日本人常染色体劣性網膜色素変性症の遺伝子診断法に関する研究

文献情報

文献番号
201317032A
報告書区分
総括
研究課題名
日本人常染色体劣性網膜色素変性症の遺伝子診断法に関する研究
課題番号
H24-感覚-一般-004
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 誠志(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 岩波 将輝(国立障害者リハビリテーションセンター 病院 )
  • 世古 裕子(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
11,192,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国立障害者リハビリテーションセンターを訪れる視覚障害者の約1/3が網膜色素変性症(RP)に罹患している。日本全国では約3~4万人のRP患者がいると推定されている。RPは、夜盲に始まり、徐々に視野狭窄、視力低下が起こる進行性の遺伝子疾患であり、現在有効な治療法はない。中途失明により就労が困難となるケースが多く、RP患者の社会生活を支援するためにも、予後の予測法や抜本的治療法が望まれている。本研究の目的は、我々が最近明らかにした日本人の常染色体劣性網膜色素変性症(arRP)の主要原因遺伝子であるEYSについて、遺伝子診断法を確立し、予後予測や治療法の手がかりを得ることである。
研究方法
(1)当センター病院眼科を受診したRP患者230名並びに京都大学病院眼科を受診したarRP患者210名、合計440名のゲノムDNAを用いて、サンガー法による全エクソンの塩基配列解析、並びにMLPA(Multiplex Ligation-dependent Probe Amplification)法によるコピー数変異解析を行った。(2)EGF様ドメイン内に存在するミスセンス変異p.G843Eの病原性解析を行った。(3)直接リプログラミング法により、ヒト皮膚繊維芽細胞を視細胞様細胞に分化誘導し、RT-PCRによる視細胞特異的遺伝子の発現解析、網羅的遺伝子発現解析、光応答性の検討を行った。
結果と考察
(1)我々が以前EYS遺伝子に見いだした日本人特有の3種の創始者変異p.S1653Kfs*2(EYS-JM1)、p.Y2935*(EYS-JM2)、p.G843E (EYS-JM3)を用いる一次スクリーニングを行った結果、約30%の陽性患者を同定できることが示された。これら陽性患者において、全43エクソンの解析を行った結果、両側アレルに変異が認められるのは、その中の約60%であった。残り40%の患者について、コピー数変異解析を行ったところ、約10%についてエクソンの欠失や重複が同定された。(2)EGF様ドメイン内に存在するミスセンス変異p.G843E (EYS-JM3)は、ドメイン間の保存性、生物種間の保存性、各種ツールによる病原性解析、患者家系の分離解析等から、病原性変異であることが強く示唆された。この変異は健常者にも見られ、保因者率は約4%と推定された。(3)ヒト皮膚繊維芽細胞を用いて、直接リプログラミングによる網膜細胞への分化誘導法を検討した結果、4種の転写因子を導入することによって視細胞特異的な光トランスダクション関連遺伝子並びにEYS遺伝子を発現する視細胞様細胞に分化誘導できることが示された。また、作製した誘導視細胞様細胞に、光応答(過分極反応)が見られたことから、発現した遺伝子が光トランスダクションの機能を果たしていることが示された。arRP患者由来の誘導視細胞様細胞からは、変異を有するEYS遺伝子の発現産物が同定できた。
結論
arRPの遺伝子診断において、日本人特有の3種のEYS創始者変異を調べる一次スクリーニング法の有効性が再確認された。両側アレルにEYS遺伝子の変異が認められてarRPと診断出来たのは、全体の約20%であった。片側アレルにのみ変異を有する患者については、対になる変異の探索を続ける必要がある。健常者にも4%の保有者率で検出されるミスセンス変異p.G843E (EYS-JM3)は、病原性変異であることが強く示唆された。arRP患者のヒト皮膚繊維芽細胞から直接リプログラミングを用いて分化誘導した視細胞様細胞は、変異を有するEYS遺伝子を発現していることから、この手法が新しい遺伝子診断法や治療法の開発につながることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-05-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201317032Z