てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究

文献情報

文献番号
201317043A
報告書区分
総括
研究課題名
てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究
課題番号
H23-精神-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大槻 泰介(国立精神・神経医療研究センター 国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 立森久照(国立精神・神経医療研究センター  精神保健計画研究部)
  • 竹島 正(国立精神・神経医療研究センター 精神保健計画研究部)
  • 赤松直樹(産業医科大学神経内科・臨床てんかん学)
  • 小林勝弘(岡山大学医学部・歯学部付属病院 小児神経学)
  • 松浦雅人(東京医科歯科大学 生命機能情報解析学)
  • 池田昭夫(京都大学大学院医学研究科 臨床神経学)
  • 加藤天美(近畿大学医学部)
  • 小国弘量(東京女子医科大学 小児科学)
  • 亀山茂樹(国立病院機構西新潟中央病院)
  • 井上有史(静岡てんかん・神経医療センター)
  • 中里信和(東北大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 てんかんは、乳幼児・小児から成人・老年に至る年令層に及ぶ患者数の多い神経疾患で、疫学的にはその有病率は1000人あたり5~10人とされている。しかし一方、厚労省の患者調査では本邦におけるてんかんの推定患者数は二十数万人(人口の0.17%)と報告され、疫学的推計と大きく乖離している。本研究の目的は、本邦の患者調査で把握されないてんかんの患者数(特に高齢者)とその診療実態を調査し、我が国で必要なてんかん医療のニーズの全貌を明らかにすることで、既存の医療資源の活用を含め、今後のてんかん医療の供給体制の道筋を示すことにある。
研究方法
 I.てんかんの患者数調査:高齢者施設における患者数調査、健康保険組合のレセプトデータを用いた調査、40歳以上を対象とした地域住民の疫学調査、及び過去の小児疫学調査の再集計を行った。II.地域のてんかん診療の実態調査:地域の小児科、精神科、神経内科、脳神経外科医師を対象としたてんかん診療実態調査、及びてんかん診療の中核施設における診療実態調査を行った。III. 全国の診療実態調査と診療ネットワーク構築:日本てんかん学、日本医師会、日本神経学会、日本小児神経学会、日本精神神経学会の会員を対象としたてんかんの診療実態に関するアンケート調査を行い、その結果をもとに全国規模のてんかん診療ネットワークの構築を行った。IV.これらの調査結果を基に、我が国の実情に即したてんかん患者ケア・アルゴリズムの提言を行った
結果と考察
 てんかんの患者数については、高齢者施設ではてんかん患者が入院患者の10%前後を占め、レセプトデータ上もてんかん受療者数は人口1,000人あたり7.2人で、住民検診や過去の小児てんかんの調査でも従来の疫学調査と同様の結果が得られたことより、高齢者人口の急増する我が国のてんかん患者数は、人口の0.8%(約100万人)前後と推定するのが妥当と考えられた。
 わが国のてんかんの地域医療は、現在一般の医師に対する行政からの情報発信が殆ど無く、またてんかんの基礎知識を体系的に学べる教育や研修は極めて不十分で、基幹医療機関の不足、および医師と関係機関相互の連携不足がある。また、てんかんの診断に必要な脳波計、MRIなどの医療機器は多くの医療機関に導入されている一方、これらの医療資源がてんかん診療に有効に利用されていない実態もある。その背景には、我が国では成人のてんかん診療を担当する診療科が歴史的に不明確で、精神科、脳神経外科、神経内科など様々な診療科が関わってきた特殊な経緯がある。現在、成人を診療するてんかん専門医は全国で約200名に過ぎず、このような状況に対処するには、診療科の枠を超えたてんかんの地域診療連携体制を整える必要性がある。当研究班では、全国のてんかん診療施設(約800施設)とてんかん診療医(約1200名)の名簿を掲載したウエブサイトを作成するとともに、日本の実情に即したてんかん診療連携モデルを提案した。この診療モデルは、てんかん診療施設を、ファーストアクセスとしての1次診療施設、問診・脳波及びMRI検査に基づくてんかんの診断と抗てんかん薬の調整が可能な2次診療施設、及び発作時ビデオ脳波モニタリングによる診断と外科治療が可能な3次診療施設とに機能分類し、てんかん発作が抑制されない場合は、より専門のてんかん診療機関に紹介され診断を受け、治療の結果発作が抑制され状態が安定した場合は、より一般のてんかん診療機関にもどり継続的な治療を受ける、という循環型の診療連携モデルを想定している。
結論
 てんかんの診療体制は現在多くの問題を抱えており、その背景に、てんかんの診療体制の確保に関する各基本診療科及び行政の関心の不足がある。今後、医療計画の策定にてんかん診療のことを記述する等によって、てんかん診療体制の確保への関心を高めていくことが必要であり、また、てんかん患者の保健医療福祉ニーズ調査、高齢てんかん患者対策としての認知症疾患医療センターの活用、各診療科の専門医教育プログラムにおけるてんかん教育等が今後の課題として残される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201317043B
報告書区分
総合
研究課題名
てんかんの有病率等に関する疫学研究及び診療実態の分析と治療体制の整備に関する研究
課題番号
H23-精神-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
大槻 泰介(国立精神・神経医療研究センター 国立精神・神経医療研究センター病院 脳神経外科診療部)
研究分担者(所属機関)
  • 立森久照(国立精神・神経医療研究センター 精神保健計画研究部)
  • 竹島 正(国立精神・神経医療研究センター 精神保健計画研究部)
  • 赤松直樹(産業医科大学神経内科)
  • 小林勝弘(岡山大学医学部・歯学部付属病院)
  • 松浦雅人(東京医科歯科大学・生命機能情報解析学)
  • 池田昭夫(京都大学大学院医学研究科・臨床神経学)
  • 加藤天美(近畿大学医学部)
  • 小国弘量(東京女子医科大学・小児科学)
  • 兼子 直(湊病院北東北てんかんセンター)
  • 亀山茂樹(国立病院機構西新潟中央病院)
  • 井上有史(静岡てんかん・神経医療センター)
  • 中里信和(東北大学大学院医学系研究科)
  • 大塚頌子(岡山大学大学院・小児神経学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
大塚頌子 H23年度末所属施設退官 兼子直  H24年度所属施設弘前大学大学院医学研究科より変更

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、厚労省の患者調査で把握されないてんかんの患者数と診療実態を調査し、我が国に必要なてんかん医療のニーズを明らかにするとともに、既存の医療資源の活用を含め、より良質のてんかん医療の供給体制の道筋を提言することにある。
研究方法
 本研究班では、我が国の患者調査で把握されるてんかん患者数が少ない原因を明らかにするため、1)地域住民及び医療施設を対象としたてんかんの患者数と診療実態の調査を行う。具体的には地域住民を対象とした有病率調査、診療報酬情報(レセプト)の解析によるてんかん診療の実態調査、地域保健から3次診療施設に至るてんかん診療の実態調査を行い、本邦のてんかん診療体制における問題点の所在を明らかにする。
 また実態調査と平行して、2)診療の質の向上のための聞き取り調査と3)地域診療と関連諸学会専門医が連携したてんかん診療ネットワークの基盤作り、関連諸学会専門医によるてんかん診療の2次及び3次アクセスポイント・リストの作成を行う。更に4)諸外国におけるてんかん診療体制の調査をふまえ、最終的に5)本邦で望まれるてんかん診療システムの提言、すなわち本邦のてんかん医療のニーズを満たすために必要な人的・物的医療資源に関する目標と、我が国の実情に即したてんかん患者ケア・アルゴリズムを提言する。
結果と考察
 本研究班では、てんかんの患者数については、健康保険組合のレセプトデータの分析で、人口1,000人あたり7.24人と推計した。また現在進行中の40才以上の住民検診に基づく調査でも、一般に人口の0.5~1.0%とされるてんかんの有病率に合致する結果が得られる可能性が高い。てんかんの有病率が高齢者で上昇する事を勘案すると、高齢者人口の急増する我が国においては、てんかん患者数100万人(人口の0.8%)という数字は妥当な推計と言える。
 一方、てんかんの地域医療体制に関しての調査では、現在一般の医師に対する行政からの情報発信が殆ど無く、またてんかんの基礎知識を体系的に学べる教育や研修も極めて不十分で、基幹医療機関の不足、および医師と関係機関相互の連携不足があることが実態として浮かび上がった。一方てんかんの診断に必要な脳波計、MRIなどの医療機器は多くの医療機関に導入されているが、これらの医療資源はてんかん診療に必ずしも有効に利用されているとは言えない。更に、我が国の地域のてんかん診療が、小児科、神経内科、脳神経外科、精神科等の複数の診療科により分担されている実態が明らかとなり、診療科の枠を超えたてんかんの地域診療連携体制を整える必要性が認識された。
 当研究班では、これまで諸外国で提案されているプライマリケアと専門診療施設(てんかんセンター)つなぐ診療モデルを参考に、わが国で現在様々な疾患を対象として整備されつつある診療報酬の基盤をもつ医療提供システムを取り入れ、日本の実情に即したてんかん診療連携モデルを提案した。また地域におけるてんかん診療のアクセスポイントを明示することを目的として、全国のてんかん診療施設(約800施設)とてんかん診療医(約1200名)の名簿を掲載したウエブサイト、てんかん診療ネットワーク(http://www.ecn-japan.com)を作成した。また、てんかんの3次診療施設の整備をはかる目的で、全国てんかんセンター協議会を設立し、現在全国で20施設が登録を行い活動が開始されている。
結論
 てんかんの診療体制は現在多くの問題を抱えており、その背景には、てんかんの診療体制の確保に関する行政の関心の不足がある。今後、医療計画の策定にてんかん診療のことを記述する等によって、てんかん診療体制の確保への関心を高めていくことが必要であり、また、てんかん患者の保健医療福祉ニーズ調査、高齢てんかん患者対策としての認知症疾患医療センターの活用、精神科専門医教育プログラムにおけるてんかん教育等が今後の課題として残された。
 てんかん医療は小児にあっては発達障害の予防と学習の改善、成人にあっては就労と生活の自立を目標とするもので、本研究によりもたらされるてんかん医療の充実は我が国にとって社会経済学的に重要な成果となる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201317043C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 わが国のてんかんの患者数について、健康保険組合のレセプトデータの分析で人口1,000人あたり7.24人と推計し、また40才以上の住民検診に基づく調査で人口の0.5~1.0%とされるてんかんの有病率に合致する結果を得た(近日中に発表予定)。てんかんの有病率が高齢者で上昇する事を勘案すると、高齢者人口の急増する我が国においては、てんかん患者数100万人(人口の0.8%)という数字は妥当な推計と言える。
臨床的観点からの成果
 日本てんかん学会員及び日本医師会会員へのアンケート調査に基づき作成した全国のてんかん診療施設(2014.2月現在約800施設)及びてんかん診療医の名簿(2014.2月現在約1200名)を、平成24年7月よりウエブサイト「てんかん診療ネットワーク」 http://www.ecn-japan.com/ において、ユーザー登録にて閲覧可能な形で掲載した。現在この名簿を基に地域ごとにてんかん診療連携ネットワークが形成され、地域におけるてんかん診療のアクセスポイントが明示されつつある。
ガイドライン等の開発
 当研究班では、これまで諸外国で提案されているプライマリケアと専門診療施設(てんかんセンター)つなぐ診療モデルを参考に、わが国で現在様々な疾患を対象として整備されつつある診療報酬の基盤をもつ医療提供システムを取り入れ、日本の実情に即したてんかん診療連携モデルを提案した。
その他行政的観点からの成果
国会答弁書で当研究班の活動につき触れられた(衆議院議員青柳陽一郎君提出「てんかんに関する総合的な支援の在り方に関する質問」に対する答弁書、第183回国会質問答弁内閣衆質一八三第六五号、平成二十五年五月七日)
その他のインパクト
メディア報道
1)てんかん 医療機関など公開へ、NHKニュース 2012年7月17日5時16分
2)てんかん医療機関一元公開 適切受診へ研究班がサイト、毎日新聞2012年7月17日19面
3)厚労省研究班がウエブサイト公開 てんかん診療機関の検索容易に、毎日新聞2012年7月26日朝刊14面
市民公開講座開催:てんかんによる自動車運転事故を防ぐにはどうすればよいのか?―我が国のてんかん医療の現状と対策―、東京、2013.11.16

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
Tanaka A, et al. Seizure. 772-775, 2013
その他論文(和文)
26件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
27件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-12-15
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317043Z