医療観察法の向上と関係機関の連携に関する研究

文献情報

文献番号
201317061A
報告書区分
総括
研究課題名
医療観察法の向上と関係機関の連携に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-011
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中島 豊爾(地方独立行政法人 岡山県精神科医療センター 医療部・管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 村上 優(国立病院機構琉球病院)
  • 平林 直次(国立精神・神経センター病院)
  • 藤井 康男(山梨県立北病院)
  • 兼行 浩史(山口県立こころの医療センター)
  • 宮本 真巳(亀田医療大学)
  • 五十嵐 禎人(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医療観察法における医療の実態の継続的把握を行い、入院医療の質の均霑化及び通院医療の質的向上を目指す。さらに、倫理的視点及び転帰・予後の観点やチーム医療の立場からも検討を加え、研究で明らかになった課題の解決策を検討し、政策提言を行うことを目的とする。
研究方法
指定入院医療機関相互のピアレビュー及びアンケート調査等により入院・通院医療の実態を把握し、検討を加えた。
結果と考察
1.ピアレビューを通して入院医療の質の均霑化を図るとともに、事例を集積しつつ対象者の社会復帰の促進について総合的に検討した結果、超長期入院を減らすためにはクロザピンを入院早期から積極的に使用すべきであること、クロザピンを使用しても精神病症状が十分に改善しない例や、幻覚妄想が改善しても併存疾患により入院が長期化する例があること、退院が極めて困難な例は少数であるが、今後このような対象者の処遇については検討が必要であることなどが示唆された。
2.入院期間の長期化傾向が続いており、早急に対策を講じる必要がある。また、引き続き入院処遇ガイドラインの周知徹底が必要である。
3.指定通院医療機関におけるクロザピンの使用に関してはかなりの制約があることが分かっており、CPMS登録比率を上げることと地域格差の是正が問題解決に有効であると示唆された。精神科臨床医はクロザピン使用経験を積むにつれてクロザピン治療への認識を改善し、血液モニタリングへの負担や副作用リスクへの危惧は軽減されることが明らかとなった。
4.医療観察法医療の転帰・予後を調査・研究するためには、モニタリングシステムの構築が不可欠であり、そのためには全国で一括したID管理を行う必要がある。処遇終了後の予後調査に関しては、対象者などの同意に基づいて、今後の体制を検討する必要があると考えられた。
5.ピアレビュー及び精神科看護専門学会参加者へのアンケート調査を通じて、多職種連携を一般精神科医療に還元するための要件を探ったところ、各職種間の情報交換と共有、コミュニケーションの促進、グループダイナミクスの活性化を促す方法、患者本人の考え方や思いを尊重する姿勢、関係職種が集まる会議の設定と開催、患者参加型会議の実施、看護師によるケアコーディネーター役割の遂行、患者が思いを語る(振り返る)場の設定などが活用できそうであると考えられた。
6.倫理会議のセカンド・オピニオンとしての機能は概ね順調に機能していることが示唆されたが、医療観察法の治療理念に反する向精神薬の非告知投与事例が存在し、倫理会議で承認されていたことは、倫理会議の審査機能に危惧を生じさせるものといえる。携帯電話の使用には制限が設けられており、制限する理由としては電話機能以外の撮影、録画、ネット接続などの機能による個人情報の流出に対する危惧やセキュリティ保持などがあげられ、許可する理由としては、外出・外泊時の使用が想定されていた。m-ECTを施行するための整備が行われていない病棟や、クロザピンが導入されていない病棟があり、これらの治療手技が統合失調症の薬物治療アルゴリズムの中で事実上最終手段と位置づけられていることを考慮すると、医療観察法病棟においてこれらの治療手技が使用できないことは、倫理的な面からも大きな問題があると思われる。
結論
指定入院医療機関への入院期間の長期化傾向が進んでいる事実は、「社会復帰の促進」と一部矛盾しており、今後、指定入院医療機関の機能分化も含め、妥当な入院日数についての再検討を行う必要がある。指定入院医療機関における自殺、死亡、暴力事件等についての事例集積とともに、個別事例の分析・検討が必要である。指定入院医療機関ごとに、対象者の治療への同意に関する認識の度合いに差があることは、法運用上の大きな問題である。同意能力についても、適切なガイドラインへの追加が必要であろう。統合失調症に対する最終的治療の一つとされているm-ECTが実施できない病院や実施していない病院が存在することは、倫理的にも重大な問題であり、全ての指定入院医療機関で実施可能とすべきである。「治療反応性」の有無を判断するためにも、全ての指定入院医療機関でクロザピン投与が可能となるよう、行政的対応が必要とされている。同時に、各帰住地の指定通院医療機関においてもクロザピン投与が可能とならなければならない。また、対象者の全数調査を行うためには、厚生労働科学研究という枠組みでは不可能となっており、全対象者にID番号を付与する等、国の責任で調査を行う必要がある。指定入院医療機関における喫煙の自由、並びに携帯電話使用の自由等について検討を加え、ガイドラインの改訂に結び付ける必要があろう。
 上記のような各項目を視野に入れつつ、また10年目の法の見直しやガイドラインの改訂に向けて、継続して検討を行う予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201317061Z