うつ病患者に対する復職支援体制の確立 うつ病患者に対する社会復帰プログラムに関する研究    

文献情報

文献番号
201317049A
報告書区分
総括
研究課題名
うつ病患者に対する復職支援体制の確立 うつ病患者に対する社会復帰プログラムに関する研究    
課題番号
H23-精神-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 剛(NTT東日本関東病院 精神神経科)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 良雄(メディカルケア虎ノ門)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科精神医学)
  • 中村 純(産業医科大学医学部精神医学)
  • 酒井 佳永(跡見学園女子大学文学部臨床心理学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
今年度の本研究の目的は、1.通常の外来治療で復職した群と復帰援助プログラムを経て復職した群の比較、2.リワークプログラム利用者の復職後2年間の予後調査。3.リワーク指導マニュアルの作成。4.スタッフおよび管理者のための教育システムの開発と標準的なリワークプログラム教育ビデオの作製、5.リワークプログラムの実施状況と利用者に関する調査研究、6.うつ病患者の運転技能に関する検討、7.勤労者うつ病患者のリワーク非利用群における復職成功予測因子の検索 であった。
研究方法
1.都内総合病院で実施されているリワークプログラムを利用して復職した患者と、九州地方の総合病院の精神神経科、および都内の精神科クリニックの2医療機関で通常の治療を受けて復職した患者の就労予後を比較した。
2.リワーク研究会正会員の施設での治療後に復職したものの就労予後を検討した。
3.昨年度作成されたリワークマニュアルを使用した治療スタッフ、患者を対象にアンケート調査を行った。
4.複数施設から選ばれた共同研究者、映画製作の専門家が共同して、シナリオの助言・提案・企画立案・脚本制作を行った。
5.うつ病リワーク研究会正会員の所属する医療機関、およびその利用者を対象としてアンケートを行った。
6.運転業務を模した課題として、運転シミュレータを用いて、追従走行課題、車線維持課題、飛び出し課題の3課題を、十分な練習の上で施行した。また認知機能試験としてはWCST:遂行機能、CPT:持続的注意、TMT:遂行機能、処理速度、視覚的注意の3課題を行った。眠気の影響を検討するために、課題施行時のStanford眠気尺度を評価した。うつ病患者群に対しては、症状評価として、ハミルトンうつ病評価尺度、ベックうつ病自己記入式尺度、社会適応度自己記入式尺度を行った。また、使用している向精神薬を調査し、主剤である抗うつ薬の種類により、群分けした。
7.復職決定時に血中BDNF値を測定し、復職成功群と復職失敗群とを比較検討した。
結果と考察
1.リワークプログラムを利用することが復職準備性を高め、再休職のリスクを軽減することが示された。
2.復職後の就労継続推定値は、過去の同じ組入基準で実施した研究と同様に良好であった。
3.治療スタッフが通常の業務の中で、リワークマニュアルをうまく使いこなすことができなかった可能性が考えられたが、正式にマニュアルを使ったスタッフの評価は高いものであった。また、患者群の回答率は高く、評価も高いものであった。総合して、リワークマニュアルの有用性は、患者群および使い方を理解して使用する治療スタッフにおいては、十分に高いものと言えよう。
4.普及啓発のために動画という媒体を開発できたので、「見ることによって初めてよく理解できました」といった研修効果を期待できる。
5.うつ病リワーク研究会の会員施設においては、プログラムの標準化が進んできているが、双極性障害や発達障害の可能性を持つ利用者が多く、難治性の気分障害が対象となっていることが改めて浮き彫りとなった。
6.社会復帰準備中にあるうつ病患者群は健常対照群と比較し、運転技能について同等の水準であることが示唆された。一方、認知機能については、うつ病患者群では持続的注意および遂行機能で統計学的に有意に成績が低下していた。また、うつ病患者群の運転技能については、症候学的評価と関連がなく、使用している抗うつ薬によっても有意な差異は示唆されなかった。本研究に参加したうつ病患者群は、既に急性期を脱し社会復帰準備中にある、うつ病症状は軽度の患者群であるが、残遺症状や残遺する認知機能障害のみで、運転技能が低下している、あるいは危険運転のリスクがあるという、考えを支持しない結果であった。本研究結果は、少数例の検討であり、今後サンプル数を拡大して、検証を継続する必要があるが、精神疾患という病名に基づいた画一的な対応ではなく、証左に基づいた、真の社会参画の在り方を議論する余地があることを示唆している。
7.血中BDNF濃度による復職予測は難しい。

結論
リワークプログラムは就労継続の予後を改善するのに効果がある。リワークプログラムが利用できない場合、リワークマニュアルを用いた指導の有用性が高いと考えられる。リワークプログラムのスタッフ研修のための動画媒体の開発が進んでいる。うつ病リワーク研究会の会員施設においては、プログラムの標準化が進んできているが、より対応が困難な患者が対象となってきている。社会復帰準備中にあるうつ病患者群は健常対照群と比較し、運転技能について同等の水準であることが示唆された。血中BDNF濃度による復職予測は難しい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

文献情報

文献番号
201317049B
報告書区分
総合
研究課題名
うつ病患者に対する復職支援体制の確立 うつ病患者に対する社会復帰プログラムに関する研究    
課題番号
H23-精神-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
秋山 剛(NTT東日本関東病院 精神神経科)
研究分担者(所属機関)
  • 五十嵐 良雄(メディカルケア虎ノ門)
  • 尾崎 紀夫(名古屋大学大学院医学系研究科精神医学)
  • 中村 純(産業医科大学医学部精神医学)
  • 酒井 佳永(跡見学園女子大学文学部臨床心理学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成23-25年度の本研究の目的は、1.大うつ病を対象とした復職援助プログラムの効果に関する無作為化比較試験、2.リワークプログラム利用者の復職後の就労予後に関する調査研究、3.リワークマニュアルの有用性の検討、4.スタッフおよび管理者のための教育システムの開発と標準的なリワークプログラム教育ビデオの作製、5.リワークプログラムの実施状況と利用者に関する調査研究、6.気分障害患者の運転技能に関する検討、7.うつ病患者の通常診療下における職場復帰後継続率と復職成功予測因子及びそのバイオロジカルマーカーの探索に関する研究 であった。
研究方法
1. 対象者は、3施設の集団ワークプログラム群、もしくは対照群の4群にブロックランダム化法を用いて無作為に割り付けられた。
2. 利用群と非利用群をpropensity scoreによる共変量調整法を用いたマッチングを行い、その上でプログラム利用群と非利用群の就労継続性の比較を検討した。2群間の比較は、Log-rank検定により実施した。復職後の就労継続性に関連する背景因子を、多変量によるCox比例ハザードモデルを用いて検討した。
3. 平成24年度に、エキスパートコンセンサスで、リワークマニュアルを作成した。有用性の調査については、リワークマニュアルの使用を希望した治療スタッフに、リワークマニュアルおよびアンケートシート、患者用アンケートシートを送付した。患者へのアンケートシートおよび説明同意書は、治療スタッフから渡してもらうこととした。
4. 複数施設から選ばれた共同研究者、映画製作の専門家が共同して、シナリオの助言・提案・企画立案・脚本制作を行った。
5. うつ病リワーク研究会正会員が所属する医療機関、およびその利用者を対象としてアンケートを行った。
6. 患者群として、運転免許を有し、実際に運転歴を持つ、大うつ病性障害と診断された社会復帰準備中にある者を対象とした。健常群として、運転免許を有し、実際に運転歴を持つ、精神疾患を有さない者を対象とした。高齢者群はそのうち60歳以上とし、高齢者(軽度認知機能障害)群については、CDRにて0.5に相当する軽度認知障害者を対象とした。抗うつ薬の連続投与については、強い眠気を惹起する、ミルタザピン15mg、トラゾドン25mg、プラセボを用いた二重盲検交差法(Wash Out 期間は1週間以上)とした。
7. 大うつ病性障害の診断基準を満たし、休職中だったが復職した患者54名を対象とした。復職6ヶ月の時点で復職継続している群を復職成功群、脱落した群を復職失敗群と定義した。また復職決定時に血中BDNF値を測定しその両群を比較検討した。

結果と考察
1. 単純主効果の検討で、介入群では復職準備性および非機能的態度に有意な改善が認められた。
2. 両群の就労継続性の比較をLog-rank検定により検討した結果、プログラム利用者は有意に就労継続性が良好であることが示された。またCox比例ハザードモデルを用いた多変量解析においても、リワークプログラム利用者の就労継続性が有意に良好であることが示された。
3. 正式にマニュアルを使ったスタッフの評価は高いものであった。患者群の回答率は高く、評価も高いものであった。総合して、リワークマニュアルの有用性は、十分に高いものと言えよう。
4. 普及啓発のために動画という媒体を開発できたので、「見ることによって初めてよく理解できました」といった研修効果を期待できる。
5. うつ病リワーク研究会の会員施設においては、プログラムの標準化が進んできているが、双極性障害や発達障害の可能性を持つ利用者が多く、難治性の気分障害が対象となっていることが改めて浮き彫りとなった。
6. ミルタザピンなどの鎮静系抗うつ薬であっても、運転を含めた日常業務遂行など、うつ病患者の社会復帰を妨げないことが示唆された。高齢者の運転技能評価は、十分な練習を行った上で施行する必要性が示唆された。
7. 通常診療科での復職継続率は低く、特に早期の脱落が多い。現時点では血中BDNF濃度からは復職予測は難しい。

結論
RCTにおいて、介入群では復職準備性、非機能的態度の改善が有意に高かった。また、リワークプログラム利用者の就労継続性が有意に良好であることが示された。リワークプログラムが利用できない場合、リワークマニュアルを用いた指導の有用性が高いと考えられる。スタッフ研修のための動画媒体の開発が進んでいる。うつ病リワーク研究会の会員施設においてプログラムの標準化が進んでいるが、より対応が困難な患者が対象となってきている。ミルタザピンなどの鎮静系抗うつ薬であっても、運転を含めた日常業務遂行など、うつ病患者の社会復帰を妨げないことが示唆される。血中BDNF濃度による復職予測は難しい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201317049C

成果

専門的・学術的観点からの成果
社会復帰準備中にあるうつ病患者群は健常対照群と比較し、運転技能について同等の水準であることが示唆された。認知機能については、うつ病患者群では持続的注意および遂行機能で有意に成績が低下していた。また、うつ病患者群の運転技能については、症候学的評価と関連がなく、使用している抗うつ薬によっても有意な差異は示唆されなかった。うつ病症状は軽度の患者群であるが、残遺症状や残遺する認知機能障害のみで、運転技能が低下している、あるいは危険運転のリスクがあるという、考えを支持しない結果であった。
臨床的観点からの成果
リワークプログラム利用群と非利用群の就労継続予後については、単変量分析では性別、総休職回数、復職準備性評価シートの得点、リワークプログラムの利用が有意に就労継続を予測していた。多変量分析では、リワークプログラムの利用、および復職準備性評価シートの得点は、どちらも性別と総休職回数とは独立に就労継続を有意に予測していた。また復職準備性が高い状態で復職することは、休職回数や性別とは独立に再休職のリスクを軽減することが示された。
ガイドライン等の開発
今回の調査の治療スタッフの回答率(31%)はやや低いものであった。理由として、リワークマニュアルが、これまで通常行われている指導と異なり、かなり詳細、具体的な内容にわたっていて、うまく使いこなすことができなかった可能性が考えられる。患者群の回答率(78%)は高く、マニュアルを使った指導が、患者にとってインパクトのある体験であったことが推測される。リワークマニュアルの有用性は、患者群および使い方を理解して使用する治療スタッフにおいては、十分に高いものと言えよう。
その他行政的観点からの成果
スタッフのための教育システムの開発と標準的なリワークプログラム教育ビデオの作製について、リワークプログラムにおける援助職者が陥りやすい15の場面、 21のテーマが抽出された。リワークプログラムの実施状況と利用者については、集団プログラムを中心とするプログラム内容の充実やフォローアッププログラムの定着が示された。利用者については、休職回数が多く、休職期間が長い利用者がプログラムを利用していること、双極性障害が疑われる症例が3割、発達障害が疑われる症例が2割いることが示された。
その他のインパクト
平成25年4月27、28日に開催された第6回うつ病リワーク研究会年次研究会において、「経済産業省ネットワークプロジェクトとリワーク指導マニュアル」「大企業とのネットワーク」「中小企業とのネットワーク」「地方におけるネットワーク」「スタッフのネットワーク」「当事者・家族・センター・行政とのネットワーク」「双極性障害への支援」「発達障害支援のネットワーク」「実践報告」「評価」「治療的要因」「患者への支援」「事例セッション」などのシンポジウムを行った。「夕刊フジ」の取材を受けた。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
11件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2015-12-17

収支報告書

文献番号
201317049Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,800,000円
(2)補助金確定額
5,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,409,973円
人件費・謝金 3,538,963円
旅費 0円
その他 851,064円
間接経費 0円
合計 5,800,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
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