頭頸部腫瘍に対する強度変調放射線治療の確立と標準化のための臨床研究 

文献情報

文献番号
201314007A
報告書区分
総括
研究課題名
頭頸部腫瘍に対する強度変調放射線治療の確立と標準化のための臨床研究 
課題番号
H23-がん臨床-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
西村 恭昌(近畿大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 柴田 徹(香川大学 医学部)
  • 田村 昌也(近畿大学 医学部 )
  • 石倉 聡(順天堂大学 医学部)
  • 峯村 俊行(国立がん研究センター)
  • 板坂 聡(京都大学大学院 医学研究科)
  • 秋元 哲夫(国立がん研究センター 臨床開発センター)
  • 古平 毅(愛知県がんセンター 中央病院)
  • 村上 祐司(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院)
  • 小口 正彦(がん研究会有明病院)
  • 中村 聡明(京都府立医科大学)
  • 伊藤 芳紀(国立がん研究センター 中央病院 )
  • 土屋 和彦(北海道大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
15,487,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 強度変調放射線治療(IMRT)は、最新の高精度照射法の一つであり、晩期障害を低減して局所制御を高めることが期待されている。しかしながら、わが国では標準的なIMRT照射法は確立しておらず、その有効性と安全性を明らかにした多施設臨床試験もわが国ではまだなされていない。本研究では、症例ごとの個別化が重要で標準化が困難な頭頸部腫瘍を対象に、上咽頭癌、中咽頭癌、および頸部食道癌と異なる原発部位別に3つの臨床試験を行うことによって、two-step法(治療中にIMRT治療計画を変更する)およびsimultaneous integrated boost (SIB)法(部位により異なる1回線量と総線量を照射する)の2つのIMRTの有効性と安全性を評価することを目的とする。  
研究方法
 「上咽頭癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)の多施設共同第II相臨床試験(JCOG1015)」は、stage II-IVBの上咽頭癌を対象に、two-step法IMRTで1回2Gy、計35回、総線量70Gyまで照射し、同時化学療法はCDDP 80mg/m2, day1を3週ごとに3コース、その後補助化学療法:5-FU 700mg/m2, day1-5, CDDP 70mg/m2, day1を4週ごとに3コース行う。IMRTの品質保証として、参加施設に放射線治療計画の線量分布計算精度の第三者評価を義務づけ、登録開始前に複数の模擬症例を用いてIMRT治療計画の事前練習(ドライラン)を実施した。また、Image-guided Therapy QA CenterのITC remote review toolを用いて、研究事務局で全例の治療計画と線量分布を確認している。
 「頸部食道癌に対するIMRTを用いた化学放射線療法の多施設共同第II相臨床試験(JROSG 12-1)」は、stageⅡ-Ⅲ、あるいは鎖骨上窩リンパ節転移のみにてM1 となる頸部食道扁平上皮癌を対象に、肉眼的腫瘍体積(GTV)には60Gy/30回、予防照射領域には48Gy/30回照射するSIB法IMRTを用いる。化学療法は、5-FU 700mg/m2, day1-4, CDDP 70mg/m2, day1を4週ごとに2コース同時併用する。西村班と日本放射線腫瘍研究グループ(JROSG)消化器委員会の合同試験とすることとした。
 「T1-2N0-1M0中咽頭癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)の多施設共同非ランダム化検証的試験(JCOG 1208)」は、T1-2N0-1M0の中咽頭癌を対象に、予防照射線量の減少および照射範囲を縮小したtwo-step法IMRT、照射単独にて予防照射線量は46Gy/23回、総線量は70Gy/35回とするプロトコールを作成した。
結果と考察
 JCOG1015は、平成23年5月から症例登録が開始され、平成26年2月までに58例(77%)の症例が登録された。平成25年度は年間予定数を越える23例の登録が行えた。本研究ではIMRTファントムを参加予定施設に送付、線量測定し、全13施設において線量測定値に対する線量計算の相違は±3% 以内で許容範囲であり、症例登録可能施設と認定された。また、ITC remote review toolを用いて、研究事務局で全例の治療計画と線量分布を確認し、IMRTの品質保証を行っている。これまで低Na血症、高尿酸血症、呼吸困難、眼内炎、敗血症など6例の比較的重篤な有害事象が報告され、これらを予期される有害事象に追加、減量規準、休止規準を定め、プロトコール改訂を含む適切な処置を行った。平成25年10月、JCOG効果・安全性評価委員会による中間解析の結果、試験の継続が認められた。
 JROSG 12-1は、平成25年1月にJROSGで承認され、同年2月から症例登録がはじまった。平成26年2月現在6例/44例の症例が登録された。JROSG 12-1では、これまで重篤な有害事象は報告されていない。
 JCOG 1208は、平成25年11月JCOGプロトコール審査委員会に提出し、現在最終審査中、平成26年度から症例登録開始予定である。
結論
 本研究にはIMRTを先行実施している主要施設が参加し、臨床試験における放射線治療の品質管理・品質保証の体制を持つJCOG放射線治療グループで行うことが特徴である。臨床試験の症例登録は順調に行われ、本研究を継続することによってさまざまな頭頸部腫瘍に対して、two-step法およびSIB法IMRTの有効性と安全性の評価と標準化を図ることが可能である。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

文献情報

文献番号
201314007B
報告書区分
総合
研究課題名
頭頸部腫瘍に対する強度変調放射線治療の確立と標準化のための臨床研究 
課題番号
H23-がん臨床-一般-009
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
西村 恭昌(近畿大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 柴田 徹(香川大学 医学部)
  • 田村 昌也(近畿大学 医学部)
  • 石倉 聡(順天堂大学 医学部)
  • 峯村 俊行(国立がん研究センター)
  • 板坂 聡(京都大学大学院 医学研究科)
  • 秋元 哲夫(国立がん研究センター 臨床開発センター)
  • 古平 毅(愛知県がんセンター 中央病院)
  • 村上 祐司(広島大学大学院 医歯薬保健学研究院)
  • 小口 正彦(がん研究会有明病院)
  • 中村 聡明(京都府立医科大学)
  • 伊藤 芳紀(国立がん研究センター 中央病院)
  • 土屋 和彦(北海道大学病院)
  • 岡本 勇(近畿大学 医学部)
  • 幡野 和男(千葉県がんセンター)
  • 中田 健生(札幌医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん臨床研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 強度変調放射線治療(IMRT)は、最新の高精度照射法の一つであり、晩期障害を低減して局所制御を高めることが期待されている。しかしながら、わが国では標準的なIMRT照射法は確立しておらず、その有効性と安全性を明らかにした多施設臨床試験もわが国ではまだなされていない。本研究では、症例ごとの個別化が重要で標準化が困難な頭頸部腫瘍を対象に、上咽頭癌、中咽頭癌、および頸部食道癌と異なる原発部位別に3つの臨床試験を行うことによって、two-step法(治療中にIMRT治療計画を変更する)およびsimultaneous integrated boost (SIB)法(部位により異なる1回線量と総線量を照射する)の2つのIMRTの有効性と安全性を評価することを目的とする。 
研究方法
 「上咽頭癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)の多施設共同第II相臨床試験(JCOG1015)」は、stage II-IVBの上咽頭癌を対象に、two-step法IMRTで1回2Gy、計35回、総線量70Gyまで照射し、同時化学療法はCDDP 80mg/m2, day1を3週ごとに3コース、その後補助化学療法:5-FU 700mg/m2, day1-5, CDDP 70mg/m2, day1を4週ごとに3コース行う。IMRTの品質保証として、参加施設に放射線治療計画の線量分布計算精度の第三者評価を義務づけ、登録開始前に複数の模擬症例を用いてIMRT治療計画の事前練習(ドライラン)を実施した。また、Image-guided Therapy QA CenterのITC remote review toolを用いて、研究事務局で全例の治療計画と線量分布を確認している。
 「頸部食道癌に対するIMRTを用いた化学放射線療法の多施設共同第II相臨床試験(JROSG 12-1)」は、stageⅡ-Ⅲ、あるいは鎖骨上窩リンパ節転移のみにてM1 となる頸部食道扁平上皮癌を対象に、肉眼的腫瘍体積(GTV)には60Gy/30回、予防照射領域には48Gy/30回照射するSIB法IMRTを用いる。化学療法は、5-FU 700mg/m2, day1-4, CDDP 70mg/m2, day1を4週ごとに2コース同時併用する。西村班と日本放射線腫瘍研究グループ(JROSG)消化器委員会の合同試験とすることとした。
 「T1-2N0-1M0中咽頭癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)の多施設共同非ランダム化検証的試験(JCOG 1208)」は、T1-2N0-1M0の中咽頭癌を対象に、予防照射線量の減少および照射範囲を縮小したtwo-step法IMRT、照射単独にて予防照射線量は46Gy/23回、総線量は70Gy/35回とするプロトコールを作成した。
結果と考察
 JCOG1015は、平成23年5月から症例登録が開始され、平成26年2月までに58例(77%)の症例が登録された。本研究ではIMRTファントムを参加予定施設に送付、線量測定し、全13施設において線量測定値に対する線量計算の相違は±3% 以内で許容範囲であり、症例登録可能施設と認定された。また、ITC remote review toolを用いて、研究事務局で全例の治療計画と線量分布を確認し、IMRTの品質保証を行っている。これまで低Na血症、高尿酸血症、呼吸困難、眼内炎、敗血症など6例の比較的重篤な有害事象が報告され、これらを予期される有害事象に追加、減量規準、休止規準を定め、プロトコール改訂を含む適切な処置を行った。平成25年10月、JCOG効果・安全性評価委員会による中間解析の結果、試験の継続が認められた。
 JROSG 12-1は、平成25年1月にJROSGで承認され、同年2月から症例登録がはじまった。平成26年2月現在6例/44例の症例が登録された。JCOG1015同様、ファントムでの線量測定とドライラン症例の提示を義務付けている。JROSG 12-1では、これまで重篤な有害事象は報告されていない。
 JCOG 1208のプロトコールコンセプトは、平成24年9月JCOG運営委員会にて承認された。平成25年11月JCOGプロトコール審査委員会にフルプロトコールを提出し、現在最終審査中、平成26年度から症例登録開始予定である。
結論
 本研究にはIMRTを先行実施している主要施設が参加し、臨床試験における放射線治療の品質管理・品質保証の体制を持つJCOG放射線治療グループで行うことが特徴である。臨床試験の症例登録は順調に行われ、本研究を継続することによってさまざまな頭頸部腫瘍に対して、two-step法およびSIB法IMRTの有効性と安全性の評価と標準化を図ることが可能である。

公開日・更新日

公開日
2015-09-02
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201314007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本試験におけるIMRTの品質保証として、参加施設にファントムを送付し、放射線治療計画の線量分布計算精度の第三者評価を義務づけ、また、研究事務局で全例の治療計画と線量分布を確認している。このように本研究では、放射線治療の品質管理を重視し、それを担保する医学物理士の果たす役割が大きい。「がん診療提供体制の在り方に関するワーキンググループ報告書」(平成25年8月1日)においても拠点病院に必要な人材とされている医学物理士や放射線治療専門放射線技師などのスタッフ増につながることが期待される。
臨床的観点からの成果
IMRTは先進医療を経て平成20年度から、頭頸部腫瘍、中枢神経腫瘍、前立腺癌を対象に保険収載された。このうち、解剖学的複雑性のため治療の標準化が困難な頭頸部腫瘍では、各施設が独自の方法で治療しており、辺縁再発や予期せぬ晩期障害の発生などの不利益が患者に頻発する可能性が危惧された。本研究で実施する臨床試験で得られた結果およびノウハウに基づいて照射法の最適化を行うことによって、わが国での頭頸部腫瘍IMRTの標準化・均てん化に貢献した。
ガイドライン等の開発
研究成果の一つとして、日本放射線腫瘍学会編「放射線治療計画ガイドライン2016年版」上咽頭癌の項に、本研究で実施する頭頸部腫瘍に対するIMRTのSIB法とtwo-step法の要点が記載された。また、日本食道学会編「食道癌診断・治療ガイドライン2012年4月版」放射線療法の項に、頸部食道癌などにIMRTが用いられることがあるとの記載が追加された。
その他行政的観点からの成果
「がん診療提供体制の在り方に関するワーキンググループ報告書」(平成25年8月1日)には、地域がん診療連携拠点病院の診療体制において、IMRTは集約化し効果的な配置が必要との記載がある。本研究に参加する施設は、すべて大学病院あるいはがん診療連携拠点病院であり、本研究で得られたIMRTの品質保証と実施手順は全国各地での安全かつ効果的な頭頸部腫瘍IMRTの基準となった。さらに、それぞれの地域での関連施設への連携、展開が期待される。
その他のインパクト
Springer社から、Intensity Modulated Radiation Therapy: Clinical Evidence and Technique, editors; を2015年5月出版した。半数は日本人(うち4人は本研究の総括および分担研究者)、残りは米国の研究者が執筆した。本研究の成果を含む最新のIMRTに関する教科書となった。2016年2月日本医師会健康フォーラム「最新医療・放射線、驚異の画像診断と進化する治療」にて西村が講演し、NHK-ETVにて放映された。

発表件数

原著論文(和文)
17件
原著論文(英文等)
57件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
114件
学会発表(国際学会等)
41件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件
市民公開講座など

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nishi T, Nishimura Y, Shibata T, et al.
Volume and dosimetric changes and initial clinical experience of a two-step adaptive intensity modulated radiation therapy (IMRT) scheme for head and neck cancer.
Radiother Oncol , 106 , 85-89  (2013)
原著論文2
Matsumoto K, Okumura M, Asai Y, et al.
Dosimetric properties and clinical application of an a-Si EPID for dynamic IMRT quality assurance.
Radiol Phys Technol , 6 , 210-218  (2013)
原著論文3
Kawakami H, Okamoto I, Terao K, et al.
Human papillomavirus DNA and p16 expression in Japanese patients with oropharyngeal squamous cell carcinoma.
Cancer Medicine , 2 (6) , 933-941  (2013)
原著論文4
Nishimura Y, Hiraoka M, Koike R, et al.
Long-term follow-up of a randomized phase II study of cisplatin/5-FU concurrent chemoradiotherapy for esophageal cancer (KROSG0101/JROSG021).
Jpn J Clin Oncol , 42 , 807-812  (2012)
原著論文5
Hanai N, Kawakita D, Ozawa T, et al.
Neck dissection after chemoradiotherapy for oropharyngeal and hypopharyngeal cancer: the correlation between cervical lymph node metastasis and prognosis.
Int J Clin Oncol , 19 , 30-37  (2014)
原著論文6
Kawamorita R, Monzen H, Okada W, et al.
Novel anisotropic margin calculation based on the cumulative frequency distribution of uncertainties in the clinical target volume.
OMICS J Radiol , 4 , 202-  (2015)
doi:10.4172/2167-7964.1000202
原著論文7
Kodaira T, Nishimura Y, Kagami Y,
Definitive radiotherapy for head and neck squamous cell carcinoma: update and perspectives on the basis of EBM.
Jpn J Clin Oncol , 45 , 235-243  (2015)
doi: 10.1093/jjco/hyu209

公開日・更新日

公開日
2015-04-30
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201314007Z