高齢者の自律神経機能

文献情報

文献番号
199800225A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の自律神経機能
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
古池 保雄(名古屋大学)
研究分担者(所属機関)
  • 間野忠明(名古屋大学)
  • 服部孝道(千葉大学)
  • 塩澤全司(山梨医大)
  • 葛原茂樹(三重大学)
  • 平山正昭(名古屋大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班は生命予後に関わる自律神経障害を高齢者および自律神経機能不全症を含め多面的に検討した。第1に起立性低血圧についての研究、第2に皮膚交感神経活動についての研究を実施した。
研究方法
【1】起立性低血圧
1)近赤外線分光法により脳血流自動調節能についての検討(服部) 健常高齢者43名に対しHead-up tilt試験時に近赤外線分光法(NIRS)を用いて、前額部での酸素化Hb、脱酸素化Hbの測定を行い、起立時の脳循環の変化を検討した。2)後期老年者のTilt試験の検討(葛原) 住民検診に参加した75歳以上の後期老年者44例を対象とた。HUTでは、電動式 tilting tableを使用し、心拍変動はスペクトル分析を行った。3)起立試験の基礎的研究(平山) 健康高齢者65名(男性20名、女性45名、平均年齢70±6歳)に対し、15分間の安静臥位の後、能動的起立による起立試験を15分間行い、さらに他動的多段階起立負荷を行ない比較検討した。
【2】皮膚交感神経活動
1)皮膚交感神経の基礎活動と反応性の加齢変化(間野) 20歳代の健康被験者20名を若年者群、60~70歳代の健康老年者20名を高齢者群を対象として、手掌支配の皮膚交感神経活動を導出、記録した。2)皮膚交感神経活動反射潜時の研究(塩澤) 対象は、健常者又は非神経疾患患者13人に対し、腓骨神経のSSNA、右足SSR、第4足趾のSFRの記録を行い、電気刺激からSSNA、SSR、SFRの反応開始点までの潜時を反射潜時として計測した。それぞれの平均反射潜時とSSRの振幅、SFRの血流低下度と年齢、下肢長との相関について検討した。
【3】特異な低血圧徐脈発作の病態解析
特異な低血圧徐脈発作を頻発した男性につき、筋交感神経活動記録による病態解析を行った。
結果と考察
【1】起立性低血圧
1)健常高齢者の84%で酸素化Hbの起立時の低下が認められず、起立時脳循環は保たれているものと思われた。2)後期老年者のTilt試験の検討では、自覚的な「立ちくらみ」の既往とHUT時の血圧変動の程度や、安静時およびHUT時の心拍変動のHF、LF、LF/HF比との間に統計学的に有意な関係は認められなかった。HUTでのOHの有無から44例の全対象者を検討したところ、有症候性OHを9例に、全く訴えのない無症候性OH例が6例に認めた。有症候性OH、無症候性OH、OHを生じなかった正常群の3群では、安静時血圧、安静時LF/HF比、安静時とHUT時のLF、HFに差はなかった。しかし、有症候性OH群のHUT時のLF/HF比は、無症候性OHや正常群に比して有意に高値を示した。3)能動的起立後の収縮期圧の変化:15分間に能動的起立後の収縮期圧が20 mmHg 以上の低下を示した例は65例中6例あった。うち2例は持続的低下を示した(持続的低下型)。うち3例は起立負荷直後に一過性の低下を示したが、2分以内に回復した(一過性低下型)。(考察)1)健常である限りは加齢により起立時脳循環が障害されることはなかった。 2)有症候性OH群のHUT時のLF/HF比は、無症候性OHや正常群に比して有意に高値を示し、自律神経機能のアンバランスを呈していることが示唆された。3)能動的起立のほうが心血管系の反応を見るためには鋭敏であることが示唆された。
【2】皮膚交感神経活動
1)皮膚交感神経の基礎活動と反応性の加齢変化 皮膚交感神経の基礎活動は、加齢に伴い増加した。 交感神経刺激に対する発汗反応の老若差:個人間の標準化のため、各種刺激に対する最大皮膚交感神経活動反応におけるバースト積分値の高さを100として、汗腺に対する交感神経活動の効果器反応を検討したところ、高齢者では若年者の1/10程度に低下していた。 交感神経刺激に対する皮膚血管収縮反応の老若差:個人間の標準化のため、各種刺激に対する最大皮膚交感神経活動反応におけるバースト積分値の高さを100として、皮膚血管収縮に対する交感神経活動の効果器反応を検討したところ、高齢者では若年者の1/2程度に低下していた。2)皮膚交感神経活動反射潜時の研究 結果は、SSNA、SSR、SFRの反射潜時及び振幅については年齢との間に有意な相関関係はみられず、下肢長ではSSNAとSSRに対しては潜時及び振幅ともに有意な関連性がみられず、SFRの反射潜時との間には有意な正の相関関係が認められた。(考察) 高齢者では同じ強さの皮膚交感神経活動バーストに対する効果器の反応性、すなわち汗拍出加速度の低下と皮膚血流量低下率の減弱が認められた。これは、加齢に伴って出現する発汗の低下と血管収縮能の減弱が、①皮膚交感神経活動の反応性の低下のみならず、②効果器である汗腺と血管平滑筋の機能低下によっても生じていることを示すものと考えられる。 皮膚血流と発汗の調節に関与する交感神経及びその効果器の反射性活動は、高齢者であっても保たれる傾向があるものと思われた。 以上の2つの報告には一致しない点が認められ、今後の検討課題であることが明らかになった。
【3】特異な低血圧徐脈発作の病態解析
1)多段階head-up tilt試験:多段階head-up tiltをそれぞれ5分間行った。安静時、高血圧を呈したが、MSNAは年齢対象からみると正常範囲の活動性であった。60度3分経過した時、突然低血圧徐脈状態となった。2)頸動脈洞マッサージ:頸動脈洞部を仰臥位にてマッサージしたところ、低血圧徐脈発作が誘発された。(考察) 本症例では普段の圧受容器反射は維持されており、高血圧はあるものの安静時のMSNAも正常活動であった。しかし、交感神経亢進状態から突然MSNAが停止状態となってしまい、5-15分間も回復せず、MSNAの回復に伴い血圧心拍が回復することが確認された。発作は交感神経緊張状態により誘発され血管迷走神経反射に類似しているが、安静仰臥位でも発作が頻発しておりそれほどの心負荷のない状態でも発作が起こっており血管迷走神経反射の病態では説明がつかない。
結論
高齢者の起立時の自律神経機能にはアンバランスが生じている事が明らかにされた。しかし、一方で脳循環自動能は高齢者においても健常である限り84%は保たれることが示された。起立試験法について能動起立試験の方が敏感である検査法と思われるが、起立可能な対象に限られる。 皮膚交感神経も加齢とともに筋交感神経と同様な態度を示すことが明らかにされた。しかし、効果器の加齢変化については見解に一致が得られず、さらなる検討が必要であることが明らかになった。 失神の病態に現時点では、既知の病態では説明のつかない例について検討した。

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