文献情報
文献番号
201315012A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模コホート共同研究の発展による危険因子管理の優先順位の把握と個人リスク評価に関するエビデンスの構築
課題番号
H23-循環器等(生習)-一般-005
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岡村 智教(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 上島 弘嗣(滋賀医科大学 生活習慣病予防センター)
- 今井 潤(東北大学 薬学研究科)
- 磯 博康(大阪大学 医学系研究科)
- 玉腰 暁子(北海道大学 医学研究科)
- 清原 裕(九州大学 医学研究院)
- 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター 予防健診部)
- 三浦 克之(滋賀医科大学 医学部)
- 斎藤 重幸(札幌医科大学 保健医療学部)
- 辻 一郎(東北大学 医学系研究科)
- 中川 秀昭(金沢医科大学 医学部)
- 山田 美智子(放射線影響研究所 臨床研究部)
- 坂田 清美(岩手医科大学 医学部)
- 岡山 明(結核予防会 第一健康相談所)
- 村上 義孝(滋賀医科大学 医学部)
- 北村 明彦(大阪府保健医療財団 大阪がん循環器病予防センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
先行研究から統合データベースを引き継ぎ、性別、詳細な年齢別に各危険因子の脳・心血管疾患の相対リスクを算出すると同時に、個別コホートの継続研究を推進する。また統合データベースを可能な限り拡大し、ビックデータでのみ検証可能なエビデンスを蓄積して、脳・心血管疾患の予防に資する。特にこの拡大データベースでは、個人のリスクと集団全体への寄与という2つの視点で解析を行い厚生労働行政上の課題に科学的根拠を提供することを目指した。
研究方法
昨年度までに統合データの拡充を図った結果、今年度は14コホートを解析可能な形式に統合したデータベース(ベースライン時の参加者数20万3980人、総観察人年:256万2256人年、総死亡数32,606人)の使用が可能となった。今年度はこれを用いて日本人の一次予防におけるエビデンスが乏しくかつ大規模データでのみ解析可能な課題を検証した。研究班会議での議論を通じて以下の6つの課題を設定した。1)降圧薬服用者と非服用者のリスクの違い、2)他の脂質異常を伴わない低HDLコレステロール血症のリスク、3)喫煙と慢性腎臓病(CKD)の複合リスク、4)脂質異常症とCKDの複合リスク、5)血圧と脂質異常の複合リスク、6)本研究を外部集団として用いた既存のリスク評価ツールの検証である。実際の作業は、課題ごとに研究分担者からリーダーを選出し、その下に所属機関を問わず集まった研究協力者等で構成された解析チームが行った。
結果と考察
解析の結果、1)非服薬者では血圧の上昇に伴い循環器疾患のリスクが直線的に上昇するが、服薬群の脳卒中では直線的なリスク上昇が観察されないこと、2)冠動脈疾患のリスクを上昇させるのは他の脂質異常を伴った低HDLコレステロール血症だけであること、3)男性では喫煙かつCDK群の冠動脈疾患リスクはCKD単独より70%高くなること、4)低HDLコレステロール血症がCKD群の生命予後の規定要因であること、5)血圧区分が高くなると高コレステロール血症の冠動脈疾患リスクが明瞭になること、6)動脈硬化学会ガイドラインの冠動脈疾患絶対リスク評価はほぼ妥当であるが、ハイリスクの上位10%については過大評価があること、などが示された。また悪性新生物については低コレステロール血症領域で肝臓がんの死亡率が高く、コレステロール測定時の肝硬変の存在など因果の逆転が示唆された。一方、各危険因子の国民集団全体への寄与を評価することは、長期的な健康づくり施策の推進に有用である。そこで年齢調整ハザード比の推定を、健康日本21(第二次)で循環器疾患の危険因子として用いられている高血圧、高コレステロール血症、喫煙の各組み合わせについて男女別に行い、危険因子有無別のイベント数から人口寄与危険割合を算出した。日本人集団で脳・心血管疾患死亡数を上昇させている危険因子の組み合わせは、男性では高血圧+喫煙が最大(16.9%)、次いで高血圧のみ(6.4%)、高血圧+高コレステロール血症+喫煙(5.4%)の順であった。一方、女性では高血圧のみが最大(8.1%)、次いで高血圧+高コレステロール血症(6.3%)、高血圧+喫煙(2.2%)であった。これにより今後、予防対策を重点的に行うべき対象者集団の特性が明らかにされた。
結論
本研究は、本邦の質の高いコホート研究の統合研究、個別研究を推進するものである。大規模データの強みを生かして単独のコホートだと検証できない個々の危険因子の組み合わせが、個人のリスクや人口寄与危険割合にどのような影響を与えているかを明らかにすることができた。これにより危険因子管理の優先順位の設定が可能となった。また本研究は、厚生労働省の健康日本21(第二次)、標準的な健診・保健指導プログラム(改訂版)の作成に際して、科学的な根拠を提供し、厚生労働行政への貢献という意味でも大きな役割を果たした。
公開日・更新日
公開日
2015-09-07
更新日
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