向精神薬の処方や対策に関する実態調査と外部評価システム(臨床評価)に関する研究

文献情報

文献番号
201317054A
報告書区分
総括
研究課題名
向精神薬の処方や対策に関する実態調査と外部評価システム(臨床評価)に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
清水 栄司(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 伊豫 雅臣(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 金原 信久(千葉大学社会精神保健教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ドパミン過感受性精神病(DSP)は統合失調症患者に対する薬物療法の影響として観察される状態であり、遅発性ジスキネジアやリバウンド精神病など様々な症状として顕在化する。この現象は患者の予後や治療抵抗化と深く関係している。このように疾患経過に大きな影響を与えるため、適切な薬物療法を行うに際して、極めて重要な概念である。この状態の背景には抗精神病薬治療によって惹起されるドパミンD2受容体のup-regulationが関与しているものと推察され、取り分け長期間あるいは高用量の治療を受けた者に生じやすいものと理解される。同受容体の増加したDSP状態において、症状制御に必要な抗精神病薬用量は増大し、同時に「至適な」受容体占拠率は上方にシフトしかつ狭小化する。すなわち1消失半減期当たりの抗精神病薬の消失量は増加し、占拠率の維持も困難になることが考えられる。臨床的に観察されるDSPはこのような病態を背景に生じているものと考えられ、病状の安定化には、受容体占拠を「至適に」維持し、かつさらなるD2受容体のup-regulationを引き起こさない治療が重要である。この考え方に適合する薬剤として持効性注射剤のような長半減期型の抗精神病薬を用いた治療法が考えられる。そこで本研究ではリスぺリドン持効性注射剤を用いた内服抗精神病薬への上乗せ療法によって、精神症状が改善するかを検証した。
研究方法
本研究は9施設の多施設共同研究であり、各機関の倫理審査部会で承認を得て、被験者に口頭・文書による同意を得て実施されている。2010年5月~2011年9月まで115名の被験者が参加した(第1次組込)。さらに2011年9月~2013年5月まで13名の被験者も追加された(第2次組込)。臨床的に症状改善が最大となるように、担当医の裁量で内服抗精神病薬・リスぺリドン持効性注射剤の用量調整が行われ、合計で24か月の追跡が実施中である。具体的には内服抗精神病薬治療によって治療中の治療抵抗性統合失調症(統合失調感情障害を含む)患者に対して、リスぺリドン持効性注射剤を導入し、可能な限り内服抗精神病薬を減量させて行くという治療プロトコールである。各被験者において過去5年以内に何等かのDSPエピソードを認めた者をDSP群、それを認めない者をNonDSP群と定義し、群間で比較を行った。
治療抵抗性統合失調症の診断基準はBroad Eligibility Criteria (Juarez-Reyesら, 1996)を、DSPの診断にはChouinard(1991)の診断基準を一部改編して用いた。主要評価項目はBPRSの変化率である。
結果と考察
第1期組込の被験者で1年間の追跡の最終解析の対象となった者は94名いた。そのうちDSP群が61名、NonDSP群が33名であった。1年間の追跡においてDSP群はNonDSP群よりもBPRSの変化率が有意に大きく、同療法での効果が示唆された(BPRS変化率でDSP群は33%;NonDSP群は17%)。この第1期組込の被験者の2年間の追跡において、両群の差はそのまま維持されていた(BPRS変化率でDSP群は29%;NonDSP群は16%)。以上の結果はGAFや錐体外路症状(ESRS)でも同様の傾向であった。現在第2期組込の追跡中であり、今後終了次第、第1期及び第2期をまとめて統計解析を実施し、群間差を検証する予定である。
全ての結果がまだ出揃っておらず、最終結果はまだ変更される可能性があるが、今のところDSP状態にある患者に対して、非定型抗精神病薬持効性注射剤の上乗せ療法の有効性は示唆される結果となっている。このことは我々の仮説を支持し、また治療抵抗性統合失調症の病態にDSP状態が関与することも示唆している。
結論
ドパミン過感受性精神病を有する統合失調症患者の治療には長半減期型の非定型抗精神病薬の使用が有効である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201317054Z