
H23-神経-筋-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
星野 幹雄(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 病態生化学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤雄一(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部)
  • 伊藤雅之(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第二部)
  • 早瀬ヨネ子(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 病態生化学研究部)
  • 中尾啓子(埼玉医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
イハラてんかんラット(IER: Ihara epileptic rat)は生後から発達障害様症状(社会性行動異常、記憶・学習障害)を、5ヶ月からてんかん症状を呈し約一年で死に至る原因不明の自然発症ラット突然変異体である。我々の予備実験により、IERではてんかん発症前から大脳皮質および海馬のニューロサーキットに形態学的異常が認められ、脳の興奮性が異常に高まっていることが示唆されていた。また、我々の連鎖解析によりその原因遺伝子領域がかなり狭められ、その領域内にはEpi-IERという大きな遺伝子しかデータベース上存在しなかったために、Epi-IERこそが原因遺伝子であろうと考えられた。その遺伝子は分子間相互作用モチーフを持つ細胞膜蛋白質をコードしていたが、IERではその発現が失われている。以上から、IERは細胞表面認識分子を失ったためにニューロサーキットに異常をきたし発症すると考えられ、「ニューロサーキット異常型」の発達障害を伴うてんかんの良いモデルとなる。そこで、本研究では、IER型の「細胞表面認識分子の異常によりもたらされる発達障害およびてんかん」の発症・病態進展機構をモデル動物を使って明らかにすること、そして、それに相当するヒト疾患を新たに同定し、将来の診断法や有効な治療法の開発に道を拓くこと、を研究目的としている。
研究方法
(1) IERの原因遺伝子がEpi-IERであることを確定するために、IERにおけるEpi-IERの発現量が低下していること、Epi-IERのノックアウトマウスおよびラットを作製して、その表現型がIERと同一であること、を証明する。(2) IERの病理・病態を知るために、その表現型を、解剖学的、電気生理学的に調べる。(3)精神遅滞を伴うてんかんのリサーチリソースにおいて、RNA, cDNAのデポジットリーを作製し、Epi-IERの低発現群をスクリーニングする。また、ゲノムDNAをシークエンスし、Epi-IERにおけるゲノム異常を検出する。Epi-IERのファミリー遺伝子Epi-IER2の機能を調べるために、そのノックアウトマウスの表現型を解析する。
結果と考察
本研究においては、KOマウスおよびKOラットの解析からIERの原因遺伝子がEpi-IERであることを完全に確定することができた。この遺伝子産物Epi-IERは神経突起伸長や、蛋白質相互反発作用を介した神経細胞の配置、神経突起の束化阻害作用をもつことを明らかにした。IERでは、この作用が失われるため、抑制性神経細胞の配置と形態異常により、その機能が損なわれ、てんかんが惹起される。しかしながら、ヒト相同疾患の同定については道半ばであるが、EPI-IER遺伝子の発現量が低下する家系やいくつかのRare SNPsは同定することができた。今後もひきつづきその相同疾患の同定に努力するとともに、このEPI-IER遺伝子の血液中あるいはリンパ芽球中における発現量が、「精神遅滞+てんかん」のバイオマーカーになりうるのかどうかについても、検討して行きたい。
結論
これまでにIERの表現型解析と原因遺伝子の同定、そしてその遺伝子産物の生理的機能およびその異常によるてんかんの発症機構について、おおよそ明らかにできたと考えている。しかしながら、ヒト相同疾患の同定については道半ばであり、EPI-IER遺伝子の発現量が低下する家系やいくつかのRare SNPsは同定することができたが、その相同疾患の完全な同定には至っていない。今後もひきつづきその相同疾患の同定に努力するとともに、このEPI-IER遺伝子の血液中あるいはリンパ芽球中における発現量が、「精神遅滞+てんかん」のバイオマーカーになりうるのかどうかについても、検討して行きたい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201317075C

成果

専門的・学術的観点からの成果
IERの原因遺伝子としてEpi-IERを同定した。この遺伝子の一塩基置換によるスプライシング異常が原因であることが、IERの原因となっていることがわかった。この遺伝子産物EPI-IER蛋白質には、神経突起伸長作用、神経突起束化阻害作用、神経細胞配置作用があること、IERではその機能異常により神経回路が障害を受けて興奮性優位となり、てんかんを発症することがわかった。
臨床的観点からの成果
精神発達障害を伴うてんかんの症例では、そのリンパ芽球において、Epi-IER遺伝子の発現が低下していることがわかった。これは、この検査が精神発達を伴うてんかんのバイオマーカーとして使える可能性を示唆している。また、それらのEpi-IER発現低下症例において、この遺伝子ゲノムの多数のSNPを同定した。それらの中にはこの蛋白質の立体構造に影響を与えるようなアミノ酸置換を伴うものが二例見つけられた。現在、この変異の意義について検証しているところである。
ガイドライン等の開発
ようやく基礎研究から臨床応用へと移行する段階なので、ガイドライン等はまだ開発していない。しかし、患者血液中、あるいはそこから単離されたリンパ芽球におけるEpi-IER遺伝子の発現量をバイオマーカーとして使うなどについて、今後開発して行きたい。
その他行政的観点からの成果
現在、論文を投稿中である。具体的な行政的成果は、この論文が受理された後になる。特に、バイオマーカー開発やSNPの結果を元としたゲノム解析による診断について、さらに進めて行きたい。
その他のインパクト
現在、論文を投稿中である。これが受理された後に、プレスリリースなど様々な手段で成果を公表していきたい。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
33件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
49件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamada M et al.
Specification of spatial identities of cerebellar neuron progenitors by ptf1a and atoh1 for proper production of GABAergic and glutamatergic neurons.
J Neurosci , 34 (14) , 4786-4800  (2014)
10.1523/JNEUROSCI.2722-13.2014
原著論文2
Seto Y, Ishiwata S, Hoshino M
Characterization of Olig2 expression during cerebellar development.
Gene Expr Patterns , 15 (1) , 1-7  (2014)
10.1016/j.gep.2014.02.001
原著論文3
Seto Y et al.
Temporal identity transition from Purkinje cell progenitors to GABAergic interneuron progenitors in the cerebellum.
Nat Commun , 5 (3337) , 1-7  (2014)
10.1038/ncomms4337
原著論文4
Waga C et al.
of two novel Shank3 transcripts in the developing mouse neocortex.
J Neurochem , 128 (2) , 280-293  (2014)
10.1111/jnc.12505
原著論文5
Otsuki T et al.
Surgical management of cortical dysplasia in infancy and early childhood.
Brain Dev , 35 (8) , 802-809  (2013)
10.1016/j.braindev.2013.04.008
原著論文6
Arai A et al.
Abnormal maturation and differentiation of neocortical neurons in epileptogenic cortical malformation: unique distribution of layer-specific marker cells of focal cortical dysplasia and hemimegalencephaly.
Brain Res , 1470 , 89-97  (2012)
10.1016/j.brainres.2012.06.009
原著論文7
Itoh M et al.
Methyl CpG-binding protein isoform MeCP2_e2 is dispensable for Rett syndrome phenotypes but essential for embryo viability and placenta development.
J Biol Chem , 287 (17) , 13859-13867  (2012)
10.1074/jbc.M111.309864
原著論文8
Saito T et al.
Neocortical layer formation of human developing brains and lissencephalies: consideration of layer-specific marker expression.
Cereb Cortex , 21 (3) , 588-596  (2011)
10.1093/cercor/bhq125
原著論文9
Honda T et al.
Upregulation of insulin-like growth factor binding protein 3 in astrocytes of transgenic mice that express Borna disease virus phosphoprotein.
J Virol , 85 (9) , 4567-4571  (2011)
10.1128/JVI.01817-10
原著論文10
Hori et al.
Cytoskeletal regulation of AUTS2 in neuronal migration and neuritogenesis.
Cell Reports , 9 , 2166-2179  (2014)
10.1016/j.celrep.2014.11.045

公開日・更新日

公開日
2024-06-03
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317075Z