文献情報
文献番号
201314015A
報告書区分
総括
研究課題名
がん診療におけるチャイルドサポート
課題番号
H23-がん臨床-一般-017
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
小澤 美和(聖路加国際病院 小児科)
研究分担者(所属機関)
- 石田 也寸志(愛媛県立中央病院 小児医療センター)
- 的場 元弘(国立がん研究センター中央病院 緩和治療科)
- 小林 真理子(放送大学大学院 臨床心理学)
- 田巻 知宏(北海道大学病院 緩和ケアチーム)
- 大谷 弘行(九州がんセンター 緩和治療科)
- 清藤 佐知子(四国がんセンター 乳腺科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
9,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
1)全体の約1/4を占める子育て世代のがん患者とその子どもの現状把握・支援の効果・支援体制の提言2)5年無イベント生存率が70-80%と推測される小児がん経験者の自立・就労支援の提言とこれらの情報発信を目的とする。
研究方法
1)親子のアンケート調査を半年以上の間隔で2回の変化と関連因子を探索する観察研究。2)日本版を完成させファシリテーター養成講座を開催。受講者の施設によるプログラム実施。問題点の抽出と評価。3)本研究の実践の中で最もチャイルドサポートを必要とすることがわかった臨終期における対応を検討するためにがん患者の思春期に親と死別した医療者への面接調査。4)小児がん経験者の就労困難者への聞き取り調査5)2つの就労パイロット事業の準備・展開から知る支援体制の可能性と課題の抽出。これらを踏まえて支援体制の提言を行う。
結果と考察
1)初回アンケート(親184人・子134人)について解析。14歳以下の子どもの31%、15歳以上の21%で親が癌になった体験に関連した心的外傷後ストレス症状(PTSS)を呈していた。親の病気の告知の時期が遅いほど子のPTSSは重い関連があった。経時的にみるとPedQL合計は親が高齢であるほど時間経過とともに低下する傾向で診断からの時間が経過している場合ほど子のQOLは改善している傾向であった。PedQL身体、PedQL感情は関連因子を認めなかった。PedQL学校は患者である親が高齢であるほど時間とともに学校のQOLが低下する傾向があった。子どものPTSSの経時的変化との関連因子は親が抑うつ傾向と親のPTSSであった。親の抑うつ状態が重いほど子どものPTSSは経時的に軽快し親のPTSSが重いほど子どものPTSSも時間ともに増悪した。これらより子育て世代のがん患者の中でも高齢で患者であることのストレス症状が重い患者への支援を優先して行い親の準備が整ったらできるだけ早期に子との情報共有を行うことが子のPTSSを増悪させない支援となると言える。2) がん患者の子ども向けのサポートプログラム(CLIMB);日本版を完成させ実践を繰り返しこのプログラムの効果を米国に先駆けて本研究班が検証した。子のPTSSは優位に軽減し(p=0.007)、親の家族・社会面(p=0.024)、感情面(p=0.027)、機能面(p=0.029)、スピリチュアリティ(p=0.042)について優位に改善した。このプログラムのファシリテーター養成講座は合計76人が参加し25年度は全国5施設で開催できた。健康増進が目的の構造化されたこのプログラムは容易に開催が可能である。3) 中学・高校生の時期に親との死別を経験した医療者への半構造化面接;子どもには子どもなりの生活パターンがあり詳細な状況がわからない中で疎外感や孤独を感じていること、そして非日常的な状況に怖さも感じ自立前の親との死別体験はその後も大きく影響を与えていることがわかった。対応に困難を感じている医療者の昨年の面接結果を踏まえ親と死別後の子どもへの支援の在り方は今後検討するべき課題と言える。4) 就労困難者への聞き取り調査;負の体験を繰り返すうちに支援との関係が立たれて孤立していた。彼らの抱える問題は既存の自立支援センターを利用することで充分効果が期待できるものと考えた。また、親の意識改革も必要であると考えさせられた。経験者を保護すべき存在と見なし続けることで1人前の社会人としての自立を阻害する可能性が高いと思われた。がん診療拠点病院とがんの子どもを守る会が連携を深め晩期合併症のさまざまな局面から既存の法的支援を受ける可能を個々に検討し、情報発信していくことが必要と考えた。5)2つの就労パイロット事業;就労パイロット事業は経済的な基盤を維持することが困難であるので、既存のハローワークとの連携を深めていくことが1つの方法として考えられた。また、小児がん経験者の晩期合併症を理解したうえで配慮し職業訓練指導を行うことで雇用者の一部は26度から新企業へ就職が決まるまでに成長するなど有用であった。
結論
子育て世代の癌患者の支援は子どもを視野に入れることが不可欠である。ストレス症状を抱えた高齢の子育て世代のがん患者は最も支援を必要としている存在と言える。親の体制を整えできるだけ早期に子どもと現状の情報共有できることが望ましい。そして、治癒を勝ち得た小児がん経験者の自立・就労支援体制の提言に向けて本研究班でのアンケートを踏まえた2つのパイロット事業での経験と聞きとり調査から既存のシステムの利用の可能性と課題のそれぞれを明らかにした。
公開日・更新日
公開日
2015-09-02
更新日
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