文献情報
文献番号
201315049A
報告書区分
総括
研究課題名
たばこ規制枠組み条約を踏まえたたばこ対策に係る総合的研究
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-010
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(大阪がん循環器病予防センター 予防推進部)
研究分担者(所属機関)
- 長谷川 浩二(国立病院機構京都医療センター)
- 大和 浩(産業医科大学産業生態科学研究所)
- 森 淳一郎(信州大学医学部)
- 欅田 尚樹(国立保健医療科学院)
- 曽根 智史(国立保健医療科学院)
- 田中 謙(関西大学法学部)
- 岡本 光樹(岡本総合法律事務所)
- 片山 律(萱場健一郎法律事務所)
- 谷 直樹(谷直樹法律事務所)
- 後藤 励(京都大学白眉センター)
- 五十嵐 中(東京大学大学院)
- 田淵 貴大(大阪府立成人病センターがん予防情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、国民の健康を守る観点からわが国が批准しているWHOのたばこ規制枠組条約(FCTC)の履行状況の検証、喫煙の健康被害の法的・倫理的側面からの検討、たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価、健康格差是正の観点からのたばこ規制の効果の実証的検証を行い、今後のたばこ規制を行う上での政策課題と対策を総合的に検討し、政策提言を行うことにある。
研究方法
履行状況の検証については、締約国会議において議定書や指針が採択された第5.3条、第6条、第8~11条、第13~14条について、1)FCTCで求められる内容、2)わが国の現状と課題、3)関連する国内法規とたばこ規制推進にあたっての法的課題、4)今後の対策にむけた課題について検討を開始した。喫煙の健康被害の法的・倫理的側面からの検討については、わが国での受動喫煙に関する訴訟・判例等の検討を行うとともに、たばこ規制をめぐる法システムの問題点に関する検討を行った。たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価に関する研究として、たばこ税収と喫煙率に対する選好のコンジョイント分析による理想的なたばこ価格の推計、ならびに受動喫煙防止対策が飲食店への売り上げや雇用に与える影響の評価方法について文献的検討を行った。健康格差是正の観点からみたたばこ規制の効果の実証的検証として、2010年10月のたばこ値上げが禁煙の実行に与えた影響を年齢や社会階層別に分析を開始した。
結果と考察
FCTC第5.3条(公衆衛生政策)についてはたばこ産業によるCSR(企業の社会的責任)に対して地方自治体や寄附を受けている団体が許容的である可能性があり、たばこ産業の行動の可視化を検討することが必要であると考えられた。第6条(たばこ税・価格の引き上げ)については2010年のたばこ値上げ時に価格が据え置かれた旧3級品(低課税たばこ)の消費が増加していることから優遇措置を段階的に廃止すること、第8条(受動喫煙防止)についてはすでに43か国ですべての屋内施設が全面禁煙化されている状況を鑑み、わが国においてもサービス産業を含む屋内施設を全面禁煙とする法規制が必要であること、第9,10条(たばこ成分の規制と情報開示)に基づきたばこ製品の有害化学物質の規制・含有量を含めた情報開示が必要であること、第11条(たばこの警告表示)についてはプレーンパッケージや警告画像の導入を含め諸外国の状況を踏まえた警告表示の強化が必要であること、第13条(たばこの広告と宣伝の禁止)については未成年者の喫煙防止の観点からの規制強化の検討を具体的に進めていくこと、第14条(禁煙支援・治療)については喫煙患者への医師の説明責任の観点から、各学会の治療指針ガイドラインの記述を欧米並みに充実させることが必要であることが明らかになった。
喫煙の健康被害の法的・倫理的評価として、わが国での受動喫煙に関する訴訟・判例等の検討を行った。その結果、近時の判決にみられる大きな変化として①受動喫煙による慢性疾患への影響を明確に肯定する認定がなされている、②急性影響の損害賠償を肯定している、③職場の使用者が受動喫煙に関する安全配慮義務を負っていることが実務上定着している、④受動喫煙が不法行為を構成することも認められつつある、と考えられた。次に、たばこ規制をめぐる法システムの問題点に関する検討として、未成年者喫煙禁止法、たばこ事業法、たばこ税法、労働安全衛生法、健康増進法のほか、路上喫煙禁止条例、受動喫煙防止条例について、たばこ規制の推進にあたっての法システムにおける問題点を明らかにし、わが国においてはたばこに対する「行政的規制」の強化が必要不可欠であると考えられた。
たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価に関する研究として、喫煙者・非喫煙者双方にとって理想的となるたばこ価格を推計した結果、たばこの価格弾力性-0.5の場合で700円程度、-0.3の場合で1,050円程度となった。また、受動喫煙防止対策が飲食店への売り上げや雇用に与える影響の評価方法についての文献的検討を行い、時系列計量分析に基づいた十分長い期間での分析の必要性など、研究方法上の留意点を確認した。
健康格差是正の観点からみたたばこ規制の効果の実証的検証として、2010年10月のたばこ値上げが禁煙の実行に与えた影響を年齢や社会階層別に分析を開始した。これまでの解析では、値上げによる社会階層間の喫煙格差が減少する状況は認められず、さらなるたばこ税・価格の引き上げの必要性が示唆された。
喫煙の健康被害の法的・倫理的評価として、わが国での受動喫煙に関する訴訟・判例等の検討を行った。その結果、近時の判決にみられる大きな変化として①受動喫煙による慢性疾患への影響を明確に肯定する認定がなされている、②急性影響の損害賠償を肯定している、③職場の使用者が受動喫煙に関する安全配慮義務を負っていることが実務上定着している、④受動喫煙が不法行為を構成することも認められつつある、と考えられた。次に、たばこ規制をめぐる法システムの問題点に関する検討として、未成年者喫煙禁止法、たばこ事業法、たばこ税法、労働安全衛生法、健康増進法のほか、路上喫煙禁止条例、受動喫煙防止条例について、たばこ規制の推進にあたっての法システムにおける問題点を明らかにし、わが国においてはたばこに対する「行政的規制」の強化が必要不可欠であると考えられた。
たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価に関する研究として、喫煙者・非喫煙者双方にとって理想的となるたばこ価格を推計した結果、たばこの価格弾力性-0.5の場合で700円程度、-0.3の場合で1,050円程度となった。また、受動喫煙防止対策が飲食店への売り上げや雇用に与える影響の評価方法についての文献的検討を行い、時系列計量分析に基づいた十分長い期間での分析の必要性など、研究方法上の留意点を確認した。
健康格差是正の観点からみたたばこ規制の効果の実証的検証として、2010年10月のたばこ値上げが禁煙の実行に与えた影響を年齢や社会階層別に分析を開始した。これまでの解析では、値上げによる社会階層間の喫煙格差が減少する状況は認められず、さらなるたばこ税・価格の引き上げの必要性が示唆された。
結論
わが国は、2005年2月発効したWHOのFCTCの締約国の一員として、たばこ規制を早急に推進することが国際的に約束した責務となっている。今後、FCTCに基づいて国民の健康を守る観点からたばこ規制・対策が総合的に推進されるよう研究を進める。
公開日・更新日
公開日
2015-09-07
更新日
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