文献情報
文献番号
201317041A
報告書区分
総括
研究課題名
NIRSを用いた精神疾患の早期診断についての実用化研究
課題番号
H23-精神-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
福田 正人(国立大学法人 群馬大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
- 住吉 太幹(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター上級専門職)
- 榊原 英輔(東京大学医学部附属病院精神神経科)
- 檀 一平太(中央大学理工学部人間総合理工学科応用認知科学研究室)
- 根本 清貴(筑波大学大学院人間総合科学研究科精神病態医学)
- 石井 礼花(東京大学医学部附属病院精神神経科)
- 橋本 謙二(千葉大学社会精神保健教育研究センター精神科学)
- 鈴木 道雄(富山大学大学院医学薬学研究部神経精神医学)
- 野田 隆政(独立行政法人国立精神・神経医療センター病院第一精神診療部)
- 山下 典生(岩手医科大学医歯学総合研究所超高磁場MRI診断・病態研究部門)
- 大渓 俊幸(国立大学法人千葉大学総合安全衛生管理機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
2009年4月に精神医療分野で初めての先進医療として認められた「光トポグラフィー検査を用いたうつ症状の鑑別診断補助」(近赤外線スペクトロスコピィNIRS)について、精神疾患の早期診断に有用な検査システムを構築し、診療における補助検査として実用化することを目的とした。
研究方法
気分障害・統合失調症・発達障害を対象に、NIRS検査結果と臨床症状・薬物反応性・治療経過との関連、およびその背景をなす脳構造・脳機能をMRI・事象関連電位ERP・生体物質血中濃度により検討した。研究は、各施設で倫理委員会や臨床試験委員会の承認を得たもので、被検者からは十分な説明のうえで文書による同意を得た。
結果と考察
1) 気分障害について
①大うつ病のNIRSデータは健常者と比較して積分値(振幅)は小さいが初期変化(傾き)には差がなく、②GAFで評価した社会生活機能との正の相関を腹外側前頭前野で認めた(Kinouら Schizophr Res 2013)。③ATQ-Rで評価したpositiveな自動思考が乏しい大うつ病患者は右上側頭部の賦活が大きく左背外側前頭前野の賦活が小さかった(Kosekiら J Affect Disord 2013)。④先進医療のNIRS検査の時点でSCIDにより大うつ病と診断された症例を1.5年追跡すると、双極性障害への診断変更例ではNIRS積分値が大きく重心値が遅れており、双極性障害のデータと類似していた(Satomuraら BESETO 2013で発表)。
2) 統合失調症について
①統合失調症のNIRSデータは、健常者と比較して積分値(振幅)と初期変化(傾き)がともに小さく、②GAFで評価した社会生活機能との正の相関を前頭極周辺で認めた(Kinouら Schizophr Res 2013)。③慢性期の患者において左右側頭部で精神病未治療期間DUPとの負の相関を認めた(Chouら Prog Psychopharmacol Biol Psychiatry 2014)。④会話中の脳活動が測定可能で、左右側頭部で陰性症状と負の相関を示した(Takeiら J Psychiatr Res 2013)。⑤統合失調症の治療評価と病状予測に有用である可能性について総説した(Koikeら Front Psychiatry 2013)。
3) 発達障害について
①成人の自閉症スペクトラム障害の抑制課題におけるNIRSデータは成人ADHDより左腹外側前頭前野で小さく、81.4%で判別できた(Ishii-Takahashiら NeuroImage Clin 2013)。②小児ADHDにおいてmethylphenidate単回投与前のNIRSデータが小さく、投与後のデータが大きいほど1年後の治療効果が大きかった(Ishii-Takahashiら WFSBP2013で発表)。
4) 鑑別診断における有用性について
精神疾患673名・健常者1,007名を対象とした7施設共同研究において、先進医療の課題におけるNIRSデータを自動解析した2つのパラメータを用いることで、抑うつ状態を示す大うつ病性障害の74.6%、双極性障害・統合失調症の85.5%を正しく鑑別できた(Takizawaら NeuroImage 2014)。この成果は報道発表を行い、読売新聞(2013.9.5.)日経産業新聞(2013.6.21.)などで報道された。
5) 検査法の普及と質の保証
先行する研究班でまとめた書籍『NIRS波形の臨床判読-先進医療「うつ症状の光トポグラフィー検査」ガイドブック』によりNIRSの検査・解析・判定について標準化と均霑化の基盤を整備するとともに、国立精神・神経医療研究センター病院が開催した「光トポグラフィー講習会」「光トポグラフィー判読セミナー」「光トポグラフィー先進医療ワークショップ」で講師などを担当し、NIRS検査の普及とその質を保証するシステム構築の第一歩とした。
①大うつ病のNIRSデータは健常者と比較して積分値(振幅)は小さいが初期変化(傾き)には差がなく、②GAFで評価した社会生活機能との正の相関を腹外側前頭前野で認めた(Kinouら Schizophr Res 2013)。③ATQ-Rで評価したpositiveな自動思考が乏しい大うつ病患者は右上側頭部の賦活が大きく左背外側前頭前野の賦活が小さかった(Kosekiら J Affect Disord 2013)。④先進医療のNIRS検査の時点でSCIDにより大うつ病と診断された症例を1.5年追跡すると、双極性障害への診断変更例ではNIRS積分値が大きく重心値が遅れており、双極性障害のデータと類似していた(Satomuraら BESETO 2013で発表)。
2) 統合失調症について
①統合失調症のNIRSデータは、健常者と比較して積分値(振幅)と初期変化(傾き)がともに小さく、②GAFで評価した社会生活機能との正の相関を前頭極周辺で認めた(Kinouら Schizophr Res 2013)。③慢性期の患者において左右側頭部で精神病未治療期間DUPとの負の相関を認めた(Chouら Prog Psychopharmacol Biol Psychiatry 2014)。④会話中の脳活動が測定可能で、左右側頭部で陰性症状と負の相関を示した(Takeiら J Psychiatr Res 2013)。⑤統合失調症の治療評価と病状予測に有用である可能性について総説した(Koikeら Front Psychiatry 2013)。
3) 発達障害について
①成人の自閉症スペクトラム障害の抑制課題におけるNIRSデータは成人ADHDより左腹外側前頭前野で小さく、81.4%で判別できた(Ishii-Takahashiら NeuroImage Clin 2013)。②小児ADHDにおいてmethylphenidate単回投与前のNIRSデータが小さく、投与後のデータが大きいほど1年後の治療効果が大きかった(Ishii-Takahashiら WFSBP2013で発表)。
4) 鑑別診断における有用性について
精神疾患673名・健常者1,007名を対象とした7施設共同研究において、先進医療の課題におけるNIRSデータを自動解析した2つのパラメータを用いることで、抑うつ状態を示す大うつ病性障害の74.6%、双極性障害・統合失調症の85.5%を正しく鑑別できた(Takizawaら NeuroImage 2014)。この成果は報道発表を行い、読売新聞(2013.9.5.)日経産業新聞(2013.6.21.)などで報道された。
5) 検査法の普及と質の保証
先行する研究班でまとめた書籍『NIRS波形の臨床判読-先進医療「うつ症状の光トポグラフィー検査」ガイドブック』によりNIRSの検査・解析・判定について標準化と均霑化の基盤を整備するとともに、国立精神・神経医療研究センター病院が開催した「光トポグラフィー講習会」「光トポグラフィー判読セミナー」「光トポグラフィー先進医療ワークショップ」で講師などを担当し、NIRS検査の普及とその質を保証するシステム構築の第一歩とした。
結論
8気分障害・統合失調症・発達障害の診断、重症度・病態・薬効の評価、発症・予後・診断変更の予測に、NIRS検査が有用であることを示すことができた。こうした成果をもとに、NIRSは「D236-2 光トポグラフィー 2. 抑うつ症状の鑑別診断の補助に使用するもの」として2014年4月より保険収載され、精神疾患についての検査として初めての実用化となった。こうした実用化は、精神疾患の診療の客観性や定量性の改善に資するとともに、精神医療の可視化により当事者中心の医療を推進する手がかりとなるもので、結果として精神医療の向上と医療経済の改善をもたらすものである。
公開日・更新日
公開日
2015-05-20
更新日
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