老年者における呼吸不全に関する研究

文献情報

文献番号
199800222A
報告書区分
総括
研究課題名
老年者における呼吸不全に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 英忠(東北大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 米山武義(米山歯科クリニック)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
5,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老年者における呼吸不全として最も頻度の多い疾患は老人性肺炎である。老人性肺炎は全死亡者の第4位を占め,要介護老人200万人の直接死因として最も頻度が多い。古くより肺炎は老人の友としてあきらめられてきたが,要介護老人の増加と共に看護をいかに行った場合老人性肺炎を予防することがきでるのか世の関心を集めている。本研究では老人性肺炎は不顕性誤嚥で生じることがほとんどであることから,口腔ケアにより口腔内雑菌を少しでも減少させることによって,例え不顕性誤嚥が生じても肺炎に到らしめないと考えられるため,歯科医により老人福祉施設入所中の老年者の半数に口腔ケアを行い,他の半数には放置して肺炎発生率を中心に比較調査した。
研究方法
全国11施設に入所中の老年者423名を各施設で2群に分け口腔ケア群212名,非ケア群211名について,歯科医による口腔ケアと,歯科衛生士および介護士による毎日の口腔ケアの効果を2年間にわたって調査した。
平成8年4月に本研究が開始されたが,口腔ケアが呼吸器感染症にどの程度予防可能であるかを調査するために,全国11施設の老人福祉施設(仙台市,福島市,東京葛西,東京府中,与野市,伊豆市,静岡県掛川,浜松市,尼崎市,広島市および伊万里市の了解を得ると共に歯科医師会や個人的に協同研究者として参加した歯科医師の会合を持ち,一つの施設を2群に分け,一方には口腔ケアを他方には非ケアを行うことを開始した。インフォームドコンセントなどに手間取り,実際に開始したのは平成8年10月~平成9年3月頃であった。
開始直前の調査として,口腔衛生状態のチェック,日常生活活動度(ADL)と認知機能(MMS)を30点満点とした調査,体温などをチェックした。2群に分ける作業は不特定に行った。両群で550名を2群に分けて開始したが,その後転居したり拒否されたりして除外し,最終的に423名を2群に分けて口腔ケア群(212名),非口腔ケア群(211名)で開始した。歯科医師15人が直接口腔ケアに携わったが,その他にも歯科医師会の歯科医も多く口腔ケアは少なくとも午後1回は毎日行った。非口腔ケア群では本人が口腔ケアを行う場合もまれにあるが,放置した。毎日体温を腋下部で測定し,37.8℃以上の発熱が累積,1週間以上になったとき発熱者と認定した。肺炎の発生を調べた。死亡した時点を調べた。
結果と考察
調査開始時点での年齢はケアと非ケア群で82.9歳と82.8歳と差はなかった。ADLとMMSはケア群と非ケア群でそれぞれ30点満点中15.6±6.8(SD),15.6±6.9と9.8±8.5,9.8±9.5であり有意差はなかった。2年間での生存率はケア群と非ケア群で75.0%と65.8%で有意差はなかった。発熱者はケア群の方が非ケア群より有意に少なく(p<0.01),肺炎発生率もケア群で非ケア群より有意に少なかった(p<0.05)。ADLとMMSは両群で有意差はなかった。要介護老人200万人のため介護保険が設けられようとしているが,どのような介護が医学的にみてこれら要介護老人に必要なのかという社会の疑問には十分答えられていない。口腔ケアが何となく必要なことは理解できるが,非口腔ケア群ではどのような不利益があるのか全く研究されていなかった。本研究における2年間の調査において,口腔ケアは発熱日数を有意に下げ,老人性肺炎発生率を有意に抑制することができることを初めて証明できた。口腔ケアを行うことによって,口腔内雑菌を少なくし不顕性誤燕は生じても肺炎に到らない事が判明した。口腔ケアは認知機能(MMS)やADLも改善する可能性も指摘されているが,本研究においてその傾向はあるものの有意差ではなかった。老人看護・介護において口腔ケアを取り入れている施設はまちまちであるが,今後は口腔ケアは必需項目として介護保険においても取り上げるべきと言える。
本研究により,長年の論争であった老年者の口腔ケアは有効か無効かの判定がついたと考えられる。また,認知機能までは改善しなかった。本研究には多くの歯科医師が無報酬で,時には歯科衛生士や看護士にポケットマネーを出して,積極的に協力をしてくれた。また,米山歯科医師の全国をまわっての協力依頼には多大の労力を費やしたが,晴れて口腔ケアは肺炎を予防するために必要であるという答えがでて労力が報われたことを共に喜びたい。
結論
本研究により口腔ケアにより発熱日数が減少した(p<0.01)ことと肺炎発生率が減少したことがあげられる(p<0.05)。ADL,MMSは口腔ケア群は幾分低下を抑制し得たが,有意差はでなかった。本研究3年間において,口腔ケアは37.8℃以上の発熱日数を減少させ,老人性肺炎予防に役立つことが証明された。今後,要介護老人において口腔ケアを積極的に取り入れるげきと考えられた。平成11年3月31日現在でまだ2年に達していない施設もあり,この点ADLやMMSについては最終結果を待つ必要がある。

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