脳卒中急性期医療の地域格差の可視化と縮小に関する研究

文献情報

文献番号
201315005A
報告書区分
総括
研究課題名
脳卒中急性期医療の地域格差の可視化と縮小に関する研究
課題番号
H25-心筋-一般-002
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
飯原 弘二(九州大学大学院医学研究院脳神経外科)
研究分担者(所属機関)
  • 小笠原 邦昭(岩手医科大学脳神経外科)
  • 有賀 徹(昭和大学救急医学講座)
  • 塩川 芳昭(杏林大学脳神経外科)
  • 宮地 茂(大阪医科大学脳神経外科)
  • 吉村 紳一(兵庫医科大学脳神経外科)
  • 豊田 一則(国立循環器病研究センター脳血管外科)
  • 西村 邦宏(国立循環器病研究センター予防医学・疫学情報部)
  • 嘉田 晃子(名古屋医療センター臨床研究企画部生物統計研究室)
  • 青木 則明(NPO法人ヘルスサービス R&Dセンター)
  • 中川原 譲二(国立循環器病研究センター脳卒中統合イメージングセンター)
  • 松田 晋哉(産業医科大学公衆衛生学)
  • 永田 泉(長崎大学脳神経外科)
  • 奥地 一夫(奈良県立医科大学救急医学講座)
  • 小林 一広(東京消防庁救急指導課)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究代表者  飯原弘二 2013.9.1付 所属機関変更  (前所属: 国立循環器病研究センター、現所属: 九州大学) 研究分担者 青木則明 2014.1.6付 研究者辞退 小林一広 2013.9.1付 研究者交代(後任者 矢島務) 

研究報告書(概要版)

研究目的
超高齢社会を迎え、地域医療が崩壊しつつある本邦にあって、緊急性の高い脳卒中治療における医療機関の集約化、広域化と連携強化は喫緊の課題である。近年、より高度の脳卒中急性期医療を常時提供できる「包括的脳卒中センター」の整備が推奨されるようになった。高度な急性期脳卒中医療の適正な整備を計画的に施行するためには、まず二次医療圏毎に、脳卒中診療施設の脳卒中センターの推奨要件の充足度を、継続的に調査することが重要であり、その上で急性期脳卒中症例の施設集中度、推奨要件の充足度が、アウトカムに与える影響を早急に検証する必要がある。現在のところ、当研究課題について、全国レベルで体系的な検討を行った研究は国際的にもなく、地域の特性に応じた救急医療体制、脳卒中センターの人的、物的資源から見た適正な配置を、国レベルの俯瞰した視点から構築して行く上で貴重な情報を提供する。DPCデータを用いた悉皆調査は、今後広く応用されていくものと考えられ、当研究の試みは極めて重要である。
研究方法
1)脳卒中診療施設調査 
日本脳神経外科学会、神経学会、脳卒中学会の教育訓練施設を対象に、脳卒中センターの推奨要件に関する調査を行う。この調査は平成22-24年度厚生労働科学研究「包括的脳卒中センターの整備に向けた脳卒中の救急医療に関する研究」で施行しており、平成25年に実施することで、推奨条件の経時的な変化を把握する。
2)脳卒中患者退院調査
上記の平成25年度の診療施設調査に回答したDPC参加病院を対象に、DPCデータに基づく「脳卒中患者退院調査」への協力を要請する。研究に同意した施設を対象に、前年度に入院した、脳卒中に関連するICD-10病名を含む症例を抽出し、脳卒中大規模データベースを作成する。入院時より入院中の死亡または退院までを追跡期間とし、死亡率、転帰(退院時mRankin scale)、在院日数をアウトカムとする。
3)脳卒中患者のアウトカムに影響する施設要因の確定 
因子分析により施設要因(人的資源、診断機器、インフラ、専門的治療、教育研究)を確定する。患者要因(性、年齢、重症度、併存症)、施設要因がアウトカムに与える影響をhierarchical logistic regression analysisを用いて検討する。cross validationやROC analysis等によりモデルを検証する。
4)地理情報システム(GIS: Geographic Information System)から計算したアクセス時間がアウトカムに与える効果の検証
GISを用いて、患者住所と受療施設の郵便番号から搬送時間を算出、急性期脳卒中の収容時間がアウトカムに与える影響を脳卒中の病型別、二次医療圏別に検証する。
5)脳卒中医療の格差改善の効果判定
上記の情報から、脳卒中診療のカバーが不十分な地域に包括的脳卒中センターを設立した場合の治療か以前効果を、心筋梗塞におけるIMPACT modelを用いて、絶対死亡者数減少として医療圏分類ごとに算出、脳卒中医療の格差改善の効果判定の指標とする。
結果と考察
1)先行研究の中で施行した調査結果より、包括的脳卒中センタースコア(CSCs)は脳卒中介入治療のhospital volumeと強い相関を示すが、CSCsには厳然とした地域差があることが示された。本年度はこの結果を論文化し(Iihara K et al. J Stroke Cerebrovasc Dis)、包括的脳卒中センターの機能と、脳卒中関連の治療件数についての追加解析を行った。
2)平成26年1月の時点では430施設が参加を表明している。現時点でデータが到着している188施設から、脳卒中61000件を含む、約26,0000件が収集されており、脳卒中を含む脳神経外科医療の可視化に向けて、解析を開始しつつある。
3)先行研究において、初年度に施行した脳卒中診療施設調査の結果と、平成23年度に施行した「脳卒中救急疫学調査」から得られた入院時死亡率との関係を、施設要因と患者要因を考慮して検討した。入院時死亡率は、全ての病型(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)において、CSCsは、入院時死亡率の減少に有意に関係した。Iihara K et al. PLOS ONE 2014。
結論
脳卒中急性期医療の地域格差の可視化と縮小にむけて、現在の脳卒中診療施設の地域格差が厳然と存在することが明らかとなった。また包括的脳卒中センターのスコアが、脳卒中の入院時死亡率の軽減に有意に関連することが明らかとなった。今後も脳卒中救急医療の質の向上に向けて、系統的なアプローチが可能となる基礎資料を提供したいと考えている。

公開日・更新日

公開日
2015-09-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201315005Z