骨粗鬆症予防のための骨量測定法に関する研究

文献情報

文献番号
199800236A
報告書区分
総括
研究課題名
骨粗鬆症予防のための骨量測定法に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
森田 陸司(滋賀医科大学放射線医学)
研究分担者(所属機関)
  • 福永仁夫(川崎医科大学)
  • 白木正孝(成人病診療所)
  • 串田一博(浜松医科大学)
  • 山本逸雄(滋賀医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨粗鬆症の治療の基本は骨量などの喪失や骨折による骨の不可逆的変化が起こる前に予防することにある。このためには早期の段階での正確な骨の評価とそれに対する対処法の確立が肝要である。近年発展してきた骨量計測法は骨塩量の早期の変化を正確に定量することが可能でありひろく用いられているがその意義及び適当な基準値なお充分明らかでない。本研究は骨粗鬆症予防のための骨量測定法の意義とその基準値の作成、評価を行うことを目的とする。
研究方法
骨量測定法にはDXA法(2重X線吸収測定法)をはじめとする諸種の方法があり、昨年度までに各方法における日本人女性の年令分布をもとめてきたが、本年度は既存の各方法につき各研究者ごとに分担して検討を深め、特に骨折域値との関連から基準値の作成を試みた。昨年度に引き続き、測定法自体の基準化を図るために日本放射線技術学会と協同で測定法のマニュアルの作成を試み、完成した。また各測定法の臨床的意義に関し、特に脊椎圧迫骨折との関連に関し詳細な評価を行った。
1.基準的な測定法として広く行われているDXA法に関しその基準化のための機器の精度管理法、及び測定法に関する誤差要因を検討し、マニュアルの作成を行い、各測定法の適切な使用方法を提案した。
2.橈骨pQCT法に関し、同一例で腰椎DXA法との比較を行い、脊椎骨折の予知に有効であるかどうか検討した。
3.骨構造と骨強度との関連を検討するためCT測定データを有限要素法に自動的に取り込み,解析するシステムを開発し、本法の有用性に関して基礎的検討を行った。
4.踵骨超音波法測定値と脊椎圧迫骨折の関連に関し同時に施行された腰椎や大腿骨頸部DXA測定、踵骨SXA測定など他の測定法との比較を260例の女性において検討しその測定意義に関し考察を加えた。
5.多くの骨量測定法があるが、用いられた方法により、診断が異なる可能性がある。各種測定法間の診断法の一致率に関し、同一例で多方法、異機種にて測定された846名の女性につき、日本骨代謝学会の提唱した診断基準に基づいて診断し、診断一致率、あるいは不一致率を検討した。
6.骨量測定の意義を縦断的に検討した。つまり低骨量とされた人を無治療にて経過を見たときにどのようになるかが検討された。
結果と考察
それぞれの検討項目につき以下のような結果を得た。
1.腰椎DXA法及びその他の部位の骨量測定のマニュアルを完成させ、日本放射線技術学会会誌に発表した(第55巻第2号165-187、1999)。これにより、ファントムの測定法、各骨量測定法など、骨塩定量法の標準定量法と装置の基本評価法が確立していくものと思われる。
2.橈骨pQCTの測定において皮質骨と海綿骨をそれぞれ分別して評価可能であり、DXAによる腰椎測定法と比較して、診断一致率をKappa scoreで検討したところ0.31~0.59であった。
3.剖検でのヒト大腿骨を用いて、CTデータを自動的に有限要素法に取り込み,圧縮試験を行った成績と理論値とを比較検討したが、その相関は良好であった.また有限要素法にて求めた骨折予測線と,実際の骨折させて行った骨折試験の結果とはほぼ一致した。
4.踵骨超音波法測定値は脊椎圧迫骨折の有無群間で有意差を示したが、腰椎DXAや大腿骨頸部(Wards)に比し早期の骨粗鬆症例(圧迫骨折1ヶ例)では感度が低く、2ヶ所以上骨折群ではむしろ腰椎DXAや大腿骨頸部(Wards)測定より骨折例の分別は良好であった(Odds比1.58 vs 1.34~1.19)。
5.同一例において、別の方法にて測定した場合、その診断一致率は80%程度であった。これは、正常と判断された例数が多いためであるが、Kappa scoreではいずれの方法においても、0.4~0.5程度であり、測定部位が異なると診断が異なると言うことが示された。
6.骨量低値群と高値群に分け、1年以上経過観察できた例につきその後の骨折発生率を比較したところ(平均2.2年)、有意に低骨量者において骨折発生率が高かった。
今回、骨量測定法においては測定精度が極めて重要であるが、測定の手順が基準化され、本マニュアルの普及により骨量測定法の精度が上昇することが期待される。
測定部位の違いによる診断の違いという問題に関してであるが、DXA法による橈骨遠位部の測定、DXA法による踵骨の測定、pQCT法による橈骨の測定、更に超音波法による踵骨の測定などの末梢骨をはじめとする各測定法による脊椎圧迫骨折のリスク評価は、腰椎測定そのものには及ばない点はあるがかなりの程度で可能であることが確認された。しかしながら、同一例においては、測定部位が異なると診断が異なることも示された。検診などにおいて用いる方法によって特にボーダーラインの人は診断が異なる可能性がある。理想的には2ヶ所以上測れば、診断の精度は上昇する。特に末梢骨の測定においてボーダーラインの人は、他の部位の測定をも行うことがすすめられる。
骨量測定により低骨量、あるいは正常骨量と診断される意味の検討が縦断的検討によって行われたが、低骨量者においては観察期間中に骨折の発生率が有意に高く、このことは低骨量者を早期に発見して予防するという骨量スクリーニングの意味を裏付けたと言える。
結論
骨量測定法に関する検討を行い、以下の結論を得た。
1.骨量測定のためのマニュアルの作成を行い、公表した。
2.橈骨pQCT法は腰椎の測定と相関があることが示された。
3.踵骨DXA法は脊椎圧迫骨折のリスク評価に有用であり、スクリーニングにおけるカットオフ値を提唱した。
4.CTデータを自動的に有限要素法に取り込み骨強度を解析するシステムを作成した。
5.多くの骨量測定法があるが、各測定法による診断は不一致がおこり得ることが統計的に明らかとなった。
6.縦断的研究によって骨量スクリーニングは、将来の骨折のリスクを予知することが示された。

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