患者由来iPS細胞を用いた加齢黄斑変性の病態解明・治療法の開発研究

文献情報

文献番号
201317037A
報告書区分
総括
研究課題名
患者由来iPS細胞を用いた加齢黄斑変性の病態解明・治療法の開発研究
課題番号
H25-感覚-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
辻川 明孝(香川大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 吉村 長久(京都大学大学院 医学研究科)
  • 平家 俊男(京都大学大学院 医学研究科)
  • 垣塚 彰(京都大学大学院 生命科学研究科)
  • 山城 健児(京都大学大学院 医学研究科)
  • 池田 華子(京都大学大学院 医学研究科)
  • 後藤 謙元(京都大学大学院 ゲノム医学センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
8,610,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本人ではARMS2遺伝子をはじめとして種々の遺伝子がドルーゼン形成を含めAMDの発症、病像に大きく関与していることを明らかになってきた。しかし、実際に患者のRPE機能・脂質代謝状態を検証する事は不可能であり、遺伝子多型がどのようにドルーゼン蓄積・AMD発症に関わっているのかなど、詳細なメカニズムは不明である。AMDは一度発症すると、視力の改善は困難なことから、発症前・ドルーゼン蓄積期の進行メカニズム解明ならびに進行抑制・治療こそが今後の課題である。
 池田らはヒトiPS細胞からRPEへの分化誘導に成功しており、AMD患者から作成したiPS細胞をRPEに分化誘導させ、機能解析や脂質代謝、遺伝子発現状態を検討することが可能となる。そこで、AMD患者iPS細胞をRPEに分化誘導させることで、患者眼の状態に近い条件での病態の検討することが可能である。そのRPE細胞の脂質代謝・機能・構造解析を行い、ARMS2をはじめとする遺伝子多型との関係をエクソームシーケンスを用い網羅的に検討することも可能である。
 垣塚らは、VCP阻害剤の開発に成功し、この阻害剤がマウスドルーゼンの消失、形成抑制効果があることを明らかにしつつある。iPS由来RPE細胞の機能と構造に与えるVCP阻害剤の作用を検討することによって、VCP阻害剤のドルーゼン抑制効果、更にはAMD予防薬としての臨床応用の可能性が広がる。
 本研究では『ドルーゼン患者および正常コントロール人からiPS細胞株樹立・遺伝子解析』、『iPS細胞からRPEへの分化誘導』『分化RPEの形態・機能・代謝評価』『VCP阻害剤によるRPE細胞賦活化剤の開発』を行い、患者iPS細胞を用いて遺伝子多型・加齢と脂質代謝の関連を検討することにより、ドルーゼン発生の病態解明、AMD発症予防新規治療法の開発を行う。
研究方法
1)ドルーゼンを持つ患者および正常人からのiPS細胞樹立
2)iPS細胞樹立患者・正常対照者の遺伝子解析
3)各患者由来iPS細胞からRPEへの分化誘導
4)iPS由来分化RPEの形態評価
5)iPS由来分化RPEの機能評価
6)iPS由来分化RPEの代謝・酸化ストレス評価
7)iPS由来分化RPEの遺伝子プロファイリング評価
8)遺伝子多型とドルーゼン形成の関連性に関するメカニズム解明
9)サルでのVCP阻害剤のドルーゼンの消失・新規形成抑制効果の検討
10)VPC阻害剤による患者iPS由来分化RPEの賦活化検討
結果と考察
癒合ドルーゼン患者及び正常人からのiPS細胞樹立に関して:ARMS2及びCFH, C3, C2, CFB, ApoE遺伝子のうち、少なくとも2つ以上がリスクホモである癒合軟性ドルーゼンを有する患者を当科外来受診患者より6名、同じく上記遺伝子のすべてがノンリスクホモである眼底正常人6名を当科外来受診患者及び白内障手術目的での入院患者より選定。京都大学医学部附属病院iPS細胞
臨床開発部の協力により、患者への説明・同意取得を実施、後日文書にて患者4名、正常眼2名の同意を取得した。これらの対象者に対し、iPS細胞臨床開発部の担当医師により皮膚組織採取、その後京都大学iPS研究所基盤技術研究部門へ依頼し、OCT3/4, SOX2, KLF4, MYCの4因子導入によりiPS細胞樹立開始、現在までに1名分のiPS細胞8ラインの譲渡を受けている。また、iPSからRPEへの分化後のRPE細胞機能評価の予備実験として、市販されているヒトRPE細胞(ARPE19)の蛍光ビーズを用いた貪食能実験や、これを小胞体ストレス惹起物質であるツニカマイシン添加、及びツニカマイシン添加+VCP阻害剤添加による貪食能変化について検討を行っている。iPSからRPEへの分化の予備実験としては、眼科所見の無いヒトiPS細胞を用いて、眼科池田を中心として開発した分化方法により、当実験室でもRPEへの効率的な分化に成功している。
結論
本研究により、直接的にはARMS2をはじめとする種々の遺伝子多型とRPEの機能障害・ドルーゼン形成・AMD発症との関係が明らかにされることにより、AMD発症ハイリスクの患者を選別することが可能となる。滲出型AMDに対しては抗VEGF療法などの治療薬が開発されているが、ドルーゼンに対する治療薬やAMDの発症予防薬はまだ存在しない。VCP阻害剤のRPEの賦活化作用が解明され、VCP阻害剤がドルーゼン治療薬、AMD発症予防薬となり得れば、多くの中途失明者を救うことができ、医療経済的にもその効果は非常に大きい。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317037Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,110,000円
(2)補助金確定額
11,110,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,399,102円
人件費・謝金 1,409,903円
旅費 136,780円
その他 3,664,215円
間接経費 2,500,000円
合計 11,110,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
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