文献情報
文献番号
201316001A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病性腎症ならびに腎硬化症の診療水準向上と重症化防止にむけた調査・研究
課題番号
H24-難治等(腎)-一般-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
和田 隆志(金沢大学 医薬保健研究域医学系)
研究分担者(所属機関)
- 槇野 博史(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科学 )
- 松尾 清一(名古屋大学大学院医学系研究科 病態内科学講座 腎臓内科学)
- 羽田 勝計(旭川医科大学内科学講座病態代謝内科学分野)
- 湯澤 由紀夫(藤田保健衛生大学医学部腎内科学)
- 佐藤 博(東北大学大学院薬学研究科臨床薬学分野)
- 鈴木 芳樹(新潟大学保健管理センター)
- 北村 博司(国立病院機構千葉東病院臨床研究センター腎病理研究部)
- 木村 健二郎(聖マリアンナ医科大学 腎臓・高血圧内科)
- 丸山 彰一(名古屋大学大学院医学系研究科 病態内科学講座 腎臓内科学)
- 安部 秀斉(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部病態情報医学講座腎臓内科学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患等克服研究(腎疾患対策研究経費)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
18,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本邦では2012年の新規透析導入患者の原疾患のうち、糖尿病性腎症が44.1%、高血圧、高齢化を背景とした腎硬化症が12.3%を占めている。したがって、両疾患の克服は国民の強い願いであり、これら疾患の予後改善が求められている。本研究では、糖尿病性腎症ならびに腎硬化症の予後改善にむけて、1)糖尿病性腎症レジストリーの拡充と解析、2)糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症の重症度を反映する病理診断指針の作成、3)バイオマーカーの臨床研究、基盤研究の推進を行い、診療水準向上、重症化予防を行う。
研究方法
本研究は全体研究ならびに分科会から構成される。全体研究として、糖尿病性腎症例のレジストリーを構築し、糖尿病性腎症の臨床・研究の基盤を整備する。本レジストリーは、腎症前期から顕性腎症にいたる幅広い病期の糖尿病性腎症例を対象とし、尿検体の収集ならびに腎生検例が含まれることを特色としている。分科会として、糖尿病性腎症、腎硬化症の重症度を反映する病理診断指針を目指して検討を行う。本研究では、主要評価項目(プライマリーエンドポイント)は、糖尿病性腎症および高血圧性腎硬化症の腎予後に関する臨床病理学的因子の特定とし、副次的評価項目(セカンダリーエンドポイント)は、糖尿病性腎症および腎硬化症の心血管イベント,生命予後に関する臨床病理学的因子の特定とした。さらに、糖尿病性腎症の診断・予後を反映するバイオマーカーの開発にむけた基盤研究、倫理面での配慮を行ったうえで既知のバイオマーカーおよびその最適な組み合わせを臨床研究にて評価する。
結果と考察
全体研究として、尿検体収集を伴った糖尿病性腎症レジストリーの拡充を進めた。これは日本腎臓学会が推進している腎臓病総合レジストリーシステムと密接に連携している。平成25年12月末現在、17施設から575例が登録された。また、尿検体収集例は321例であった。さらに241例の経時データが登録された。1年後ならびに2年後の時点では、観察開始時と比較して、腎機能や尿アルブミン(尿蛋白)には変化を認めなかった。イベント発生数は、透析導入が12例、心血管疾患発症が9例、死亡が0例であった。今後も臨床データならびに尿検体の集積を継続し、本邦の糖尿病性腎症の病態解析、予後評価を行う。
さらに、平成24年度に決定した病理評価項目を用いて、糖尿病性腎症230例、高血圧性腎硬化症177例の病理評価を行っている。その結果、両疾患の臨床に関与する病理学的評価項目が確認された。各々の重症度を反映する病理診断指針の作成を進めている。今後、より多くの病理標本での検討結果を用いて、組織の評価とその重症度にはたす意義を検討する。さらに、臨床情報と合わせて、最終的に腎予後と相関し、重症度を反映する病理評価項目を検討する予定である。この際、それぞれの評価項目に代表的な画像を付け評価しやすいように工夫することにしている。これにより、病理診断の標準化にむけて、アトラスとしての機能ももたせることが可能となると考えられる。
バイオマーカー開発では、体外診断薬として保険適用されている尿中L-FABP、アルブミンおよびNAGを用いて、臨床的な有用性を検証する臨床研究が進行中である(尿検体数621)。さらに、糖尿病性腎症の評価のためのバイオマーカー開発の基盤研究も行った。尿メタボローム解析(名古屋大学)、尿エクソゾーム解析(徳島大学)が進行している。前者では、すでに糖尿病性腎症を鑑別する19の血清代謝物を同定した。後者では、podocyte lossよりも早期に検出可能な腎機能低下予測マーカーを探索している。
上記の成果は日本腎臓学会公開セッション、市民公開講座などにて情報の発信を積極的に行った。
さらに、平成24年度に決定した病理評価項目を用いて、糖尿病性腎症230例、高血圧性腎硬化症177例の病理評価を行っている。その結果、両疾患の臨床に関与する病理学的評価項目が確認された。各々の重症度を反映する病理診断指針の作成を進めている。今後、より多くの病理標本での検討結果を用いて、組織の評価とその重症度にはたす意義を検討する。さらに、臨床情報と合わせて、最終的に腎予後と相関し、重症度を反映する病理評価項目を検討する予定である。この際、それぞれの評価項目に代表的な画像を付け評価しやすいように工夫することにしている。これにより、病理診断の標準化にむけて、アトラスとしての機能ももたせることが可能となると考えられる。
バイオマーカー開発では、体外診断薬として保険適用されている尿中L-FABP、アルブミンおよびNAGを用いて、臨床的な有用性を検証する臨床研究が進行中である(尿検体数621)。さらに、糖尿病性腎症の評価のためのバイオマーカー開発の基盤研究も行った。尿メタボローム解析(名古屋大学)、尿エクソゾーム解析(徳島大学)が進行している。前者では、すでに糖尿病性腎症を鑑別する19の血清代謝物を同定した。後者では、podocyte lossよりも早期に検出可能な腎機能低下予測マーカーを探索している。
上記の成果は日本腎臓学会公開セッション、市民公開講座などにて情報の発信を積極的に行った。
結論
本研究において、糖尿病性腎症の腎症前期から顕性腎症にいたる幅広い病期例を対象とし、尿検体の収集を伴う、長期経過観察可能なレジストリーシステムを構築した。これを拡充し経年的にデータ蓄積が行われている。さらに、病理組織標本を用いた糖尿病性腎症、高血圧性腎硬化症の重症度を反映し、診断ならびに診療の水準向上に寄与する病理診断指針の作成が進んでいる。また、バイオマーカー開発においては基盤研究、臨床試験が進行した。今後、これらの成果を通じて、本邦における糖尿病性腎症ならびに腎硬化症の病態解明、予後改善、有効な治療法開発に向けた総合的なシステム構築につながることが期待され、独創性、公共性の高い研究を展開しえた。
公開日・更新日
公開日
2014-08-08
更新日
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