脊髄損傷の個別診断による歩行訓練法選択の最適化に関する研究

文献情報

文献番号
201317009A
報告書区分
総括
研究課題名
脊髄損傷の個別診断による歩行訓練法選択の最適化に関する研究
課題番号
H24-身体-知的-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
緒方 徹(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 赤居 正美(国立障害者リハビリテーションセンター 病院)
  • 河島 則天(国立障害者リハビリテーションセンター 研究所)
  • 中澤 公孝(東京大学大学院総合文化研究科)
  • 筑田 博隆(東京大学医学部附属病院)
  • 住谷 昌彦(東京大学医学部附属病院)
  • 金子慎二郎(村山医療センター)
  • 山内 淳司(成育医療研究センター 研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
10,179,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脊髄損傷者に対するリハビリ分野では、残存する神経回路の再学習を通じて麻痺部位の機能回復を誘導するニューロリハビリが注目され、中でも歩行神経回路を活性化する部分免荷式歩行訓練は海外で臨床試験が行われるなど、臨床への導入が進んでいる。しかし、この訓練の対象となる亜急性期の不全脊髄損傷者の病態は個人差が非常に大きく、訓練の適応基準については世界的に見ても定まっていない。本研究は、下肢筋トーヌス(緊張度)や痙縮といった生理学的アプローチと血液バイオマーカーのアプローチを組み合わせ、下肢の動きが残存するが実用歩行困難な不全脊髄損傷者を対象に、歩行再獲得をめざしたニューロリハビリへの適応判定と訓練プロトコール選別、さらに訓練効果判定の評価システムを構築することを目的としたものである。
研究方法
1)バイオマーカー臨床データベースの構築:本研究では近年あらたにバイオマーカーとしての有用性が報告されている神経軸索損傷マーカーのpNF-H(リン酸化ニューロフィラメント)について検討する。
2)筋トーヌス・痙縮の客観的評価とそれに応じた訓練方法の作成: 神経回路の機能評価の中で痙縮の存在は、歩行パターン形成に対する阻害因子として本研究において特に重視している項目である。本研究では痙縮の評価方法についての検討を行い、同時に痙縮やその他の阻害因子に介入を行った際の歩行の変化について検討を進める。
3)固有脊髄経路の残存評価: 歩行訓練が想定される脊髄損傷者の多くは下位頸髄から胸髄レベルでの脊髄障害を有している。損傷脊髄が機能回復を果たすためには脊髄内の神経回路同士をつなぐ「固有脊髄経路」の再構築が重要であることが示唆されている。平成25年度は神経回路の評価として固有脊髄経路の機能評価の手法を試みる。
結果と考察
・不全脊髄損傷におけるpNF-H値と予後予測: これまで慢性期に至るまで完全麻痺が続く症例は不全麻痺の症例よりも受傷早期のpNF-Hが高値である知見を得ていた。平成25年度までにさらに脊髄損傷症例のデータが蓄積され、不全麻痺(AIS CまたはDの症例)19例の臨床データと血液データを得ることができた。その結果、受傷後3日目の血中pNF-H値によって将来的なAIS Cの症例とAIS Dの症例の識別が受傷後早期にある程度可能になることを示した。
・筋トーヌス・痙縮の評価: 簡便で定量性のある痙縮評価の機器・分析方法についての検討がなされた。初年度実施した足関節に他動的角度変化を加え、それによって生じる底屈力を測定する方法に加え、25年度は足関節に加える角度変化の速度を段階的に変化させ、それに応答する下肢筋活動を筋電図によって評価する手法を組み合わせた。
こうした客観的計測法による麻痺下肢の筋特性評価と現在臨床現場で用いられている徒手的評価法であるModified Ashworth Scoreを比較することで、より質的な診断を試みている。
・固有脊髄経路の評価: 固有脊髄路の検討は健常者を用いたデータを得た。下肢の動きをロコマットによって一定に保ちながらそれに合わせて意識的に随意指令を送る条件と、完全に受動的に下肢を動かされる条件とを設定した。その結果、下肢に対して随意指令を送った時のみ、上肢の神経活動に歩行周期と連動した変化が現れた。
結論
 研究二年目を総括すると、不全脊髄損傷者に対する血液バイオマーカーの知見が広がると同時に、pNF-H という比較的新しい神経損傷バイオマーカーに関し、世界的にも先駆的なデータが蓄積されている点が特記すべき点である。今後、脊髄損傷にとどまらず様々な分野への応用が期待される。
一方、脊髄損傷の神経回路特性の評価については痙縮の評価法と固有脊髄路の評価法の検討がなされた。一部はまだ健常者での検討にとどまっているが、研究最終年度には脊髄損傷者におけるデータ収集が実施されることが期待される。バイオマーカーpNF-Hに関する治験の収集が進んだと同時に、各種の不全脊髄損傷評価法が開発された。今後、そうした技術が実際の不全脊髄損傷者に対する訓練に利用可能となることが最終年度へ向けての目標である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201317009Z