アウトリーチ(訪問支援)に関する研究

文献情報

文献番号
201317045A
報告書区分
総括
研究課題名
アウトリーチ(訪問支援)に関する研究
課題番号
H23-精神-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
萱間 真美(聖路加看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院)
  • 野中 猛(日本福祉大学)
  • 吉川 隆博(日本精神科看護協会)
  • 西尾 雅明(東北福祉大学)
  • 伊藤 順一郎(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所)
  • 三品 桂子(花園大学)
  • 野口 正行(岡山県精神保健福祉センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
6,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、精神障害者アウトリーチ推進事業の、対象者、ケア内容、ケア量、ケアの効果、利用者・相談者の満足度について詳細なデータを収集し、効果的かつ安定的なケアを継続的に提供するために必要な制度設計の基礎資料を提供することを目的として実施した。また、事業の効果・要因や成功例を全国の事業提供機関と共有し、多職種アウトリーチに必要な研修を提供することにより、モデル事業で提供されるサービスの質の向上を目的とした。
研究方法
平成23年度に開発した「調査データ入力システム」を用い、平成23年度~25年度に精神障害者アウトリーチ推進事業を受託した24道府県37チームのうち、研究協力が得られた22道府県35チームでの支援の実態を詳細に分析した。チームスタッフは、各対象者への支援開始時、支援開始後6カ月毎または支援終了時に対象者の状況を入力するとともに、訪問等の日々の支援、カンファレンス等の内容について入力を行い、連結不可能匿名化した上でデータを収集した。西尾分担班では、研修会前後にアンケート調査を実施し、さらに2012年度の研修参加者への1年後フォローアップ調査を実施した。
結果と考察
22道府県35チームにおいて、平成25年12月末時点での支援対象者541名の類型は、受療中断者270名(59.2%)、長期入院後退院した者や入院を繰り返す者86名(18.9%)未受診者63名(13.8%)ひきこもり状態の者37名(8.1%)であった。診断は、統合失調症圏333名(73.0%)気分障害35名(7.7%)症状性を含む器質性精神障害19名(4.2%)であった。541名のうち、支援開始後6カ月以上経過した者及び6カ月以内に支援が終了した者のうち、データに欠損のない252名について支援開始時から終了時における状態の変化を分析したところ、GAF得点は支援開始時39.7(±13.9)が支援終了時には45.7(±16.4)に、SBS得点は支援開始時23.7(±11.5)が支援終了時に19.5(±12.6)に変化し、両者とも統計的に有意であった。支援開始から12カ月間でのケアの状況は、支援開始前からケアマネジメント等の間接ケアが行われ、支援開始1カ月目が最もケア量が多くなっていた。対象者に12カ月間に提供されたコストの試算では、算出された職種別ケア量(分)に、「平成23年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)の結果から算出した各職種別単価(円/分)を乗じることで、支援開始後12カ月以内に提供されたコスト(人件費)の推移を算出した。本事業では平成25年現在の診療報酬制度では算定されないアウトリーチによる先駆的ケアが多く実践されており「24時間対応・電話対応・メール対応」「同日複数回訪問」「受診同行を含む、患家以外への訪問」「地域活動支援センターによる訪問」「ピアサポーターによる訪問」について事例をまとめた。
本事業の対象者との間には、支援者と対象者間の信頼関係や治療的関係の構築に長い期間と慎重なケアを必要とすることが大きな特徴であった。一方、一旦適切な治療や支援を導入することができれば、比較的スムーズに精神症状の改善が得られたケースが多かった。事業開始前後で、症状や社会機能の改善の度合いが大きかったことには、このような対象者の特徴が反映されていたと考えられる。アウトリーチにおいては、日常生活や精神症状へのケアなど、対象者に対して直接的な支援を提供できるようになるまでに、多くの会議、カンファレンス、ケアマネジメント業務を通じて関わりの下準備をしていており、地域生活を継続し、精神症状や社会生活状況の改善がなされた事例においては、初期の効果的な調整が多職種チームにおいて効果的に実行されたと考えられる。
また、西尾分担班による研修によって、それぞれの概念の重要性の理解が深まり、実践につながり、また、リカバリーに関する考え方が肯定的に変化するという、昨年度の調査で得られた示唆を裏付ける結果が見られた。さらに、研修効果が1年後にも維持されること、特に、リカバリー志向であることや利用者を尊重することといった価値観や信念に関わる領域では研修効果が維持されやすく、具体的な援助技法に関する領域では研修効果が維持されにくいことも示唆された。
結論
平成26年改訂で新設された精神科重症患者早期集中支援管理料は、今後、地域ケアの有力な資源として活用されることが期待できるが、この制度にかかわる人材の育成は今後の課題として残されている。制度は活用されてこそ洗練され、地域ケアに実際に資するものとなる。どうすればより効果的な制度として精神障がい者の地域移行・地域定着を支えることができるかについて、またそのための人材育成のあり方について、継続してフォローする必要があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201317045B
報告書区分
総合
研究課題名
アウトリーチ(訪問支援)に関する研究
課題番号
H23-精神-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
萱間 真美(聖路加看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院)
  • 野中 猛(日本福祉大学)
  • 吉川 隆博(日本精神科看護協会)
  • 西尾 雅明(東北福祉大学)
  • 伊藤 順一郎(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 三品 桂子(花園大学)
  • 野口 正行(岡山県精神保健福祉センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、精神障害者アウトリーチ推進事業の、対象者、ケア内容、ケア量、ケアの効果、利用者・相談者の満足度について詳細なデータを収集し、効果的かつ安定的なケアを継続的に提供するために必要な制度設計の基礎資料を提供することを目的として実施した。また、事業の効果・要因や成功例を全国の事業提供機関と共有し、多職種アウトリーチに必要な研修を提供することにより、モデル事業で提供されるサービスの質の向上を目的とした。
研究方法
平成23年度は実務担当者からのヒアリングを経て調査様式を開発し、先行3チームにおけるパイロット調査を経て調査モデルの修正を行った。平成24年度は調査システムをオンライン上に構築し、各アウトリーチチームは、対象者への支援開始時、支援開始後6カ月毎または支援終了時に対象者の状況を入力するとともに、訪問等の日々の支援、カンファレンス等の内容についても連結不可能匿名化した上で入力した。
西尾分担班では、平成23年度はデータ収集対象とした3チームにおいて事業担当者、保健所および市町村における事業の責任者・担当者に対してグループヒアリングを行った。平成24年度にはこの結果をふまえて、他の参加自治体の取り組みを把握し、モニタリングを継続するための方法論を検討した。本事業に関わる医療機関、保健所等の職員を対象とした研修会を保健所長会との共催で開催し、教育プログラムの試行と評価をおこなった。平成25年度も研修会を開催し前後にアンケート調査を実施した。さらに2012年度の研修参加者への1年後フォローアップ調査を実施した。
結果と考察
平成24年度は調査協力の得られた21道府県33チームからデータ収集を開始し、平成25年度は対象チームを増やし最終的に22道府県35チームからデータを収集した。平成23年9月~平成25年12月末に支援した対象者は計541名であった。
支援対象者の類型は、受療中断者27 名(59.2%)長期入院後退院した者や入院を繰り返す者86名(18.9%)未受診者63名(13.8%)ひきこもり状態の者37名(8.1%)であった。診断は、統合失調症圏333名(73.0%)気分障害が35名(7.7%)症状性を含む器質性精神障害19名(4.2%)であった。541名のうち、支援開始後6カ月以上経過した者及び6カ月以内に支援が終了した者の中から、データに欠損のない252名について、支援開始時から終了時における状態の変化を分析したところ、GAF得点は支援開始時39.7(±13.9)が支援終了時には45.7(±16.4)に、SBS 得点は支援開始時23.7(±11.5)が支援終了時に19.5(±12.6)に変化し、統計学的に有意であった。本事業では、支援者と対象者間の信頼関係や治療的関係の構築に長い期間と慎重なケアを必要とすることが特徴であった一方、一旦適切な治療や支援を導入することができれば、比較的スムーズに精神症状の改善が得られたケースが多かったと考えられる。また、支援開始から12カ月間における利用者1人当たりのケア内容・時間の推移を算出した結果、支援開始前からケアマネジメント等の間接ケアが行われており、支援開始1カ月目が最もケア量が多かった。さらに、本事業では平成25年現在の診療報酬制度では算定されないアウトリーチによる先駆的ケアが多く実践されており「同日複数回訪問」「受診同行を含む、患家以外への訪問」「ピアサポーターによる訪問」等について事例をまとめた。
西尾分担班による研修によって、それぞれの概念の重要性の理解が深まり、実践につながり、また、リカバリーに関する考え方が肯定的に変化するという、昨年度の調査で得られた示唆を裏付ける結果が見られた。さらに、研修効果が1年後にも維持されること、特に、リカバリー志向であることや利用者を尊重することといった価値観や信念に関わる領域では研修効果が維持されやすく、具体的な援助技法に関する領域では研修効果が維持されにくいことも示唆された。
結論
平成 26 年改訂で新設された精神科重症患者早期集中支援管理料は、今後、地域ケアの有力な資源として活用されることが期待できる。また、未受診者や引きこもりの者を対象として、行政機関による精神障害者地域生活支援広域調整等事業も都道府県の必須事業として展開される予定であるが、この制度にかかわる人材の育成は今後の課題として残されている。制度は、活用されてこそ洗練され、地域ケアに実際に資するものとなる。どうすればより効果的な制度として精神障がい者の地域移行・地域定着を支えることができるかについて、またそのための人材育成のあり方について、継続してフォローする必要があると考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201317045C

成果

専門的・学術的観点からの成果
精神障害者アウトリーチ推進事業の対象者及びチームを調査することにより、1)本事業の対象者像及び特徴、2)多職種チームの特徴と支援のプロセス、3)本事業が提供するサービスの効果、4)現行制度では算定されない先駆的なケア実践の詳細、5)アウトリーチに携わる人材の育成に対する示唆、が明らかになった。
臨床的観点からの成果
多職種カンファレンスやケースマネジメント等による関わり前の入念な下準備や、地域のサポート資源との定期的なカンファレンスの開催、対象者にとっての重大イベント発生時における集中的なケア投入、などが対象者の状態の安定に寄与していたという結果は、一般制度化されたことで全国的に浸透していくものと考えられる。また、本研究によってアウトリーチケアに携わる人材を育成するための教育研修プログラムの開発も進行した。
ガイドライン等の開発
中央社会保険医療協議会(第261回、平成25年11月29日)において、本研究で得られた成果が「同一日複数回訪問の効果」として参考にされた。
その他行政的観点からの成果
当初から一般制度化を目指して開始された本事業の内容の一部は、診療報酬の平成26 年改訂において精神科重症患者早期集中支援管理料として新設された。また、地域生活支援事業の都道府県必須事業である精神障害者地域生活支援広域調整等事業において、未受診者や引きこもりの者に行政機関による訪問活動を中心とした支援が展開されることとなった。
その他のインパクト
日本社会精神医学会主催の企画シンポジウム「未治療・治療中断のアウトリーチ」:民間からのアプローチ―医療機関・相談支援事業所・地域活動支援センターの事例から―にて講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
・中央社会保険医療協議会(第261回、平成25年11月29日) ・精神科重症患者早期集中支援管理料 ・精神障害者地域生活支援広域調整等事業
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kayama M, Kido Y, Setoya N et al.
Community outreach for patients who have difficulties in maintaining contact with mental health services: longitudinal retrospective study of the Japanese outreach model project
BMC Psychiatry , 14 (31)  (2014)
10.1186/s12888-014-0311-y

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2017-05-23

収支報告書

文献番号
201317045Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,600,000円
(2)補助金確定額
6,604,614円
差引額 [(1)-(2)]
-4,614円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 386,490円
人件費・謝金 2,227,970円
旅費 525,090円
その他 3,465,064円
間接経費 0円
合計 6,604,614円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
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