骨粗鬆症予防のための危険因子に関する研究

文献情報

文献番号
199800233A
報告書区分
総括
研究課題名
骨粗鬆症予防のための危険因子に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
折茂 肇(東京都老人医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 清野佳紀(岡山大学医学部)
  • 鈴木隆雄(東京都老人総合研究所)
  • 江見充(日本医科大学老人研究所)
  • 羽田明(旭川医科大学)
  • 橋本勉(和歌山県立医科大学)
  • 宮尾益理子(東京大学医学部)
  • 細井孝之(東京都老人医療センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨粗鬆症は、低骨量とそれに基づく骨微小構造の破綻による骨脆弱性の亢進をその病態の根本とする。その病態は単一ではなく、いくつかの種類に分けることができる。中でも最も患者数が多いのは加齢に伴って減少する骨量の減少が病的に亢進することによって生ずるいわゆる退行期骨粗鬆症である。高齢が進む今日、本症による高齢者の骨折を予防することが危急の仮題である。本研究の目的は骨粗鬆症予防を念頭に置いた危険因子の把握を疫学的レベルから分子生物学的レベルまでの広い視野から多角的に行なうことである。
この目的のために、骨粗鬆症の合併症としての骨折の中で最も重症なものである大腿骨頚部骨折の全国調査を行ない、これまで10年間における全国発生頻度の推移を検討した。 骨粗鬆症における病態の根本をなす低骨量を規定する因子はそれぞれ複数の環境因子と遺伝因子とに分けることができる。また、退行期における骨量は成長期に得た最大骨量とその後の骨量減少の度合いによって規定されるが、これらの両者に対して複数の遺伝的因子と環境因子が関与する。本研究班ではこれれらの因子を総合的かつ多角的に解析することにより、骨粗鬆症の危険因子を解明し、本症の予防と治療の方策を立案する。
研究方法
2. 我が国における大腿骨頚部骨折発生率の推計:1992年に実施した方法と同一の方法を用いて我が国における大腿骨頚部骨折の発生率を推計した。全国の医療機関からNeymanの最適割付法により調査施設を抽出し、郵送法による調査を行なった。
3. 最大骨量の遺伝的規定因子に関する検討:最大骨量を規定する遺伝的素因を検討するためにほぼ最大骨量をしめす集団である女子高校生の骨密度と遺伝子多型性の関連を検討した。本年度は特にカルシウム感知受容体遺伝子に認められる新しい多型性に注目した。7. 高齢女性の骨量決定における遺伝的素因の検討:これまで秋田県のある地域における高齢女性の集団において、遺伝的素因の同定とその寄与の大きさを検討してきた。本年度はとくに血中ホモシステイン濃度を規定する遺伝子のひとつであるmethylene tetrahydro‐folate reductase (MTHFR)遺伝子の多型性と、最近発見された破骨細胞の分化と機能の調節において最も重要な物質であるosteoprotegerin(OPG)遺伝子の多型性に注目した。ホモシステインは近年、複数の生活習慣病の発症に関与することが知られてきている。
8. 高齢女性における骨量変化率に対する遺伝的素因と環境因子の関与に関する検討:先年度までの研究で複数の遺伝的素因と環境因子の骨量に及ぼす影響を検討した高齢女性の集団において、骨量の縦断的変化率に対するこれらの因子の影響を検討した。この集団において行なった生活習慣に関する調査内容と複数の骨粗鬆症候補遺伝子の多型性文責の結果を多変量解析の手法で解析した。
9. 罹患同胞対法を用いた遺伝的素因の検討:多因子病、特に退行期の多因子病の遺伝的素因の検討に有用な罹患同胞対法を骨粗鬆症の遺伝子的素因解析に応用した。Sib‐pair176組297人について、骨量測定ならびに複数の候補遺伝子に関するmicro‐satellite polymoriphism(CA反復)の解析を行なった。候補遺伝子座におけるCA反復配列多型に対する骨粗鬆症罹患とのノンパラメトリック連鎖解析をおこなった。 
10. 高齢男性のの骨量決定における遺伝的素因の検討:退行期骨粗鬆症が女性に好発することはよく知られているが後期高齢者においては男性においても女性の数分の1程度の頻度で骨粗鬆症に基づくと考えられる骨折が発生している。このことは社会の高齢化が進む現在、男性における骨粗鬆症の発症要因を検討する必要があることを示している。今年度は男性における本症発症における遺伝的素因の検討を非血縁高齢男性集団の骨量と複数の候補遺伝子における多型性との関連を解析することによって行なった。
結果と考察
1.我が国における大腿骨頚部骨折発生率の推計:1992年に実施した方法と同一の方法を用いて我が国における大腿骨頚部骨折の発生率を推計した。その結果、1997年における大腿骨頚部骨折の発生患者数は約92400人と推計された。この結果は前回、前々回の結果に比して大きな増加を示している。しかしながら、年代別の骨折率は1987年のデータを上回るものの、1992年の数値とはほぼ同等であることが判明した。
2.最大骨量の遺伝的規定因子に関する検討:女子高校生の骨量とカルシウム感知受容体遺伝子に認められる新しい多型性との関連を検討した。分担研究者の清野らが見出したcodon990の多型性は骨量との関連は認めなかったものの骨形成マーカーである血清オステオカルシンとの有意な関連をしめした。この他にも本遺伝子の2つの多型性について検討したが骨量、骨代謝マーカーともに有意な関連を見出さなかった。
3.高齢女性の骨量決定における遺伝的素因の検討:血中ホモシステイン濃度を高値に導くMTHFR遺伝子の多型性と骨量との間に有意な相関が認められた。また、破骨細胞の分化と機能の調節において最も重要な物質であるOPG遺伝子について、その遺伝子構造を解析し、マイクロサテライト多型部位を検索した。また、塩基置換の多型性を検索したところ、2種類の多型性がみいだされ、こられの多型性と骨量との関連などについては今後の検討課題が得られた。
4.高齢女性における骨量変化率に対する遺伝的素因と環境因子の関与に関する検討:秋田県N村の高齢女性の集団において、骨量の縦断的変化率と生活習慣、ならびにと13の骨粗鬆症候補遺伝子の多型性分析の結果を多変量解析の手法で解析した。その結果、今回検討した遺伝子群の多型性の中には高齢女性の前腕骨量における変化率と有意な相関をもつものは見出されなかった。これらのことから、高齢期における骨密度の変動には遺伝的要因が少なくとも決定的要因となっていないことが示唆された。
5.罹患同胞対法を用いた遺伝的素因の検討:。Sib‐pair176組297人について、骨量測定ならびに複数の候補遺伝子に関するmicro‐satellite polymoriphism(CA反復)の解析を行なった。候補遺伝子座におけるCA反復配列多型に対する骨粗鬆症罹患とのノンパラメトリック連鎖解析をおこなった。その結果、検討した遺伝子群の中ではとくにインターロイキン6遺伝子座が骨量と強い連鎖をしめした。このことから、インターロイキン6遺伝子の変異が骨代謝に影響し、骨量の個人差をもたらすことが遺伝的に実証されたと考えられ、本遺伝子が骨粗鬆症の遺伝的因子の一つを形成すると考えられた。
6.高齢男性の骨量決定における遺伝的素因の検討:秋田県N村の高齢男性に関して、骨粗鬆症関連遺伝子の多型性を解析し、前腕骨量との相関を解析した。候補遺伝子としては、これまで閉経後女性の骨量と有意な相関が報告されいる、エストロゲン受容体遺伝子、副甲状腺ホルモン遺伝子、MTHFR遺伝子をとりあげた。解析の結果、エストロゲン受容体遺伝子多型性の一つが、高齢男性集団においても骨量との有意な相関をもつことが判明した。このことは男性の骨粗鬆症発症にも遺伝的素因が関与していることを示すとともに、男性の骨代謝においてもエストロゲン・エストロゲン受容体系が重要な役割を果たしていることを示唆した。
結論
骨粗鬆症の予防と治療を念頭においた危険因子の解析を遺伝因子と環境因子(生活習慣)の両面から多角的に行なった。さらにわが国における大腿骨頚部骨折の発症頻度を全国的な調査によって推計し、この10年間の推移を明らかにした。

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