慢性炎症を基盤とする心血管病態モニタリングマーカーの開発と臨床導入の実現-慢性炎症の制御に着目した創薬のための新たなバイオマーカー開発-

文献情報

文献番号
201315068A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性炎症を基盤とする心血管病態モニタリングマーカーの開発と臨床導入の実現-慢性炎症の制御に着目した創薬のための新たなバイオマーカー開発-
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-025
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 亨(東京大学大学院医学系研究科 ユビキタス予防医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 相澤 健一(東京大学医学部附属病院 循環器内科)
  • 石田 純一(東京大学医学部附属病院 循環器内科)
  • 澤城 大悟(東京大学大学院医学系研究科 ユビキタス予防医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成29(2017)年度
研究費
40,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性炎症を病態基礎とする臓器リモデリングであり、早期介入・治療効果が期待される疾患としては、①動脈硬化性冠動脈疾患、②心筋線維化を元にした心不全、③瘤や解離等の大動脈疾患がある。
これら疾患の急性診断バイオマーカーの開発は申請者らも主導してきたが、慢性炎症による疾病発症以前の経時的な変化(組織リモデリング)の検討は、長期間にわたる臨床経過(イベント等)の追跡研究が難しく、関連解析が不十分であった。慢性バイオマーカーの開発では、比較対象となる臨床情報の集積・管理と解析を可能にする基盤整備が不可欠である。本研究では、申請者らが開発してきた東大病院の臨床データベースを軸に、経時的にバイオマーカーと生体指標・臨床経過(非侵襲的な画像診断と臨床イベントの発生)を検討し、慢性的な組織リモデリングとバイオマーカーの関係を明らかにする。同時に、同マーカーを指標に、新しい病態機序を明らかにし、治療開発・創薬への糸口とする。
研究方法
①冠動脈疾患・動脈硬化
最近、生理活性物質(心臓利尿ペプチドBNP)のプロセシングを指標とする新しい手法による冠動脈疾患バイオマーカーを開発した。診断的有用性 (Clin Chem in press)の他、プロセシングの病態に新規酵素が関わることも明らかにし、今後、新しい治療戦略につながる期待もある。今回、東大病院循環器内科にて年間1800例を越える入院者数を対象にバイオマーカーの有用性検討を進める。既存炎症マーカー(酸化LDL、ミエロペロキシダーゼMPO、IL6/PTX3/CRP等)また開発を進めている新規酸化ストレスマーカーについて病勢と画像診断所見(心臓カテーテル、冠動脈CT)を比較検討する。健常者として東大病院心血管ドック症例(年間500例)との比較検討を通して、慢性炎症性動脈硬化疾患の進行との経時的関連の検討も行う。
②心臓線維化・心不全
海外で最近インターロイキン33の関連物質であるST2と心臓線維化・リモデリングとの関連が注目されており(昨年FDA認可取得)本研究にて本邦へはじめて導入し、検討を行う。東京大学医学部附属病院は心臓移植認定施設であり、種々の心不全症例が非常に多い。また以前より臨床検体の蓄積が非常に豊富であり、正常例から移植例までスペクトラムの広い経時的検討が可能である。この特徴を生かし、リモデリングマーカーの心不全症例を対象に、期間内に心不全発症や経過・予後に関する成果の確認が可能と考えられる。
③大動脈瘤・解離
発症機転での免疫細胞浸潤(樹状細胞・マクロファージ)の重要性を指摘しており、活性化サイトカイン(GM-CSF、インターロイキン6)を世界に先駆け検討する。日本国内最多の大動脈手術例を有する川崎幸病院大動脈センターにて、予後や画像診断との経時的比較も含め検討する。さらに、申請者が主要構成メンバーを務める大動脈疾患の国内及び国際レジストリーでの導入を行い、予定研究期間内に効率的に検証を行う。
結果と考察
①冠動脈疾患・動脈硬化
酸化ストレスマーカー(酸化LDL、MDA-LDL)による病勢・画像診断所見(心臓カテーテル)の比較検討を進めている。
②心臓線維化・心不全
インターロイキン33の関連物質ST2と心臓線維化・リモデリングとの関連解析の今年度の当初計画は上述の通り、測定環境整備及び初期評価(50例)である。既に測定キット・ロボットによる測定自動プログラムの検証を終了しており測定機器準備はほぼ完了している。現在、臨床検体での測定・既存マーカーとの比較を目的とした予備検討を開始している。
③大動脈瘤・解離
 今年度の当初計画である病態動物での基礎的研究については、既に発症機転での免疫細胞浸潤(樹状細胞・マクロファージ)の重要性を実証・確認(論文投稿中)している。活性化サイトカイン(GM-CSF、インターロイキン6)を標的とした治療法開発に至る知見を得ている。
結論
①学術的・国際的意義
 本研究により、臨床における心血管系疾患の病態モニタリングの実現、さらに新しい治療戦略の開発が可能になることが期待される。
②社会的意義
日本では、循環器系医療費は年間5兆2980億円(全医療費の20.4%)であり、近年増加の一途である(平成20年度国民医療費の概況)。初期診断がバイオマーカーでモニタリング可能となれば17.2億円の医療費抑制につながると試算される。このように、本研究で開発するバイオマーカーは、費用対効果の観点からも大きな成果が期待できる。
③今後の課題
 今後、手術例摘出大動脈や血液サンプル等バイオリソースからの遺伝子、蛋白、組織等の取扱いについてはNIH主導のGenTAC研究と同様に行いつつ、新規の原因可能性遺伝子を含めた解析・資源整備を行う必要がある。

公開日・更新日

公開日
2015-09-07
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201315068Z