新しい難聴遺伝子診断システムの開発および臨床応用に関する研究

文献情報

文献番号
201317036A
報告書区分
総括
研究課題名
新しい難聴遺伝子診断システムの開発および臨床応用に関する研究
課題番号
H25-感覚-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
宇佐美 真一(国立大学法人信州大学 医学部耳鼻咽喉科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 工 穣(信州大学医学部耳鼻咽喉科)
  • 熊川 孝三(虎の門病院耳鼻咽喉科)
  • 東野 哲也(宮崎大学医学部耳鼻咽喉科)
  • 佐藤 宏昭(岩手医科大学耳鼻咽喉科)
  • 長井 今日子(群馬大学医学部耳鼻咽喉科)
  • 内藤 泰(神戸市立医療センター中央市民病院)
  • 岩崎 聡(信州大学医学部人工聴覚器学講座)
  • 松永 達雄(国立病院機構東京医療センター臨床研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
8,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性難聴は新出生児1,000人に1人に認められる頻度の高い疾患である。特に高度~重度難聴の場合には音声言語コミュニケーションの大きな障害となるため、日常生活や社会生活の質(QOL)の低下を引き起こし、長期に渡って生活面に支障を来たすため、診断法・治療法の開発が期待されている重要な疾患のひとつである。
 難聴の早期発見に関しては、新生児聴覚スクリーニングの普及により、生後1週間以内に難聴が発見されるようになってきたが、多くの場合原因不明であり、予後の予測や随伴症状の予測などは困難であった。研究代表者は従来より先天性難聴の遺伝子解析に精力的取り組んでおり、研究成果を2008年には先進医療「先天性難聴の遺伝子診断」として、2012年からは保険診療「遺伝学的検査(先天性難聴)」として臨床の診断に還元してきた。現在、保険診療で行われている遺伝子診断の診断率は30~40%程度であるため、今後の診断率の向上のためには新規変異の追加が必要不可欠である。しかし、難聴の原因としては、おおよそ100種類ぐらいの遺伝子が関与する遺伝的異質性の高い疾患であることが報告されており、従来は効率的に解析する事が困難であった。近年、次世代シークエンサー(超並列シークエンサー)が実用化され、多数の原因遺伝子を網羅的に解析することが可能となってきた。
本研究では、3年間の研究期間を通じて、1)次世代シークエンサーを用いた難聴の遺伝子診断システムを開発する、2)難聴の程度や難聴の進行、随伴症状などの臨床情報をデータベース化することにより、難聴のサブタイプ分類を行い、科学的根拠に基づいたオーダーメイド医療を実現する基盤を整備する、ことの2つを目的とした研究を行い、最終的には新しい難聴遺伝子診断システムの臨床応用を目的としている。
研究方法
平成25年度は、次世代シークエンサーを用いた新しい遺伝子診断システムが、実際の臨床診断に利用可能なレベルの正確性を有しているかを明らかにする事を目的に、難聴患者300名を対象に十分な説明の上、書面で同意を取得し、平成24年度保険点数改定により保険収載された「遺伝学的検査(先天性難聴)」で用いられている「インベーダー法」と同等の手法で遺伝子解析を行った結果と「次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析法」の結果との比較を行った。次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析としては、既知の難聴原因遺伝子63遺伝子を網羅するIon AmpliSeq customキット(Applied Biosystmes)を用いて、難聴患者の既知難聴原因遺伝子の全エクソン領域をマルチプレックスPCR法により増幅しIonTorrent PGMシステムを用いて次世代シークエンス解析を行った。また、インベーダー法により原因が特定されなかった症例に対しては新規遺伝子変異の探索を行った。
結果と考察
平成25年度は難聴患者300名を対象に「インベーダー法」で遺伝子解析を行った結果と「次世代シークエンサーを用いた遺伝子解析法」の結果との比較を行った。その結果、検査の実施可能な割合に関しては381回の試行中14例において解析の基準を下回った。14例に関しては再検査を実施した所、全例で基準を上回るデータが得られており、検査不能例は1例も無いことが明らかとなった。また、インベーダー法の結果と次世代シークエンス法の結果を比較したところ、次世代シークエンサーを用いた検査では、インベーダー法に含まれる遺伝子変異に関して、Ion AmpliSeqのプライマーの設計できた領域に関しては変異の見逃しは1例も認め無かった。またインベーダーに含まれる変異部位に関して、偽陽性となるケースは1例も認めなかった。さらに、新規遺伝子変異に関しては人工内耳装用患者より非常に稀なACTG1、TMPRSS3、MYO15A、TECTA遺伝子変異を見出す事ができた。今後更に症例数を増やし、偽陽性、偽陰性に関する情報を蓄積することで、臨床応用のための基盤を整えることが可能である。
結論
本年度の研究により、保険診療でも用いられている「インベーダー法」の結果と「次世代シークエンサー法」の結果を比較した結果、非常に高い一致率を有しており、次世代シークエンス法が正確性に関して非常に優れた検査手法であることが確認された。また、新規遺伝子変異の探索に関しては、稀な原因遺伝子変異であるACTG1、TMPRSS3、MYO15A、TECTA遺伝子変異を見出す事ができた。今後の研究の継続によりさらなる成果が期待できる状況である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201317036Z